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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第二章 スキャナー星系
21/33

20.解析



 マモちゃんに乗り、スクランブルといえばスクランブルだけど、普通に発進してレーダーに敵影。私は相手にも聞こえるよう、オープン回線に繋いで艦橋に伝えた。


 [宙賊発見、おそらくはスタックス馬鈴薯国所属、殲滅開始します]


 『了解。予想通り広域ジャミングがどっかに仕掛けられて通信はエスキモアに届かなくなってる。スキャナー星系の宙賊は凄いな。戦艦まで持ってるとかまるで軍じゃないか』


 [今後はスタックス軍が世界中に言われるのよ。まるで宙賊ってね]


 こっちは全部知ってるから、作戦失敗すると国が滅ぶぞ? とプレッシャーをかけてみる。


 『ひどい言われようだね』


 挑発に簡単にのってきた。幻滅。こういう時に死ぬまで黙るタイプ以外はプロを名乗る資格もない。もしくは、実はスタックス軍に偽装した他国の仕業、だったら策士よね。こちらが勝利した後兄さんたちを騙せるつもりなら、という戯言前提だけど。自信があるのかないのかブレブレじゃん。ま、のった以上は利用してやるか。


 [事実よ。えーとあなたはエースのイーグルアイかしら]


 『……それはあっちだな。私の二つ名はサイレントマイスターだよ』


 ロボット十二両が先頭集団、やや離れてロボットとコルベットの混合部隊、ずっと離れて戦艦。軍属の通信相手は中列、と。


 [冗談やめて。宙賊と一緒に襲ってくる以上は自分も宙賊と名乗りなさいプライドのかけらもないの? しょーもな]


 『こっちも命令でな。宮仕えの辛い立場なのだよ』


 [プライドがあればどう答えても惨めになるから黙るの(サイレント)が正解だっつってんのよ三流。貴族の言い回しも理解できない凡愚と軍人の在り方について議論する気もないからさっさと散って]


 『他星系でシミュレータが上手くてイキってるだけの小娘がっ。実戦で叩き上げられた本物のエースによく大口を叩けたなっ。貴様のほうこそ実力の差を思い知って散れいっ!』


 男爵イモ以外でもキレるじゃない。


 エクステが表示する脳内の三次元レーダーを意識してカウントをとりながら加速、まずはマイクロミサイルを発射、ほぼミサイルと同速度で並走して向きを変え、私から見て先頭集団の右側につけると重力をオフ、スラスターでブレーキーをかけつつも流されながら向きを集団に向けてレールガンを乱射した。

 先頭集団はミサイルを見て散開したけど、ミサイルはのんきに突っ切って第二集団手前で分裂して、迎撃されながら煙幕とジャミングを張った。

 そっちに意識がもってかれて呆気にとられた集団に撃ったから、めくら撃ちとはいえ三両撃破、上出来上出来。残りは慌てて銃口をこちらに向けようとするけど遅い。メイン兵装が右手なら左が弱い。盾を左手に装備するなら右から狙え。古代からの常識ね。宇宙は上下も加わるから盾なんて無意味な物はないけど。そもそも大抵の攻撃を防げる盾が作れるならその作り方(レシピ)で装甲にするでしょ。


 減速は撃つ時だけ。基本は敵中を飛び回る。ホレホレ、フレンドリーファイアが怖かろう? 一両が群れから離れて俯瞰しやすい上方に位置取りした。あれがイーグルアイとやらかな。ちなみに宇宙に上下左右って変な概念だけど、普通は基本点というものを設定する。特に集団行動をとる時は、全員が同じ方向を『前』と認識しておかないと向きがバラバラになるからね。まぁ認識していても訓練されてなければバラバラなんだけど。この宙賊のように。


 『こんな速ぇヤツをいつ撃てと?』

 『ロボット遅ぇよ。いつもの戦闘機のほうが速ぇじゃん』

 『あっちは散弾でお陀仏動画観てねぇのか。いいから撃て』

 『バッカやろ、こっち向いて撃つな次やったら殺すぞ』

 『ァ゙あ? てめぇこそどこ向いあーくそっ、足やられたっ』

 『アドラーっ、まだ仕留められねぇのか』

 『うるさい』


 え? スナイパーらしき人物の声が落ち着いた女性、とか気にする余裕もない。宇宙は全てがとんでもない速度だから私の目でも捉えられない、感覚だけの衝撃波だけど、流れ弾ではない、明確に自分を狙った弾が視界の端をかすめて総毛立った。旋回のために減速しなかったら被弾したかも。

 ちょっと考えられない。宇宙でロボットに乗って狙撃ってプー兄さんから聞いた時は鼻で笑った。そうねぇ、千分の一秒まで測れるストップウォッチを握り、6.549秒で止めなさい、よーいスタート。て言われて一発クリアできる? 動く敵に狙撃が成功するトリガーを引くタイミングはそれくらいデタラメなの。ちなみに私は百分の一秒までならまぁなんとか、くらい。だから近距離から遅い敵に十発前後撃って当てる自信がある。それ以外に当てるのは先に言った通り、後ろにつけて相対的に止まった状態にする必要がある。

