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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第二章 スキャナー星系
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18.募金



 エドゥー星系の外れまで来ると恒星の光も微かになり、星雲の煌めきが途方もない巨大生命体の瞳に見えて、とっくに縁が遠くなった宗教的な恐怖を感じる。クトゥルーとかそういうホラー系? 人類は少しずつ宇宙を探索しているらしいけど、いつかヤバい存在に出会いそう、という恐怖はずっとついてまわる。ユーレイに会うまで夜の廃病院を徘徊するようなものだからね。いるわけないだろ、と思いつつ怖いものは怖い。


 薄暗い星の輪郭が視界に広がり、距離感が狂う。やがて近くにくると、星の裏側から明かりが差し、衛星軌道のSS、いや、国際機関だからISSが姿を現した。おそらく半径十キロメートルとかそれくらい大きいはずだけど、ミニチュアを俯瞰するような、田舎で深夜のコンビニを遠くに見つけたような、変な気分になる。ああ、衛星軌道ではなくもっと離れているのか。初めて巨星を近くに見てトリックアートに騙されているような、脳の処理がバグってる。


 ISSの隣りにこれまた大きな建造物が浮いている。ラグビーのよく分からんゴールみたいな柱? ISSが何個も並べるくらい途方もなく大きなコレがワープゲート。


 原理は知らん。私に理解できるなら『お風呂に入って金の比率でも……、ガチャリ』『アルキメデスさんのエッチ』が実現しとるわ。それでもあえてエアプな説明をすると、重力子は時空に干渉できる。量子は時空を無視できる。量子もつれは長年謎とされていたけど、量子がひとつ上、四次元の物質の影であることが証明されてから、研究は一気に進んだ、らしい。何言ってるのか? だからエアプだって。三次元の存在が四次元を理解できる意味が分からへん。二次元の紙に立体図を描くのと同じ? クラインの壺の模型は作れないよね?

 とにかく利用法は発見された。三次元上はどんなに離れていても、四次元上はくっついたままの量子の特性を物体に付与すると、離れた二点間の距離を無視できる、らしい。数万光年の距離をゼロ時間かぁー、科学って凄いね。

 そのための装置がこのラグビーゴール。ここに設置された理由は知らない。重力がうんちゃらかんちゃらって説明をまともに聞いたこともない。巨大な理由は最小化してこれなのと、星系間の移動は大量輸送がメインだからちょうどいい、ということらしい。利用者は国家機関か大企業くらいで個人はほぼいないというか、個人は大企業の豪華客船に乗る。てへっ、個人で行ってきます。


 ISSの管制室と通信、といっても文面が送られてなんやかんやに同意して送り返す。このテのやりとりは相当簡略化されてきたらしい。安全性に神経質だった時代から下り坂が続いている。例えば、暴走車による交通事故はゼロにすることが出来る。簡単よ。猛スピードが出せない車を売ればいい。法定速度時速八十キロメートルが最高だとしたら、時速百キロメートル以上は出せない車だけを売ればいい。何故そうならない? 車のメーカーが『他人の命より金が大事』って本音だからでしょ。こういうあれこれ、直視は難しいらしい。そのくせ安全性を尊ぶって矛盾している。現代は身分社会によって命は平等ではないと明言するし、戦争や宙賊によって命が軽いから、結構社会全体が雑に動く。今でも指差し確認な整備士の家系で育つと特に強く感じる。先祖の誰の言葉かは知らないけど、我が家の家訓。『戦車や戦闘機を暴走させて死ぬのは本人の勝手だが、整備不良で死なせたらフレンドリーファイア(味方殺し)だ』「他所は他所、(ウチ)は家ね」と納得したら家族にチベスナ顔された思い出が。


 宇宙船の体積に応じて利用額が変わるらしく、宇宙要塞の我が家はとんでもない額になってもうた。通信室の向こうからも引いてる声がずっと聞こえるし、ISSに駐留して休憩だか商売中らしき無数の船からも何故か見えない視線が突き刺さる。ペット同伴可のホテルにブラキオサウルス連れて来たヤツおるぞ、みたいな。


 「これだから最近の王族は非常識って言われるのよ」

 「……ああ、うん、そうだな。戦争ギャンブルで荒稼ぎしていて良かったな。気安く往復できないから移動は慎重に考えよう。なっ?」


 ボア兄さんの対応がおざなりになってきている。ボケたらちゃんとツッコんでほしい。


 ゲートを潜ると艦橋に映る全方位巨大モニターにオーロラみたいな玉虫色の光が高速に後方に流れていき、アレなんて言ったかしら、クッ、エクステの辞典にもないのか、超古典SF映画か何かにありそうな変な効果音、ミュオーン、プアーン、みたいな脱力ミュージックが流れた。


