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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第二章 スキャナー星系
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21.狩猟



 さーて今日の獲物はなにを積んでるのかなぁゲッへっへ、とか聞こえてきそうな宙賊の群れにマモちゃんで突入。僚機のアドラーがステルスかけてくれたおかげで不意打ち成功。彼らには何が起きたか分からないかもね。高速スライディングしながらクルクル回ってレールガンを乱射。大半を仕留めたから残りは彼女の練習用に使いましょ。


 中のパイロットはキョロキョロでもしているのか、しばらくどの機体も進路を変えるでもなく進み、私とは違う角度から見えない攻撃を受けて一機、また一機と爆散していき、最後の一機がユーレイに会ったかのような意味のない悲鳴を上げながら逃げ出し、どうやら何発かかわしたらしいけど、肉眼では見えない遠距離から光条が走ると命中、爆散した。


 [エスキモア標準時、七月十四日午後三時十一分、終わりました]


 と区切りを入れつつ、実はまだアジトの制圧が残っているけどそっちは動画に載せない。敵は少ないし、生身の戦闘はグロいし、人質救出って美しい場面だけじゃないし、ここをさらすのは無神経だから。古代の話として、有名な賞を獲った写真がある。餓死寸前の幼子を撮った戦場カメラマンは戦争の悲惨さを伝えたいだけだったとしても、世間からノンデリと罵られて自殺した。カメラマンがいわゆる悪人とは思わないけど、どんなつもりだろうと報道がノンデリではある。他山の石にしなきゃ。


 サクッと制圧して人質救出とお宝回収。宇宙は距離感がデタラメだけどあえて近所と呼ぶ地域からメタルとレアメタルが採れる。メタル、鉄だの銅だのはたいした価値はないけど、レアメタル、クロムとかリチウムとかだっけ、は価値があるから宙賊が運搬船を襲うわけ。でもどこの誰に売れるんだろね? 星の裏側はドロッドロ。アテナは生産工場持ちだから売らずに利用するわよ。


 グリンカンビに近寄り帰還するシーケンスに入って一息つく。なんとか晩ごはんに間に合った。おチビちゃんたちが一緒に食べたいって帰りを待つからそりゃ急ぐしかっ。天使マジ天使。


 『ボス、お疲れー』


 回収班の乗る輸送船と並び、マモちゃんの後ろに従うロボットを後方カメラで見る。ご機嫌ね、アドラー。アテナもだけど特にグリンカンビには近衛、エリート専用機のロボットが複数格納されていて、兄二人がノリノリでアドラー仕様に魔改造した。

 頭はT字型、背中の右に回転するお椀と連動して広域レーダーを搭載、左はキの字がいくつもくっついた良く分からんオブジェ。味方以外のレーダーを誤魔化す、ステルスタイプのジャミング発生装置なんだとか。そもそもジャミングってなにをどうするんだろね。使えりゃなんでもいいけど。両腕は肘から先に長大なライフルのグリップを突き刺したようなシルエット。右はレールガン、左はレーザーキャノン。まぁ狙撃しかしないなら手を作って持つ必要はないのか。十メートルくらいの全身はひょろ長く、逆関節、フラミンゴみたいな膝が反対の脚は棒に見えるくらい細い。どうでもいいけどフラミンゴのアレは膝じゃなくくるぶしなんだって。他のロボットに殴られたら折れそうなくらい弱々しい。前線には出ない電子戦特化のスナイパーって潔いといえば潔い。


 こんなのアドラーにしか扱えそうにないネタ機体と化している。本人は嬉しそうだからケチはつけないけど。


 「お疲れ様。実弾でも命中率高かったわね。宇宙で狙撃って冗談にしか聞こえないのによーやるわ」

 『スペックが違いすぎる。スコープも測量も弾速も全部以前より上だから当たって当然。でも動き回られたらレーザーじゃないとキツい』


 『今が高性能機なのはそうだが、宙賊仕様が低性能だったからな。むしろあんな機体でラッテと戦えたのがすげぇよ』


 シュヴァインことボア兄さんが割り込んできた。アドラーが最初に乗ってた機体の整備不良をずっと怒っててまだプリプリしている。誤字が気になるタイプね。私は平気。4と書いてAと表現する人は苦手。見て分かる通り、ロボットの整備性はとてつもなく悪い。関節だけでいくつあるのか、負荷のかかるパーツがどれだけあるのか、整備士視点の苦労度を数値化すると、戦車を一としたら、戦闘機が五、ロボットは五十はいく。宙賊に使わせることがもうおかしい。いやまぁ宙賊は小型戦闘機のメンテナンスすらロクにできないから五十歩百歩だけど。

 アドラー曰く、一応整備士がひとりはいたらしい。軍出身の。ついでにアドラーも元軍人らしい。本人から深刻な秘密を打ち明ける感じで話されたけど、こっちの反応はふーんとしか言いようがない。こんだけ宇宙で堂々と軍と賊が手を組んで襲ってきてビックリしようがねーわ。


