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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第二章 スキャナー星系
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19.釣針



 [エスキモア標準時、四月八日午後五時二十三分、始めます]


 艦橋に向けた通信ぽく、私の開始宣言で()()スタート。宇宙用戦闘機マモちゃんの正面モニターが映っている。HUD、私視点の映像も利用可能だけど、高速でブレるから酔いそうだしわけ分からないだろうってことで不採用。


 要塞アテナの広域レーダーで捕捉して、グリンカンビで追跡して、マモちゃんより二周り小さい、つまり地上の戦闘機と同サイズの、宙賊の乗る小型戦闘機十三機、それと人質を連れ帰る用でもありそうな潜水艦っぽい中型戦闘機一機が略奪を始めようと加速した、そのタイミングで私も加速して介入、戦闘を開始した。


 『おいっ! 罠だっ。軍用機がきたっ』

 『落ち着け。一機だけって軍じゃねぇぞ』

 『あー、軍用機に見せた大きいだけのハリボテとか? クックック』

 『バーカ、ヨーゼフ騙されてやんの』

 『おいっ! 罠だっ。だってよ。ププ』

 『お前地上で釣り堀とかいうの無理だな。魚影見て逃げるだろ』

 『いちいちうっせーな、口じゃなく手を動かせ、迎撃するぞ』


 とか無駄口たたいている間に私の近距離レーダーでも捕捉。いきますか。宇宙の高速機動は目視できる時間は一瞬。まずは近距離レーダーを頼りに敵の後ろにつけて速度を合わせ、目視できる時間を伸ばさないと攻撃すらできない。普通はね。


 私はエクステによって脳内に表示される周囲の敵機の速度をチェックしながら操縦して、まだたいして速くないカモを見つけて機首を向けて、数キロメートル先を一瞬横切る敵機のちょい先に照準線(レティクル)を向けてトリガー、指先に軽く力を込めた。ミサイル以外の実弾系はロックオンなんて遅くて待ってられない。

 流石に一発必中とはいかないけど、十発前後のレールガンが通り過ぎる空間に戦闘機が鉢合わせて消し飛んだ。


 『んなアホなっ』

 『まぐれに決まってんだろ。囲んで後ろにつけ』

 『コイツ全然スピード落とさねぇよどうなってんだ』

 『なぁ、チラッと見えたがやっぱこれ軍用機のような』


 囲めと言いつつ各自がレーダーの私の動きを追うことに夢中だから、私を先頭に後ろをひとかたまりになった。その配置を見て私はスラスターを噴かせて反転、正面を後ろに向けてバックで前進した。宇宙ならではの機動ね、面白い。そして無誘導のロケット弾を発射。


 宙賊と国の関係は、公然の秘密ではあるけど一般的というほど知られてはいない。そんなのは大昔からそうよね。実例を挙げると西暦二千年前後、ソマリア海賊とやらがいた。倭寇と同じ。一般的には個人の犯罪者の立ち位置にされてたけど、んなわきゃないでしょ。ソマリアは内戦の無政府状態。つまり国際的には責任者不在をいいことに、実質責任者なはずの武装勢力がバックについた海賊が身代金ビジネスで荒稼ぎした、というのがニュースにされない背景よ。この事態に各国は軍隊を派遣、自衛が建前の日本の自衛隊すら協力して沈静化にあたった。つまり公に名指しはしない武装勢力に対して、いつまでも調子にノッてんじゃねーぞあぁん? て元寇なわけ。それでも海賊は消えなかった。一線を越えないようにセコい犯罪を頑張った。


 こういうプロレス的な関係はずっと変わらないらしい。宙賊のバックには国がいるけど、表立っては隠れているフリくらいはする。あまり派手に暴れすぎないように、一線を越えないようにセコい犯罪を頑張る。


 一般人も宇宙船を購入することは出来る。海に置き換えるとクルーザーくらいかな。でも軍艦どころか揚陸艇すら無理でしょ。金持ち企業も巨大フェリーを買って商売することは出来る。でもやっぱり軍艦はないでしょ。軍隊以外が軍用機の使用なんて本来ありえないのよ。そのありえないはずのことをコッソリしているのが宙賊。何故か軍用品が流れるブラックマーケットという、実に都合の良い非合法の言い訳が古から存在し、宙賊と国はそこを経由して関わる。宙賊は一般人用の宇宙船を違法改造したというテイで、武装だけは軍用レベルで暴れる。そんな金と操船技術があってなにしてんだろね。大抵の人は船舶免許を取らないし真面目に働いてもクルーザーすら買えないのよ。


