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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第二章 スキャナー星系
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22.浪漫



 惑星エスキモアの周辺は各国のテリトリーになる。衛星軌道上はどの国もSS、宇宙ステーションを設置できるルールになっているけど、そこから離れると宇宙開発の進む大国が主権を持つ宙域に変わる。一応碁盤の目のように公域の道を設定しているからどこの船も外と行き来できるけど、不用意に立ち入れない空間というプレッシャーが人の住む惑星周辺には張り巡らされている。


 だからまぁ、宙賊にコッソリ各国の軍人の混じった大連合とやらは、あみだくじのように公域をウネウネ曲がりながらアテナを目指している。軍人が領域侵犯したら問題なのは分かるけど今じゃないでしょ賊が法律守るなよ、「あんたスカート丈が膝上とかいいと思ってんの?」とか校則に詳しい不良を想像して可愛いじゃない。他所のルールもプレッシャーも知らないし無視する私のほうが悪人みたいで居心地悪いったら。


 『ボス、レーダーに入った。いつでもいける』


 アステロイドベルトというほどでもない岩石群は散歩中に羽虫の群れに顔を突っ込むくらいの割合で漂っているけど、そんな宇宙の物陰にステルスも使って潜伏中のアドラーから通信が入り、私は確認した。


 [シーバ、他の娘も、大丈夫?]


 『いけるっス』『『『いけますっ』』』


 気合い十分ね。その元気だけで合格。私は発破をかけた。


 [みんなのドレス、お披露目したれ]


 私はひとり別の場所に待機しているから見えないけど、状況は目に浮かぶ。遥か先から進軍中の群れに、進路上を塞ぐ形でポジショニングして、九両のドレスアームズが肩を並べてガトリングレールガンを構える。

 アテナが保有していた量産型だから見た目は同じだけど、中身は兄さんたちが交換と改造済み。癖のない通常二脚と両腕、シンプルな人型。縮尺の違いに慣れるのが少し難しいけど、操縦は一番しやすい。地上の一般兵の標準装備、Gスーツのような人工筋肉に強化外骨格を貼り付けた、いわゆるパワードスーツってヤツがあるけど、操作感はそれの延長になる。だからシーバたちも三日の慣熟訓練でものにした。

 機体はもっと前から兄さんたちに頼んで用意してもらっていた。始めからシーバたちにはロボットに乗ってもらうつもりだったから。

 戦車や戦闘機なんかは無理。乗りこなすために何年かかるのやら。

 そして戦闘も、撃ち合いとかまでは期待していない。たった三日で出来るようになったら職業軍人いらんわ。安全な位置から撃ちまくれ。当たらなくていい。まずは撃ちまくれ。


 古来より戦争の死亡率が最も高いのは初陣になる。

 例えば入学式に壇上に上がろうとしたら右手と右足が同時に、ってクロマニョン人にもウケそうな色褪せないあるあるだけど、この意味分かる? 人は、緊張の度が超えると普通に歩くことすら難しくなる生き物ってことよ。そして普通に生きてて体験することはない戦場、膨大な殺意が渦巻く殺し合いの緊張は想像を超える。体験しなければ分からないし、初体験で平常心を保てる人がいたら確実にサイコパスと言える。頭おかしい。狂気に順応するため、古来より戦場に麻薬はついてまわる。スポーツ化した現代は少しはマシになっているとはしても、殺し合うことに変わりはない。

 呼吸すらままならなくなるから初陣の死亡率は高く、だからシーバたちにはまず空気に慣れてもらう。


 ちなみに私は軍属だったころに宙賊退治で実戦は経験済みだから平気でいられる。それがなくても長く軍人やってたらパニクることはないけど。『アテンションプリーズ、当機の機長です。この度は搭乗ありがとうございます。さて、ワタクシ、恥ずかしながら墜落は初めてなので各自頑張って下さい。ファイっ!』とか言われたらパラシュートを背負う前にコクピットに殴り込みに行きそう。