 なんでこんな劣悪な環境でロボットを使わせたのか、実際エスキモアの思考がイマイチ読めない。スタックス国については、結局あの後すぐに公爵家が王家に変わった。こちらに暴露される前に悪事を暴いて裁いた、という体裁を繕った。なんだろう、国と宙賊の関係性について、この公然の秘密ですらない茶番感。エドゥー星系ではもう少し表と裏の使い分けが感じられたけど、こちらは明け透けというか、同じサッカーでも上品な試合とラフプレーの多い試合の違いに戸惑うような。え、これアリなん? て展開が面白い。世界って広いのねぇ。

 この星の感性がまだ分からないから、方針を決めかねている部分はある。例えばスタックス国の軍に襲われた動画は公開していない。手札は出さないことで、いつでも出せる圧をかけられるし、なんつーか逆ギレされそうな気もする。意味分からないけどね。文化の壁を感じるから予測を外しそう。


 エスキモアは氷の惑星と呼んでいいほど気温が低い。太陽から離れているせいであり、人間の活動によって暖かくはなっているらしいけど私の感覚では常に冬の星ね。農業はハウス栽培で安定している。まぁ宇宙でも育てられるのだからどこでも大丈夫か。漁業はまるでダメ。養殖しているけど高級品扱い。海の幸に恵まれたエクス育ちがちょっと優越感。

 食料に問題はないけど、厳しい環境が心理に影響するのか、世界中で戦争している。戦争はスポーツと言ったけど、負けても楽しめる人と負けてガチギレする人って反応は人によって違うでしょ。なんかこっちはガチの人が多いみたい。スタックスのエースを倒した事実は広まって、なんだろう? まるで私は賞金首になったような、不穏な空気を感じる。


 グリンカンビの開いた口に向かってフヨフヨ吸い寄せられ、別の口に向かって通り過ぎるアドラー機の肩にペイントされた機体名『F4LKE(ファルケ)』が見えて気分を害しながら車庫入れした。本人の肩にグーパンしてぇ。


 「姐さん、おかえりなさい。やったっス、オレらやったっス、九人みんなで一、二、三位独占っス」

 「あらおめでとう。星系変わってこっちのほうがインドア盛んで大変そうなのに凄いじゃない」


 シャワーを浴びて食堂でみんなと食事していたらシーバが駆けつけた。出会って三ヶ月は経って、スラム育ちのみんなは見違えるように輝いている。おチビちゃんたちはほっぺがふっくらして、味覚も順調に育って、今は食事の時間が最大イベントのテンションだし、シーバたち年長組はゲーム以外にスポーツ各種を好きにやらせて身体作りを始めたから、横幅がしっかりしてきた。並行して内部の改造、脳や神経の性能を高める手術、といっても適性を勘案しながら多種多様なナノマシンを注入するだけだけど、将来を見据えた準備も進んでいるから、本人たちも今が一番成長を実感しているかもね。


 「あのゲーム、私もやってみたけど下手だった。シーバたちは才能がある」

 「アドラーあざっす、別ゲーは自由だからまた遊ぼーぜ」


 一緒に食べてた同世代のアドラーにも褒められて、シーバはやにさがった。

 身長百九十近くはあって適度な筋肉で引き締まっている、口数少ないお姉さん系色黒美人のアドラーと、すばしっこくて騒がしい体育会系シーバが同い年ってはたから見てるとまぁまぁ笑える。ウトウトしている先輩シェパードにじゃれつく新入りチワワみたい。立場が逆か。おすまし顔のマルチーズなアビャーナもそばにいるけど、ご飯に夢中なおチビちゃんたちの世話に夢中。王族って世話される側で子供の面倒を見るとか初体験だからハマっているらしい。分かる分かる、私もママの気分になっちゃうから。分かるからチラチラ私を見て夫婦感だすな。


 「あのゲームはチームプレーが重要だから独りで狙撃しても勝てないわよ」

 「そこは納得できるけど、シーバたちのあの強さってなんか違うような? 狙わせない上手さというか」


 アドラー鋭い。スナイパー目線で気付くのか。


 「シーバたちって弱いから、ずっと、ずーっと、人の目を気にして生きてきたの。チンピラに目をつけられないよう、誰にも隙を見せないよう、命懸けで他人の視線を避けて生きてきたの。……戦場では視線は射線と同義よ。射線管理と言って、移動も戦闘も敵に撃たれないポジショニングが一番重要なんだけどね、シーバたちはプロ中のプロなの。そりゃ上手いに決まってるってわけ」

 「ほへぇ、そーなんスか」

 「お前が気付いてないのかよ」


 アドラーに呆れられて照れるシーバに私も笑みがこぼれる。無意識に出来てるってことがどれだけ凄いのか。そのへんの一対一(ワンブイワン)が上手いだけでプロ気取りのゲーマーでも出来てないのよ。だからこのコたちがすぐに強くなることは分かっていた。サバイバルって一番大変なことに特化した苦労人だもの。才能の塊ね。