 この話のポイントは、宙賊の戦闘機は紙装甲、私は本来ありえない最上級。元軍人が堂々と軍用機で暴れる理不尽ときたらもう……、哀れね。


 ロケット弾は宙賊船団の鼻面で爆発、百万発近い散弾をばら撒いた。一発一発は全然たいした威力はもたない。スペースデブリよりは危ないかな、てくらい。こんなもんに怯えていたら宇宙は通用しないぞ、と笑っちゃうレベル。それでも高速で突っ込んでいる時に対面から喰らうと━━。


 ズドン。音は聞こえないけどそんな効果音が響きそうな絵面で、視界をいくつもの火球が埋め尽くした。プー兄さんに頼んだらノリノリで作ってくれた対宙賊用散弾ロケット、使えそうね。レーダーの反応もゼロ。少し離れて見物気分だったらしい中型船もレーザーキャノン一撃で片付けて言った。


 [エスキモア標準時、午後五時二十五分、終わりました]


 『この後セニケーハ大根国宙域にあったアジトも制圧。ムカレストほうれん草国宙域で活動する宙賊は始末しました。さぁ次はどこが潰れるのか。メーターに注目せよ。現在のスポンサーはこちら……』


 原始RPGのクリアやエンディングのようなBGMを流しながら寄付額の高い順にスポンサーが読み上げられる。次はどこを潰すとは教えないから、自分に利がある時だけ参加とかセコいことを考える企業は自滅しろ。自分で仕掛けといてなんだけどイヤラシイわね。

 閲覧数がとんでもない速度で回っている。千桁の部分がカタカタ動くのコワ。


 「やっぱり大反響ですね。流石ラッテ様」

 「普通にショッキング映像っスね、カッケー」


 人の住めないガス型第二惑星付近で太陽光発電、ノクちゃん曰く日光浴を楽しむアテナの食堂でご飯食べてくつろぎながら動画を見ていたら、アビャーナとシーバが近寄ってきた。やっぱこのコたち張り合っているような。ま、いっか。動画の戦闘? 五日前よ。メーターはとっくに溜まって放置中。

 別に今まで何かと競争してタイムアタックしていたわけでもなし、急いだほうがいい時は急ぐけど、今はのんびり過ごしたほうがいい時間ね。私はおチビちゃんたちをメインにかまい倒して癒し成分の補給につとめた。

 ボア兄さんも把握しきれないほど兵器が格納されている状態が我慢できないらしく、整備班をまとめてどこに何があるのかデータ化に奔走している。盗んだアテナで走り出したらデカすぎた。

 プー兄さんも好きな物を好きなだけ作れる環境にご満悦。片手間に情報収集をしてくれている。ノクちゃんという頼もしい戦力がいるから片手間で足りるでしょうね。


 「戦闘画面はこれでいいとして、問題はラティシス様をどう魅せるかよ」

 「日常系の要望多いよねー。このコメント明らかに親衛隊でウケる」

 「団長はそのままで撮れ高十分でしょ」

 「Gスーツの立ち姿とか公開しちゃう?」

 「ばか。死人がでるに決まってるじゃない」

 「デザイン得意なコは誰だっけ。オリジナル軍服作ろうよ」


 バスティンの給仕でお茶しながら、シーバたちに囲まれてネットの反応で盛り上がる。ホームページに寄せられる意見はどこの宙賊を潰して欲しいといった類いが多いけど、全然関係ない私への質問や要望も異常に多い。闇掲示板のほうではないからお行儀は良い。それ見て各自がガヤガヤと。女子二十人も集まると誰が何を言ってるのかサッパリ?


 『それではブリーフィングを始める』


 テーブルの上にホログラムの大画面を浮かべて頭の悪そうなコメント拾って笑ってたら、宙域のマップに変わってBGM。はいはい、和気藹々(わきあいあい)とか気にしないよね。


 『ブルーエンプレスがスキャナー星系に来たことをアピールして、どこの国の宙域でもない公域に滞在して数日。釣れたぞ。スタックス馬鈴薯国がバックについている宙賊、と軍が共同だ。少しは隠せよ、ったく』


 「あらあら、思いきったことするのね。こっちの星ではそういうの大丈夫?」


 『大丈夫ではない。軍事力の使い方に関する線引きはあちらと同じだ。しかし、アテナという餌はあまりにも美味しそうに見えるらしい。筋書きはこうだ。宙賊がアテナを占拠した。我々は軍をもってこれを鎮圧。アテナを返そうにもニドミスタンが滅亡したのならしょうがないよなホッホッホ』


 まぁ美味しそうには見えるでしょうね。他星系の軍事機密の詰まった莫大な価値のある要塞が実質私ひとりを殺せば手に入る。こりゃー入れ食いか?


