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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第二章 スキャナー星系
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24.変化



 バターを保管場所に取りに行くのがめんどかったから代わりにマヨネーズをフライパンにひいて、マックスボタンをポチッてファイア。タマネギと言っても過言ではないナニかを手掴みで投入してきつね色になるまで炒める。きつね色って何色? いや分かるけど、茶色じゃダメなの? 私の思う茶色より薄いのか濃いのかどっち? まぁ確率二分の一なら勝ってみせるわよ(※茶色も入れると三分の一)。

 火口に飛び込んだきつね色のカタマリに、鑑定結果は小麦粉だったはずの宙賊のアジトからパクった白い粉を振りかけ、異臭が漂ってきたころに液体に戻す意味はないと判断した粉末ミルクを投入。ふう、手順その一で気付いて良かった、コレじゃない。

 フライパンを持ってリビングを歩き、背丈を越える窓を開けてサンダルはいて庭の片隅に謎の何かを捨てた。


 「姐さんっ! いくら姐さんでも食べ物を粗末にしたら許さないっス」

 「あら、貴女にはアレが料理に見えたの?」

 「半魚人用の罠っス」

 「そうよ。ここにはあんなのいないから庭の肥料にしたの。なにも粗末にしてないわ」

 「そーなんスね。早とちりしちった、すんませんっしたぁ」

 「分かればいいのよ」


 セーフ。全てを犠牲に戦闘特化したオンナ、それが私よ。分かっているけどたまに何かの間違いで料理できるようになっている気がして確認したくなるだけのこと。でもここまで下手なのはレシピを指示するエクステがバグっているせいに決まってる。きっとそう。


 モイスチャーにブツを入れてチン、モイチンしたらグラタン完成。コイツもたまに失敗して謎の何かを登場させたらもう少し可愛げがあるのにねぇ。間違いの起きない科学なんてツマンネ。

 シーバ、アビャーナ、アドラーも自分の食べたいものをモイチンしてリビングでお昼ご飯。連合軍を潰してからは一月ほど宙域は静かになった。その間、シミュレーターで訓練に明け暮れている。身体にGがかからない以外は極めてリアルな戦場を体験できる設備だから、パイロットの卵も腕がぐんぐん上達する。Gがかかるようには出来ないのか? 出来るけど、そこまで手間暇かけたゲーセン作るなら実機に乗れよ、てツッコミでもうええわありがとうございましたでしょ。

 私もロボットのコクピットを模した席に乗り、設定したミッションを遂行する。砦に夜間の奇襲とか、倍の戦力を相手に拠点防衛とか。戦況を俯瞰するアビャーナから送られるデータを脳内に映しながらシーバたちと連携する。新米とはいえシーバたちもさまになってきたかな。神経の形成は早くても半年はかかるから、生身のほうはまだ無理はさせない。


 最近はそんなふうに個人的な訓練だけは厳しく、あとはおチビちゃんたちを中心にまったり過ごしている。今日も今日とて一汗かいてみんなでランチタイム。

 

 アテナの居住区にある私の家は小さめな一軒家を選んだ。屋敷とかは掃除しなきゃって圧がストレスだから嫌い。広いとバスティンが常駐しそうだし、プライベートな時間は狭い部屋でゴロゴロしたいわね。

 といっても大抵誰かしらそばにいるのはなんなのか。私もトレーニング以外はショッピングしたり食べ歩きしたり配信観たりおしゃべりくらいしかしないから全然いいけど。あ、久し振りに愛車のハムスターに乗ってとばしたいなぁ。アテナも居住区以外は無重力だし、ということは。