 まるで星雲が吐き出したかのような遠方からの突然の弾幕襲来にパニクる宙賊。FCS、火器管制システムは宇宙ではあってないようなものだけど、照準は補正されてるから素人の射撃でも移動軸が同じ、つまり偏差がなければ当たる。あくまで初回だけですぐに全弾外れるけどそれでいい。さりげなく混じってるアドラーが次々仕留めるし。きっとシーバたちは顔を真っ赤に大興奮して、仕組みは知らんけど銃身冷却用の重水の煙を噴き出してドゥルルルって撃ってるんでしょうね。ランドセルのように装着するドラム缶式弾倉を数珠つなぎにして撃ち放題プランにしてみたし、ハッピートリガーになっちゃうかも分かるぅー。


 『あークソ、散開だ散開、横に移動してりゃ当たらねー』

 『違ぇっ、スナイパーが混じってる、ウチの隊長がやられた』

 『っざっけんな、公域でぶっ放してくるとか正気じゃねえ』

 『マジだ、おいおい後続に民間人いるとか考えねぇのかよ』


 [だから賊が法律守るなっ]


 思わずツッコミながらマモちゃんで突撃してしまった。味方の射線はレーダー上に映してあるからフレンドリーファイアの心配はない。映らなかったとしても、当たったらとんでもない低確率だけど。二階から目薬どころじゃない、雲の上からボールを落としてストリートバスケのゴールに入るくらい。


 『単騎で奇襲?』

 『気をつけろ、例のブルーエンプレスだ』

 『サンモニアピーマン国の宙域からって……』

 『マジコイツらやりたい放題かよ』


 他国の宙域に隠れて公域や他国の宙域を通る民間人を襲うのがお前らの手口じゃんなんで私が非難されるのよっ。あといい加減、推し野菜の名しか頭に入らないのよー、て叫びてぇ。モロヘイヤとか絶対渋い国名もあるはず後で検索してみよう。


 ざっと二百機近くはいた集団が初撃で三十は潰せた。それでもまだ三次元レーダーに光点がうじゃうじゃと。私は敵機ではなく集団の中央の空間にマルチミサイルを発射した。分裂して数秒後に自動爆破するから迎撃されなくても広範囲に煙幕とジャミングを散布する。

 煙幕の役割はレーザーの無効化だけど、他にも、というか元は視界の遮断にある。超高速の宇宙戦で肉眼なんてほぼ意味はないけど、分かっていても目で確認したがるのが心理ってものよね。

 集団戦、特に少数で多数と戦う時は分断と各個撃破は基本中の基本になる。戦略シミュレーションゲームですら常識か。ただ、意外と実践は難しい基本といえる。


 一応選りすぐりの軍人が参加しているから多少は手強い。宇宙で流れ弾なんて気にするだけ無駄と割り切って囲んでくる連携は玄人っぽい。宙賊なんて銃を握って一般人にカツアゲするチンピラと大差ないから、戦闘ではなく作業になるけど、軍人が相手だったら気が引き締まる。アドラー? 彼女は戦い方からもうおかしかったからね。最初から宙賊のカテゴリーにいない。元軍人の背景も相まって、時代劇で破落戸(ごろつき)に先生と呼ばれる用心棒みたいな立ち位置でしょ。


 とはいえシーバたちの弾幕を意識して散開しながら私を撃っても当たらない。狙って当たるならアドラーに倒されてるっつーの。数秒に一機かそれ以上のペースで撃墜していくと、宙賊らしき連中からは退却の声が上がった。それは分かるけど、軍人は黙って囲もうとし続ける。なんか妙ね。ひょっとしてこの辺り一帯に反応弾を使おうとしてない? 味方もろとも私を消す。まともに勝つ方法はそれくらいしかない、とか考えてそう。

 まぁ当たらないけど。コッチは秒速十キロメートル前後で動いているんだから、撃たれた後から回避行動をとっても間に合う。あと宇宙って向かい風に立ち向かう機動さえしなければ、爆風に乗ってほぼ同じ速度で吹き飛ぶからダメージないしね。たんぽぽの綿に息吹くみたいなもんよ。爆発系は直撃以外意味ないない。


 一応警戒はしつつ撃墜していって数分後。それは来た。


 『ラッテ! レーダーにマーカー入れた。超重力発生、来るぞっ!』


 珍しく興奮したプー兄さんから意味の分からない警告がとんできて、とりあえずレーダーが赤い輪の波紋で示すポイントに連動したコクピットのカメラを見て、シンクタップのピンチアウトで拡大すると、空間が揺らめき、突然白銀に輝く戦車みたいな兵器が出現した。宇宙は縮尺が把握できないからカメラに表示されたデータを見ると、全高約二百四十メートルってハァ? 頭がバグりそうな情報だけど、グリンカンビのようなどこかの王家の宇宙船かしら。おっとそれより。


 [今のはなに?]