 それなのに狙撃してきて偶然ではなく当たりそうになった? ヤバいわね。沸点低い男爵(※子爵です)よりはるかに本物の天才じゃない。


 ……面白い。そう、やっぱ戦場ってこれくらいの緊張感がないと燃えないわね。ちゃんと自分も命を懸けないと殺す相手にも失礼だわ。アドレナリンが出まくり心臓の鼓動が高まる。いつも本気だけど久し振りに限界超えなさい私。


 中列の煙幕が晴れるまであと三秒くらい。前列の残りは五機。どの順に倒すか思考を巡らすスローモーションの世界で一両が脳内レーダーから消えた。

 咄嗟に画面内を探すけど都合良くは見えない。でもこの違和感の正体は、やっぱアレよねー。ま、今はいい。目の前に集中。私は一段ギアを上げた。


 『なっ、コイツ』

 『自分から突っ込んでくるとかイカれてる』

 『アドラー、頼む、早くしろぉ』

 

 この速度で撃ち抜かれたら私の負けでいい、という変態機動。状況に即応し、下半身を締め付けて血が下がるのを防ぎ、上半身を締め付けて血が上るのを防ぐ、人工筋肉と神経網でよろわれたGスーツがなければ即死するピンボールスピンでレールガンを撃ち放って狙撃手以外を撃破。離れて隙を伺う貴女は後。次は煙幕が消えるのを待っていた軍が相手よ。いたずらに突撃してこなかったのは流石と褒めてもいい。宇宙は連携がとれなきゃただのお荷物だからね。


 『来るぞ、全機カウント、面で狙え』

 『ブルーエンプレス撃破は震えるねぇ』

 『ちょっ、なんだその直角スラスター』

 『コイツ射線が見えてんのか』

 『はぁぁ? 入ってきやがった』

 『同士討ちに気をつけろっ、慣性270、上方に修正』


 敵を嵌めるつもりじゃなく、進路をしゃべるってわりと滑稽だけど、全機一斉に向く方位が三百六十分割した中の270なんだな、と分かるだけだからまぁいい。それよりその戦い方は集団が離れた敵集団と撃ち合う移動法であって、一機でつきまとう私相手には不適切、って分かってないのはマイナスね。実戦云々言ったわりには宇宙戦は経験なさそう。


 私は横滑り(ドリフト)しながら照準が合った瞬間トリガー、大口径レーザーキャノンで一機撃ち抜いた。光学兵器は近距離は偏差なしだから使いやすい。熱攻撃だから軍用機の耐性は相当高いんだけどね。


 『ちっ、向こうはやりたい放題かよ』

 『メルカーリー、煙幕散布っ』

 『もうやってる』


 これでしばらくレーザーと狙撃は無効。でもいい。狙い通り。私に向けて使われるほうが怖い。万が一にもあのスナイパーにレーザータイプの奥の手でもあったらヤバすぎ。しばらく煙の中の私を探して休んでてちょーだい。

 さらに周囲の敵には気休め程度とはいえ光で意識の空白を作った。一瞬でも私の姿を見失ったらもう終わり。

 宇宙は反応速度が人外の私でも運ゲーになる。宇宙は人間が戦える空間ではない。

 でも、だからこそ。脳内マップの敵の向きから射界を想定し、死角を割り出す。敵と敵が重なる線を描き、同士討ちが怖くて止まるルートを移動する。あのスナイパーの思考を常に読む。次に誰がどこを向くのか、数秒前に見切り、同じく私の動きを見切ろうと群れから離れてつきまとう敵エースの乗るコルベットをフェイントで揺さぶる。戦場を隅々まで見下ろす神の視点に少しでも近付くよう。


 運ゲーは運ゲーでも、勝つ確率を上げるために出来ることを全てやるこの感覚、たまんない。


 [いいわよっ、流石は軍人。人格は腐ってても腕はいいじゃない]


 『ジャガリコット中佐っ』

 『隊長、ひきましょう。普通の戦術で勝てるヤツじゃない』

 『シミュレーターだけの素人とか言ってたヤツ誰だよ。ひとりで笑って突撃してくるこんな狂ったヤツ戦場でも見たことねーよ』

 『はぁっ?』

 『ポテロ副長がやられた』

 『そのスラスターからの回転撃ち、なんなんだよ無茶苦茶だっ』

 『軍人がパニック起こすなっ! ひいたら国が沈むと理解しろっ。王林、もっと近付け、煙幕が晴れたら━━』

 『しまっ、読まれてるっ、ロケッ、げいげ━━』

 『むり━━』


 いずれしびれを切らして戦艦のCIWS、自動迎撃で押し潰すつもりで近寄るのは分かっていたからカウンターのチャンスを待っていた。宇宙に大輪の牡丹。鬼火のように揺らめく蒼いフレアが散った後には戦艦王林は一粒も残っていなかった。一万人くらいは乗ってたのかしら。


 『対……、消……、滅……、弾、だと?』

 『お前……、お前……、やっていいことと悪いことの区別も……』


 [自重なしの宇宙で軍人の誇りも捨てて宙賊と手を組んで要塞アテナを強奪しようと涎を垂らす盗人共の善悪とか笑わせないで。戦争ごっこしてただけの素人はソッチのようね]