 「そろそろ地上に降りて観光しようかな」

 「ネットで調べた感じ、アッチとはスゲー違いそうっスね」

 「ああ、私も見たことある。カダナだっけ、アッチは森とか砂漠とか映画みたい。ま、私はコロニー育ちだからなんでも新鮮だけど」


 エドゥー星系は滑稽な話ではあるけど、文明の恩恵に与っているくせに自然崇拝な価値観が蔓延していた。虫除け装備が万全な山小屋に泊まってアウトドアの達人気取りみたいな。アッチの軍あるある、入隊してすぐにサバイバル演習で虫だらけの現実を味わって辞める人いがち。

 ただまぁそんな環境だから、惑星全体が見た目だけは自然豊かな色彩に溢れていた。対称的に人の住む場所は、コンクリートの都市だの西部劇っぽい田舎町だのどれもジオラマっぽいけど。


 「コッチは寒い環境のせいかしら。快適な地下に世界が広がってるみたいね。どこの国も地底湖というかほぼ人工の海を作って水質浄化と養殖とか、ある意味カダナの正反対、全部加工していて面白そう」


 そして地上は雪と針葉樹の森と防蝕加工にテカる鉄とコンクリの基地だらけという、一番ベタなSFっぽいかも。あとは地下から伸びた無数の煙突から煙が上がるスチームパンク、とかついていたら絵面最高なのにそれはないのねもったいない。


 「どこの国も野菜愛を感じる星人性も考察すれば面白そうですわね」

 「その星人性ってハッキリ分かるもんスか? なんつーか胡散臭ぇっつーか」

 「イニシエの血液型性格判定みたいなもんよ。ちゃんと調べたらデマだけどありそうな気がするってやつ」

 「あくまで大雑把な雰囲気の話だろ。私は別に野菜好きじゃないし」


 もともと地球が極端だったのよね。ひとつの星に多様性を詰め込みすぎ。唯一絶対神を崇める広域宗教がふたつとか、もうそれ水掛け論がしたいようにしか聞こえない。現代? だから人類が生存する星系がいくつもあるのよ。恒星との距離とか水とかある程度整った星があればテラフォーミング可能なんだし、思想の違いから殺し合うくらいなら似た者同士だけで新天地に行け、て。行った先が平和かどうかは分かりきっているけど。だからいわゆるガチ勢のいない私たちの星系は宗教に緩い。クリスマスやお経が一応常識の範囲とはいえ、知識の大元がアニメとかチャラい。


 「エドゥー星系に比べて血気盛んだとは思うけどね。宙域を平和にしたら地上が荒れまくっちゃって、元気よねー」

 「複数の正規軍と宙賊が組んで襲って返り討ちの動画は星ごと絨毯爆撃でしたね」

 「え、アッチの革命や滅亡騒ぎは荒れたうちに入らない? 震えるっス」


 流石に王家所有の宇宙戦艦投入はやりすぎじゃん? だから公開を躊躇っていた映像も含めて思いっきり暴露したった。ひょっとしてエスキモアは宙賊ごっこが流行っているのかしら? てコメントを添えて。そしたら下界は今、どこ見ても準戦争状態の緊張感に包まれている。

 ちなみに暴力的に荒ぶっているのは軍が主体であって、庶民はデモを起こしたりネットに荒々しい書き込みをするくらい。例えば商店街を襲う暴動とかはない。地球ではよくあったんでしょ? 貴族や政府が悪いから自分は近所の店から略奪しても許されるとか知能が終わってるよね。現代はそういう害虫は人間扱いせず殺処分だから、庶民はそうそう道を踏み外さない。コリアンテがそうだったように、もともと無法なスラムはともかく、暴動が起きても攻撃対象は基地とかになるわね。

 そして庶民がそれほどモラルが高いと、宙賊に転職した王侯貴族が許されるはずもなく。


 「大国は軒並みトップが代わりそうですね」

 「宙賊の被害に遭っていた小国はここぞとばかりに正義を語ってちょっと怖いっス」

 「まぁ私掠を許可という形で海賊を利用したイングランドも最終的には戦争になったし、ここまで大っぴらに宙賊と関わってさらされてただでは済まないよねぇ」

 「ボスに勝てるつもりで無茶したのか」

 「正確には勝たなきゃいけない、かな」

 「分かんねっス」

 「国家が個人に敗北宣言なんて絶対にしないし出来ないのよ。ルールありの地上はまだ負けても言い訳出来るけど、ルール無用の宇宙で最強のはずの戦艦をぶつけても私に負けて、そのうえ暴露された。これ、由々しき事態なわけ」