 『クックック、あれが星団中で噂された、まだ誰も成功しなかった短距離ワープ技術だ』


 マジか。普通のワープは大昔からあった。ワープゲートなしでも跳べた。まぁそうじゃなきゃどうやって数万光年先にゲートを設置するんだよって話だけど。

 出来たは出来たけど、怖い欠点があった。座標が安定しない、という命に直結する欠点が。かの有名な石の中にいる、とはならないけど、近くにブラックホールや太陽オワタ、くらいは高確率でありえるギャンブルが初期のワープだった。私に原理なんて分かるわけないけど、どうやら重力に引かれやすい性質があるらしい。技術の進歩に合わせて危険度は下がりつつ、そういう冒険を超えてこんにちのゲートによる安定した航行が実現するわけだけど。

 そして近距離ワープは……、ゲートなしだから安定しないのは当然として、出来たら()()だよね、という技術でもある。

 普通の使い方としても失笑はされそう。例えば自宅でくつろいでいるとして、リビングから寝室に行きたいと思ったとして、リビングのソファに寝転んだままの自分の身体からシュゴゴゴとジェット噴射されて身体が浮いて、家全体がウィーンガシャ、とかカクカク動いて、噴射が終わって着地した自分の身体はベッドの上、くらい頭が悪い。お前以外が動くんかいお前が歩けや、と総ツッコミ間違いなしよね。すさまじいコストを払って近距離を移動してだからナニ?

 そして最悪の使い方はとっくに考えられている。対消滅弾や反応弾を近距離ワープさせたら敵はお手上げ。少なくともSF映画と違ってこの世界では個人の宇宙船が簡単にワープ出来ることは、技術的に可能になっても実現はしない。個人が船に爆弾積んで王宮でも軍事基地でも瞬間移動できる世界がどうやったら持続可能なの? 


 そういう笑い話で片付けていた技術が実現しちゃったかぁ。いやまぁ悪用の心配はしないけどね。国家が保有する世界が滅ぶ技術なんていくつもあって、今目の前でひとつ増えただけのこと。自重なしの宇宙だから使ってきたんだろうけど、やっぱり冷静に考えたらだからナニ、のような。


 『クックック、これがらっきょ王家の宇宙戦艦ドレッドノート。船体全てが鏡面装甲でレーザー反射。厚さ二十メートル超えの螺旋組成タングステンによるハニカム構造で実弾系も跳ね返す。そしてあの主砲、あれこそがロマンだっ! 重粒子に重力を付与して加速器を巡り、光速まで高めて削り取る範囲攻撃。試作に成功した世界唯一のメガ粒子砲、さあっ、俺に見せてみろぉぉ』


 ああそっかそっか、メガ粒子砲とウォーターカッターって仕組みは同じなのか。闇の深い宇宙に目がチカチカするミラーボールみたいなうっとおしさもあっていくつかツッコミが頭をよぎるけどひとつだけ言わせて。


 [船名カッコイイわね]


 そっちを国名にしてほしかった。いや宇宙戦艦らっきょもヤだな。なんかホントにらっきょうに見えてきた。平らにして二枚重ねたような。


 『だろう? お前もロマンが分かってきたか』


 地面はないけど地平の彼方から巨大らっきょにシーバたちの弾幕が降り注いだ。流石に止まっているに等しい大きな的は当たる。雲の上からボールを落として陸上競技場に入れるくらい。