 「プー兄さん、ひとつのボケに仕込みすぎでは?」

 「ノクチャーが簡単にやってくれたぞ」


 [マスターが喜ぶと聞いて]


 「……ああ、うん、ありがと」


 そしてモニターは正常に戻った。ワープは時空を無視して一瞬っつったろ。


 「怖かった……。本気で事故を疑ってしまいました」

 「これがワープっ! スッゲー」


 鳥肌の二の腕をさするアビャーナと大興奮のシーバたち。そうそう、ボケたらこういうリアクションをしなきゃね。私も反省。ああ、シェファー泣かないで。数万光年を越えた感動を怒りに変えるの可哀想だから今後もノクちゃんにやってもらうか。

 

 「プー兄さん、遊ぶ暇があるなら頼んでたアレ、もう出来てるのよね」

 「やってて良かった愚問式でもやってんのか。聞くまでもないこと聞くな、ホレ」


 プー兄さんが放り投げたタブレットをキャッチ。地上でも出来ることだし速かったら絵になりそうだけどここは宇宙。フワフワ飛んできて気が抜けそう。宇宙って気をつけないと弱くなりそうね。真面目なトレーニングメニュー作っておくか。


 「なんスかそれ?」

 「傭兵稼業の展開、とかでしょうか」

 「アビャーナ鋭い、正解」


 とりあえずワープって一大イベントが終わり、スキャナー星系の外れ、向こうと同じく巨星に寄り添うISSのゲートから出て、手持ち無沙汰になった面々がフワフワ近寄ってきた。新天地到着だけど景色は代わり映えしないからクルーたちはスルー。てか宇宙ってさ、凄いけどいつまでも見てるのは飽きるよね。私、雲の写真一枚も撮ったことないし。


 「傭兵と言えば戦争だし、これから向かうえーと、第六惑星エスキモアは世界中で戦争している好戦的な星人性なんだけどね━━」

 「おっぱい星人以外にもいるんスね」

 「同じカテゴリー?」


 アビャーナいいツッコミって言いたいけど好き嫌いの問題だから同じではあるか。


 「━━この星系では私は無名じゃん?」

 「それは……、無理がないかと」

 「姐さんのコンテンツはこっちでもPV凄いみたいっスよ」

 「いいから無名にしといてよ。有名人オーラ出して『誰アンタ?』って反応されたらエドゥー星系に帰るわよ」

 「まぁ時折そういうイタい人はいますがラッテ様は大丈夫ですよ。それで、無名だから、ああ、まずは宣伝ですか」

 「そうそう。でね、そもそも傭兵って少ないし、いても宙賊と同じく紐付きなの」


 要は国軍と名乗らない助っ人部隊ね。ニドミスタンのように金はあっても軍は弱い国っていくらでもあって、世間的に褒められたことじゃなくても弱いものイジメのような戦争を仕掛けるダルい国もあって、傭兵を雇うという体裁で他国の援助を受けるパターン、てのもあるわけ。ほんの一握り、純粋に商売している傭兵団もあるらしいけどそんなのは例外。軍人同士が殺し合う戦場に民間レベルの兵器しか揃えられない末端の突撃兵の集団って、それもうヤクザ運営の老人ホームと同じでしょ。私は味方をひとりも死なせる気はない。


 「初回は国王に直接営業して雇わせたけど、毎回そんな真似は恥ずかしい」

 「出来ないとは言わないあたりがマジラッテ様」

 「姐さんには悪いけどカフェラッテは許せねぇっス」

 「関係ないから好きなだけ怒りなさい」


 アレの良さが分かるにはまだ早いわよ。


 「それに最初は、地上の戦争じゃなくて宇宙に介入するつもり」

 「え、と。雇うのは……? あっ、まさか」

 「そう、宙賊に迷惑をかけられる企業を依頼主に、宙域の安全を守る商売をするってわけ」


 実際宙賊のせいで腹が立ってしょうがないのはまともな企業でしょうね。バックに国がついていて、宙域をまたいで活動するから取り締まりも出来なくて、泣き寝入りするしかないって諦めている。声高に非難したくても身分社会で逆らいようがない。高額保険に入ってなんとか被害を抑えているけど、嘘かホントか、保険会社と宙賊が裏で手を組んでいるって噂もあるあるだし。まともじゃない企業はこんな環境も逞しく利用しているみたいだけど、私が味方になるのはまともな側がいい。


 「とはいえ、とはいえよ。数百人の後方支援つきの私の腕は安売りしない。たかが一企業の保険料より安い値段にする気はない。じゃあどうするか? クラウドファンディングにすればいいじゃない」

 「あぁー、素敵、鼻血出そう」

 「それ美味いっスか?」

 「ネットで資金提供を呼びかけるの。この額になったら宙賊ぶっ倒しますよー、て。購入型ってやつね。自分ひとりじゃたいした額は渡せないけど、大勢ならイケる。そう考える複数の企業から無理しない額を集めるの。さらにワンチャン寄付型にもなるかも。自分に直接利はなくても、宙賊退治の協力ができるならと寄付する善人がいるかもね。あとは……」


 私はニヤリと笑った。悪女感出てる?