 「うーん、分かんねっス。そもそもぶつけなきゃ良かったのに」

 「それほどアテナは魅力的なエサだったのでしょうね」

 「そこは分かるけど、なんつーか、愚かっスねー」

 「フフフ、愚かではあるけど、あまり相手をナメちゃダメよ?」


 一同キョトン顔。まぁ元王族のアビャーナもまだ青くて分からないか。エドゥー星系は平和に比例して無能が多かった。当然、戦争だらけのコッチは甘くない。全部裏があると疑ったほうがいい。少なくとも、相手を過小評価して負けるほど恥ずかしいものはないわね。


 「大国の立場で考えてみましょう。今までは宙賊を使ってライバル国を妨害しつつ、小国から搾取していた。私のせいで出来なくなった。だから諦める? んなわきゃないじゃん」

 「打開策があるのですか?」

 「ボスを倒すには……、反応弾連発とか?」

 「いや無理に私を狙わなくてもいい。公に認めることはなくても、宇宙にいる私はもう倒せないって諦めたでしょうね。私はいったん無視よ。ヤンキーの喧嘩じゃあるまいし、国家VS私の構図から視野を広げてごらん」

 「まさか、ルールを作る?」

 「アビャーナ正解。スポーツと同じね。勝てなくて不満があれば自分たちに有利なルールを作ればいい」


 なんだっけ、スキー板の長さ制限とか、バレーボールは蹴ってもオッケーとか、ドーピングの線引きとか? 明確にアウトとは言わせないビミョーな改変するのがスポーツよねー。政治も同じ。


 「大国は宇宙開発でリードしているというアドバンテージがある。そこを活かして地上の兵器を最新形態にアップデートしよう、というルールに変えたらどう?」

 「小国は戦争外交で不利になり続ける。でもそんなことをしたら被害が……」

 「もちろん庶民は巻き込まない、軍人同士の戦争という条件の範囲よ。さらにこれなら私が地上に参戦した時、宇宙と違って数の力も利くから勝算は高そうとか」

 「おぉー汚い、大国汚いっス」

 「まぁその展開は読んで兄さんたちに相談済みだから任せるとして、この方針の問題点はコストなのよね」

 「ですね。そもそも旧式の兵器使用のルールは安上がりだからという面がありましたし」


 それな。現代の戦争は死人が出るだけのスポーツに変わった。負けたら国が滅ぶかも、という緊張感は消えた。いやもちろんトップはボロ負けしたら首が替わることもありえるから、ボロ負けしていいとはならないけど、破産しそうなくらい防衛費につぎ込む必要はなくなった。

 所詮勝ち負けを楽しむゲームだから、戦争に金はかけない。年に一、二回の軍事演習の延長で消費する行事、というノリだからプラモデル感覚で量産できる旧式を使うことがレギュレーションだった。そこを変えたら? 当然金がとんでもなくかかる。金のある大国がより優位になる利点はあるけど、それでも予算オーバーは痛いでしょうね。どうクリアするのやら。


 「ボスに勝てなくてそこまで変わるもんなのか」

 「私はただのきっかけ。ルール改変の話はもっと前からあって、今回の宙賊問題をうやむやにする意味とかもありそう」

 「噂とかあったんスか?」

 「そうじゃなく、前兆はずっとあったのよ。例えばドレスアームズ、ロボットの立ち位置っておかしいでしょ。足場のない宇宙で二足歩行のロボットが使われるってふざけてんの?」