 カメラで拡大して観察すると、巨大らっきょはびくともしないけど、表面は弾けて破片がキラキラ舞っている。

 うわぁ。高級車に指輪がこすれて傷つけちゃった気分。ロマンとは賢さの対極、採算度外視でもある。ただでさえ兵器って金が溶ける淡雪なのに、『ボクが考えた最強の宇宙戦艦』みたいなコレにいくらかかったんだろう。


 巨大らっきょはクラウチングスタートを彷彿とさせる加速力でこちらに急発進した。そして全身から噴き出す弾幕ゲー。

 うわぁ。高級車の中は雨の日の散歩から帰った犬がいて、犬ドリルしやがった。あとやっぱり高級車と言いつつもうらっきょにしか見えない。


 多分通用しないとは分かった上で、マイクロミサイルを撃ってみた。煙幕とジャミングが広がり、迎撃システムが機能不全になるのか? 反応を伺うと、らっきょは移動しながら爆雷をまいた。衝撃波で吹き飛ばす力技かぁ。効き目がありそうな反応弾や対消滅弾が直撃しないためならしゃーなしとはいえ、やっぱり採算度外視よね。あと回避に短距離転移とかポンポン使えはしない、と。


 『姐さんっ、今行くっス』


 [ダーメ、気持ちは嬉しいけど威力と距離は関係ないから来られても迷惑よ。ちょうどいいからアビャーナ、シーバたちの指揮執れる?]


 『了解です。通信傍受を前提として予定射線は二秒前にマップに表示します』


 うん、優秀優秀。通信は敵味方入り乱れて、ジャミングがあっても戦場は俯瞰されるから、後方支援の優劣が極めて大きい。私も細かい指示を出しながら最前線で暴れるとかシンドイし。

 らっきょはとてつもない無駄撃ちを披露しながら私を押し潰そうとするかのように迫ってくる。戦艦内の通信も聞こえるけど、私に話しかけてこないのは助かる。ぶっちゃけそれされると萎えるから。宙賊の立場にいるとか全然気にしないのね。軍人のくせにプライドの在り方が違っていて受け付けない。どーせらっきょ国もこの後すぐに王権が交代するんだろうけど、結果は関係なく最初からそうなるんでしょ? この正体を隠そうともしない態度から、エスキモアの星人性が少しずつ読めてきた。前の、なんて言ったっけ。ダメだ。もう国名が野菜しか出てこなくなった。ジャガイモ国は自分から醜態を発表して王権交代したけど、元王族は病死や軟禁とかじゃないわね。どーせ世間的には島流しとしつつ、実態は無人島をリゾート化して引退スローライフでもしてるんでしょ? もうなんかコイツらに配慮とか下らない。


 らっきょの主砲っぽい砲塔の先が光って輝きが増していく。それを見た私はマモちゃんを加速させて、スラスターを調整して自分から砲塔の目の前に並走させた。デカブツは自動迎撃システムが怖いけど、近付きすぎるとロックオンが間に合わなくて迎撃が止まって安全になる。とはいえ相対的に止まった状態は隙だらけだから、秒間六十発のレールガンをフルオート、三秒ほど撃ったら急いで離脱した。対消滅弾? 積んでるけど、ロケット弾なんて遅すぎる攻撃は、よほどの隙がないと当たらないのよ。並走してるのであって、後ろや前につけた線ではないから撃ってもかすりもしない。


 視界を埋め尽くす閃光。アテナやグリンカンビと同じくらっきょにもヤバい爆弾しこたま積んでただろうし、内部で爆発したらイチコロなのねー。生き残りの敵機はまだたくさんいるけど、まさにたんぽぽの如く四方八方に吹き飛ばされたからこれで戦闘は終了かな。私も吹き飛ばされながら大きく息を吐き出した。


 『おまっ、一回くらい見せろよ披露させてやれよ』


 [ガチガチに防御力をあげてたけど設計時に気付かなかったのかしら。大きな砲塔内に弾撃たれたら終わりやね、て]


 攻撃は最大の防御でもあり、最大の弱点でもある。


 『ハッ、やっぱりお前らにロマンは分からねぇんだよ』


 [豪華だったじゃない、国家予算数年分はありそうな花火]


 帰ったらカレーを食べようと決めた。なんとなく。ちなみに福神漬け派。



 

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