 食事を終えてネカフェへ。シーバたちが自慢したくてたまらないみたいだし、実際頑張ってたから褒めたいし、みんなのプレイ動画を観ながらまったりしてたら室内にいつものBGM。


 『それではブリーフィングを始める』


 声は天井のスピーカーから聞こえつつ、大部屋で集まって観ていた大画面に宙域図が現れ回転する。はいはい、食事中じゃなかっただけ上出来よ。


 『エリアC8-22、ペタゴーンらっきょう国の宙域に、現在判明しているだけでも五つの宙賊が集結中だ。推定戦力は小型戦闘機が八十機、中型が三機、まだ膨らむ可能性は大』


 「数を増やしても自滅するだけなのに」


 『ジャガイモのエースとどうやら界隈では有名人らしいイーグルアイが組んでも倒せなかった。じゃあもう数の力で押しきるしかなくね? という結論らしいぞ』


 「足を洗うとまではいかなくても、逃げるとかって選択肢もないのかしら。なんかヤケになってない?」

 「ボスが自由すぎる。大抵の人はナニかに縛られて、行く場所なんてない」


 まぁ戸籍とか雑でどうにでもなる、なんて思考は珍しいほうか。今の私は無国籍だけどなにも気にしていない。どこかの国に頼りたいことなんてないもの。星系が変わると新規に作る、身分登録がある有料ネットの利用が少しメンドイくらいかな。口座の紐付けで出来ちゃうけど、その口座の開設はどうするかって、元は貴族籍だから融通が利くらしい。

 

 『予想はしていたことだが、お前が宙賊殲滅なんて前例のないことを始めたせいで、エスキモア全体が浮足立っている。直接運送に関わる企業は当然として、輸送路が安全になれば積荷は安くなり、恩恵にあずかる人間はねずみ講式に増える』


 「ねずみ算ね。講だといかがわしいからやめて」


 『スキャナー星系でお前は今や時の人だ。過去のコンテンツが爆伸びしていて、SNSで三人に拡散した人にはイエス・マイ・フェアレディのスタンプをプレゼント中』


 「いかがわしかった」


 三人のモブ顔軍人がバストアップで並んでイエス・マイ・フェアレディと叫んでる。私も胃が、胃がぁ。これって何かの古典のリメイクが元ネタで、あっちの星系で流行中って背景あっての言葉だからこっちでは通用しないのでは。


 『そんな人気に青筋立ててるのが各国トップだ。かつてイングランドが海賊を支援して、大航海時代初期は底辺だったのに、後期はスペインの無敵艦隊を破って列強トップに立ったように、宙賊を利用した地位の強化は俺たちが思ってるよりずっとズブズブらしい』


 「……祖国ニドミスタンは苦汁をなめる側でしたから分かりますわ」


 アビャーナが顔をしかめて言った。あー、宇宙防衛軍の設立とかそこの元帥を目指して勉強とか、この子もいろいろ抱えていたのねぇ。てか━━。


 「アテナもそういうこと?」

 「はい。未知の宙域を探索して資源を見つけ、宙賊のフリした他国に奪われない要塞化した移動コロニー、というコンセプトで作られました。宇宙は大国が旨みを奪い、小国は頭を抑えつけられるのが現実ですから」

 「なるほどねぇ。私はその自称必要悪のシステムを壊しちゃった、と」


 『前例がないから先が読めない。そしてスタックスの政権というか王権交代。これはまぁ最初から成功しても失敗しても老害を引きずり下ろそうって計画的犯罪の匂いしかしないが、お前に手を出して返り討ちにあって潰れたトップがいる。次は自分かも、と怯えるトップもいるわけだ』


 「うん? じゃあ宙賊の大連合って」

 

 『ああ、実際は正規軍の大連合だ。流石に全軍なわけはないが、各国が手を組んで来るぞ。さらに俺の読みでは、クックック、負けた後のシナリオも用意されている。新世界の到来もありえる。だからラティシス、ぶちのめせ』


 「任せて。それとシーバたちも、ちょい役くらいだけどロボットで出撃するわよ」

 「! っしゃー、やったるっス」


 フフ、怖気づくどころか望むところって? 頼もしいじゃない。


 「まずはロボットの操縦練習からね」

 「あ……、オレらに出来るっスか?」

 「弱気になるの早っ。宙賊なんてほぼ全員無免許で戦闘機もロボットも乗ってるから分かるでしょ。宇宙は墜落がないからイージーなのよ」

 「あー、言われてみれば。私も軍では未経験だけど、口で説明を受けてそこから独りで動かせたな」

 「そういやアドラーは先輩だった。あとで教えて欲しいっス」

 「そうそう、特に車や飛行機は専用の感覚が求められるけど、ロボット、人型は普段の感覚の延長だからあまり難しく考えなくていいわよ」


 ここがロボット最大のメリットかもね。エクステのサポートありきの操作性だけど。


 「後方にアドラーがいて任せられるし、そろそろシーバたちも厳しく鍛えていくわよ」 

 「「「イエス・マイ・フェアレディ!!!」」」


 それやめて。



 

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