 「あー、そこはホラ、ロマンってやつじゃないんスか?」

 「フフフ、プー兄さんのようにそういう貴族は多いけどね、正解はもっと低俗よ。先日アビャーナの兄を戦場で撃ったけど、アレ、すんごいイラっとしたのよねー」

 「? 確かにそんな感じに見えましたけど、なにか理由でも?」

 「ロボットは基本的に貴族の乗る高価なおもちゃだから、戦車よりは頑丈に作られている。とはいえ、対地攻撃する戦闘機の絨毯爆撃に耐えられるわけないじゃん。半径数百メートルが消失するレベルはダメとか、一撃の威力に制限はあっても、直撃すれば戦艦クラスをワンパンできる爆撃に三両も耐えてベイルアウトってズルしてたでしょ。そのあとのパラシュートも。宇宙で使う気ないって少しは隠しなさいよ」

 「あー、そーいうことっスか。自重なしでも許される宇宙用って言い訳で、自分たちだけは火力を抑えた地上の戦争をしていたと。生き残りやすいように。貴族ずりぃー」


 そもそも宇宙用の戦闘機にベイルアウトがないしね。ブレーキなしに超高速でどこまでも飛んでいく誰も見つけてくれない確率の極めて高い脱出。酸素の循環は大丈夫だけど、だからかえって餓死するまで生き延びて星に引かれて突撃する状況って、普通に発狂するっつーの。


 「そう。そのズルさから、いずれ地上の戦争はロボットを多用とかって変わるかも、くらいに予想していたんだけどね、コッチの星系で量産型なんて知っていよいよその時がきたな、て思ってたわけ」


 自爆の件もそうね。量産型って言っちゃ悪いけど安物なのに、自爆を仕込んでまで隠すなにがあるのやら、って怪しかったでしょ。アドラーの乗ってた機体を回収して分析したプー兄さんは答えを知ってるっぽい。いや兄さんはそれ以前からなにか知ってるっぽい。


 「私がいろいろやらかしたことは認めるけど、私ひとりに動かされるほど世界は狭くないわね。誰もがなにかを考えて動いているのだから、先を読むのは難しい。地上の騒ぎはまさに錯綜ってやつ。次はどこがどう動くのやら」


 言ってるそばから食べ終えて乱雑なテーブルの上にモニター、物はないからモニターではないのか、映像が出現した。ホログラムでもないこれの仕組みどうなってんだろ。


 『らっきょ国で面白い事件発生だ。見てみろ』


 これまた仕組み不明などこからかプー兄さんの声が。らっきょ国ってどこだっけ? もうなにがどこやら。すっかり兄さんの奇行に慣れた娘たちも特にリアクションもなく私の隣りに集まって映像に見入る。

 映像はニュース風。まばらに雪化粧されたコンクリの塀と鉄の城塞から幾筋かの煙が立ち上り、入口周辺に数十両のロボットが整列していて、一両だけカメラ寄りに近付いていた。下に空気を噴射して浮いて移動するフロートってやつね。珍しいけど雪上が多いこの星では有効そう。今は動力を切って騒音は聞こえない。

 いくつも報道陣のカメラが向けられているのか、微妙に側面斜め下から撮られたロボットからマイクオンで女性の鋭い声が響いた。


 『我が名はナハシュ・セルピエンテ。コズキラーノ公爵家所有のオーシクラ基地は私と私に従う臣下たちが落とした。セルピエンテ辺境伯家の汚名をそそぐため、亡き父と弟の無念を晴らすため、コズキラーノ公爵、貴様を討ち取る。基地を奪い返しにかかって参れっ』


 現場の記者が興奮気味に早口で事情をまくしたてているけど、あまり頭に入らない。そうそう、貴族はこういう戦いがあるから面白いのよね。きっと公爵とやらを暗殺するのは簡単だけどそれはしない。正々堂々筋を通し、誇りを懸けた全員本気の殺し合い。


 この女も気に入った。ニヤニヤしちゃう。





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