 

 スパイスホエールの問答でも感じたけど、いざ踏み潰される側に回ると被害者面とか、コイツら軍人のくせに覚悟が足りなさ過ぎる。自分たちの行為はやっていいことなの? 棚上げダンクシュート何発ぶち込むのやら。

 対宙賊用のロケット弾の対策してるなら、そりゃこっちも武装変えるよね。当たり前じゃん。

 酸素がなくても衝撃波の拡散は起こる。煙幕が晴れたからこの隙にレーザーを撃ち、敵が慌てて煙幕を散布したらレールガンに切り換える。流石に泣き言は言わないにしても、地上では見ることがない反則をくらって士気がへし折れたみたい。

 まだやる気のある敵エースを連れて精彩の欠いた残党を狩っていく。そしてもうひとり、まだやる気のある、一番警戒している宙賊エースの殺気は感じる。


 『イーグルアイ、いい加減決めろ。足を洗いたいんだろ? ここしかないぞ』


 うわぁ、そういう感じの事情かぁ。どーせ裏切って始末だとは思うけど、正規軍入りのエサを見せられたわけだ。じゃあやっぱ先に始末すべきはコイツか。敵エースを左右に振りながらさらにスピードを上げる。


 時々前進しながら回転して牽制射撃を入れつつも、当たる気はしない。甘えた機動はあの世行きの中で敵エースの撃破はしんどい。余裕のない演技、でもないか。集中力が滅多にない次元に突入している。私がスナイパーだったらいつどこを狙うか? 相手になりきって脳内の自分に狙いをつける。彼女がライフルを構えているのは……、ソコ。私が自然に射線に入っちゃうとしたら……、上から落ちるか。


 スプリットS、弧を描いて下に落ちて、ジャンプの前に膝をまげるように、落ちきったところで減速、ここから直線に加速する一秒、貴女と私は一本の赤い糸で繋がる。トリガーは今っ!


 私は早く回避したい衝動と恐怖を抑えつけ、コンマ五秒待ってから上方へスラスター全開、膝カックンされたように落ちた。同時に機体をかすめた弾丸は、ゴースト軌道で私の後ろを丁寧になぞった敵エースのコルベットを貫き散った。私は念の為にマイクロミサイルを発射。しばらく戦場にジャミングを敷いた。


 『あ……』


 [はぁいイーグルアイ、貴女、私の仲間にならない?]


 『な……、にを言って……?』


 [貴女の戦い方、気に入ったからスカウトよ]


 フレンドリーファイアを気にしなければもっと狙撃チャンスはあったのに。もっとも、一発必中のプレッシャーがずっとのしかかっていた、とも言える。ずっとこの人との心理戦だったな。面白かった。


 『……アリガト、でも私にも宙賊なりに貫く仁義がある。仲間を全員死なせて、ホイホイ寝返るなんてダサい真似、できない』


 [うんうん、美学は大事よね。ますます気に入った。そして美学は美学として言わせて。下らない]


 『なっ』


 この女からはシーバたちと同じ匂いを感じる。まぁ仁義なんて口にする時点で宙賊らしさが消えたけど。腐った環境で下を向かない、真に強い生物の匂い。でもシーバと違ってなまじ強いから、負けたら潔く死ぬって武士道みたいな筋を持っちゃってそう。


 [貴女、こんな果てのない宇宙の片隅でどんだけ不自由な縛りプレイしてるの? 宙賊は勝てば総取りがルールでしょ。勝った私に従って、三食昼寝つきの星団観光に行くわよついてらっしゃい]


 『クッ、ククク、了解』


 [おっとそうそう、ベイルアウトはしちゃダメよ]


 『しないけど、なんで?』


 [自爆装置仕込まれてるから]


 『!?』


 [ちょっと待ってて、………、ほい、これで全滅、と。状況終了。プー兄さん、これ、普通に出てもアウトとか、遠隔操作される可能性は?]


 『戦艦潰した時点で消えた。まぁほぼ確実に、ベイルアウトか素人が内部を覗くとドカンってだけだ』


 『な……、んで、こんなことを?』


 [そっか、ジャミングの必要はなかったのか。えーとね、まず国家が高価で機密だらけの機体を宙賊にプレゼントするわきゃないのよ。必ず裏がある。今回のケースはテストパイロットが第一の目的だとは思うけど、この場合、国が一番心配するのは、ロボットの横流しや第三者に鹵獲されることね。だからいつでも処分できる自爆装置がついているのは予想できた。その上で、さっき宙賊のひとりが乗る、下半身が壊れたロボットが突然爆発したから、ベイルアウトが銃爪(ひきがね)になることは分かった。他にも仕掛けがあるのか探りながら、貴女を最後に残して全員始末する手順がメンドかったわ]


 『はぁーーー、完敗』


 [さ、帰るわよ、あ、私はラティシス・ウッドストック。貴女は?]


 『アドラー・ボルモント、よろしくボス』


 うしっ。強くて面白い仲間ゲット。

 



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