 「寄付額は公開する。どこの誰がいくらくれたか。宗教施設の常套手段だけど、これするとケチるのがデメリットになるのよねー。星間を商う大企業が支援なしに安全をゲットするとかセッコー、て評判になったら大打撃だからきっとたくさんくれるわよ」


 周囲から拍手。シーバたちはあまり分かってないか。

 プー兄さんに頼んでたおいたネットのホームページをチェック。みんなも一緒に見るためにノクちゃんに頼んで艦橋の大画面に接続した。


 

 キャップのつばを後ろに被り、パーカーとハーフパンツの私が足を伸ばして床に座る写真。着た覚えのない服装、技術ってなんでもありでちょっと怖い。バッシュの裏がドアップに映るアングルで、奥にカメラ目線の私がガムを風船状にふくらまして、指一本でクルクル回すのは惑星。

 画面に大きくアタナシア・レミングスの文字と下に筆記体でウェルカムを囲む枠。ここを押せばいいのか? これ私の顔を知る人以外には通じないよね。

 

 八十六歳男性

 「夜明け前に太極拳は健康のため? いえいえ、この空の向こうに宙賊共がいると思うと眠れませんのじゃ」

 ※個人の感想です


 十八歳浪人生

 「えーっ、え、えーっ、なんで? どして? スベリ止めでスベるとか聞いたこと……、ああそうだよ、受験失敗もガチャ爆死も宙賊が悪いに決まってんだロロロロ」

 ※個人の感想です


 二万六百二歳半魚人

 「そろそろスキャナー星系殺っとく? うーん。宙賊臭ぇし、やったんギョ」

 ※深きもの(ディープワン)の感想です


 『この星終わったかも。そんなうなだれたあなたに朗報DEATH。この度エドゥー星系からブルーエンプレスが引っ越して参りました。挨拶代わりに宙賊でも潰そっかな』


 八十六歳男性

 「この空の向こうに女帝様が……。ありがたやー、ありがたや」

 ※個人の感想です


 十八歳浪人生

 「えっともしかして俺にもワンチャ、ない? 最後まで言わせてもくれないっスか流石女帝」

 ※個人の感想です


 二万六百二歳半魚人

 「ブ、ブルーエンプレス? 逃げろー、刺身にされギョギョギョー」

 ※深きもの(ディープワン)の感想です


 『このメーターが端まで溜まったら状況開始。モザイクもとれるかも』


 

 デデンデンッ、みたいな世紀末感のあるBGMに、私らしき二頭身キャラと集金メーター以外はモザイクの画面でシメ。これ取れてだからなに? なんの略か知らないけどMADとかいうんだっけ。映像と声の合成で通販番組風とかやりたい放題ね。魚の帽子被って語尾がギョギョの人間どっから見つけてきたのやら。


 「兄さんに頼んだ時点で変なの作られるのは分かってたからいいけどさ、しばらくはバカンスになりそうね」


 それも悪くないか。とプー兄さんを笑いながら見るとあごをしゃくられそっちのほう、画面に目を戻すとモザイクがとれてた。大口径レーザーキャノンに貫かれて爆散する駆逐艦の動画。これ駄目な映像じゃ……、ま、いっか。それより。


 「メーター溜まるの早っ。てか勝手に始めないでよ」

 「過去の俺に言え。……ラッテ、大丈夫か? 宙賊退治は結構タブーだぞ」


 まぁね。軍が自国の宙域内で捕捉して倒すことはあるけど、基本的に宙賊は逃げ足が早いし、なによりアジトが他国にあるから殲滅までは出来ない。無所属の私はそういう縄張りを無視出来る。


 「今まで保たれていたバランスが崩れるかもね。でも、体制側が口にする必要悪って本当に必要なのかしら? 私、昔から気になってたの。全部ぶち壊して確かめてみたいって」

 「あー、それいいっス。なんかめっちゃ分かるっス。マフィアが普通に街にいる意味が分からない。警察ってなんだろう」

 「クックック、いいねぇ。後世はお前が悪の総帥呼ばわりかも知れない。最高にロマンじゃないか」


 どうあれメーターは溜まったんだし、状況開始するわよ。戦争に明け暮れる惑星エスキモア、はじめまして。私もまぜてちょうだい。


 


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