 『自重なしの宇宙で軍が早くも登場だ。どうやら宙賊にもDA、ロボットの量産型を貸与しているぞ。なかなか粋な演出が分かってるじゃないか』


 「あー、あのロケット弾対策かしら」


 『順番が違うな。ロボットの貸与は以前から。装甲が厚くてあのロケット弾を無視できて好都合、と判断して使ってきたっぽい』


 「ふーん。にしても危ない橋を渡って言い訳もできないでしょうに。アテナさえゲットすれば無理やり誤魔化すつもりなのねぇ」


 欲に目が眩んでヒャッハー思考になってるような。いや、ロボット貸与する時点でヒャッハーなお国柄と思ってよさそう。ま、いっか。自分で始めておいてなんだけど、宙賊は弱すぎて萎えてたのよね。


 『軍属だったお前たちに説明するまでもないが、宇宙はコルベット級以上は基本ワンオフだ。内訳は宙外系方面軍第一師団から、先行打撃艦隊、戦艦級王林、コルベット級ジョナゴールド二十四隻、ドレスアームズ量産型シナノホッペ十二両。クックック、宙域方面軍は宙賊となぁなぁだから別部隊ってこれで誤魔化せるつもりかよ』


 兄さんのツボはそっちか。私はエクステの脳内翻訳が全部誤訳してて腹痛い。排水量リンゴ何個分とか今言わないでよ。国名に特産物を全面に押し出す星人性に翻訳機能が引っ張られてる。


 「戦艦はここに乗り込んで制圧する要員の運搬として、実質の戦力は大隊規模。数が少なめだが宇宙はそんなもんか?」

 「そんなもんね」

 「少ないっスか。普通にヤベェ規模に見えるのに」

 「空気抵抗がないってさ、戦場には射程がないのと同じなの。百キロメートル向こうから飛んできた銃弾が威力はそのまま当たるの。そんな空間で正面以外に撃てる? 今ここにハチが飛んでてシーバがマシンガンを乱射して倒そうとして、誰も怪我しない自信ある? 宇宙で群れて戦争ってそういうことよ。戦争と呼ぶほどの規模がもう無理無理」


 だから多くても大隊規模が限界ね。それでも危ない。小回りの利かない駆逐艦以上の宇宙船は自動迎撃システムを有している。宇宙はただの小岩すら危ないから、味方と識別していないある程度大きな近寄る物体は見境なく撃ち落とそうとする。そんな大型艦が並んだ空間を敵の私一機が通り過ぎたらどうなる? フレンドリーファイアで大ダメージ。はっきり言って間抜けでしょ。一番の敵は味方になっちゃう。だから地上と違って宇宙は軍と軍が衝突する戦争は起きなくて、ハルマゲドン的な心配はないから自重なしでも問題なしと開発が進められ、だから個で戦局を変えられるエースの存在が大きい。


 『ラティシス、今回はナメないほうがいいぞ。数は少ない代わりにエースの登場だ。スタックス馬鈴薯国で二十年近くエースを張ってるベテラン、ナガシ・ユーロン・ジャガリコット中佐、サイレントマイスターの異名持ち、子爵家当主でもあり男爵イモと呼んだらブチ切れるらしい』


 「誰でもキレるわよ」


 なによそのプロフ絶対聞きたくないバカエピソード持ってるでしょ。


 『さらに宙賊もなんか面白いヤツがいるぞ。こっちの星系は宙賊同士の争いもお盛んなようでな、素人集団なりにエースに相当する異名持ちがチラホラいる。まぁ大半はただのハクづけだろうが。今回出てくるのはイーグルアイと呼ばれる凄腕スナイパーだとさ』


 「へぇ」

 「うわっ、姐さんその顔マジ捕食者(プレデター)

 「マーサ姉さんっ」

 「大丈夫、カメラに収めたわ」


 『宙賊の戦力はドレスアームズ量産型シナノホッペ十二両だが、軍とまったく同じかどうかは怪しいな』


 まぁね。軍人のしかも貴族のプライドの高さを考えると、宙賊に良質な物を渡すとかなさそう。サムライのカタナみたいなもんだから。用が済んだら始末する前提の作戦だろうし。てか宙賊の側は利用されてる危機感はないのかな。ニブくて変な感じ。


 『現在コイツらは一天文単位(※一億五千万km)の距離にい(プァー、プァー)』


 突然艦内に赤い光が点滅して警報が鳴った。


 『……チッ、連中、二千万キロメートルまで接近してやがる。ラティシス、スクランブル発進しろっ』


 …………、第二宇宙速度で三十分かかるわよ。今夜のご飯を賭けてもいい。コレ絶対何かのゲームかアニメのネタでしょ。ノクちゃんまで協力してなに遊んでんのか。嘘をつくにもTPOをわきまえるよう、帰ったら『狼少年ケンの昇竜波動コンボ神ガード』でも読み聞かせてやろうかしら。元ネタと違う? 著作権フリーの童話がどんだけ改変されると思ってるのよどれも影も形もないわ。

 私は脱力しながら着替えるために部屋に戻った。

 


 


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