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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第一章 エドゥー星系
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幕間 裏話



 「……以上が、フシギュント様、第三王子陣営とニドミスタン王太子の繋がりを裏付ける調査報告になります」

 「多少の捏造や誇張はあっても(おおむ)ね正しい、と」

 「御意にございます、陛下」

 「ご苦労、緊急の調査にも関わらず良くまとめてくれた」


 諜報室室長が去って政務室にひとりになると、私は椅子に全体重を預けて両手を力なく垂らし、首を支える部分を起点に天井を見上げて口を半開きにした。王様激務(ストレス)メーターを下げる脱力ポーズ。嗚呼(ああ)、もういっそ呆けたい。


 想定だけはしていたが現実に起こるとは思っていなかった最悪の展開だ。国と国が本気の戦争を出来なくなり、一線を越える真似はするなよ、と暗黙のルールを互いに目配せする現代において、外交は根回しでシナリオを決めた茶番であり、殺し合いの戦争すら含めて相手国と裏で手を組む八百長だ。民衆には表だけ見てもらえば良い。

 かつて地球における『国』とは、一生離れられない鎖だった。誰もがその土地に縛られるから、隣人トラブルが終わらない戦争に発展する。その土地はウチの領土とか、その発言は歴史認識が誤っているから撤回しろとか、自国は排気ガスをふかしながら汚水を海に流すなとか、隣国と幼稚にもほどがあるしょーもない言い争いを永遠に続ける。歴史を学んだ若いころの感想、地球人の分類は劣等種でいい、とは今でも思う。が、現代人も大差ないのか。

 現代は『国』を捨てられる。地球を捨てたことで鎖が壊れた。エクステによる脳内翻訳のおかげで言葉の壁はない。いやなら出ていけばいい、が可能になって、国と国の付き合い方が変わった。国そのものがプロスポーツ団体、とでも言えば適切だろうか。他のチームと勝負して、観客を楽しませ、金を稼ぎ、仲の悪い選手もいるけど、殺し合いはしない。最後の部分だけは反するように見えるけど、権力者にとっての戦争とはただの間引きだ。民衆にはもっともらしい理由を提示するが、その実は人口調整とガス抜きでしかない。


 地球を捨てて不毛な争いは止めて、未知が広がる宇宙開発の分野だけは競争を促さないと悪手だから多少の汚れ仕事は黙認して、敵チームたちと試合をしながらもお互い業界の発展のために頑張ろうぜ、と平和を築いてきたのに、ニドミスタン王太子は裏切った。他チームの選手にハニートラップを仕掛けて脅迫するかのような下衆な真似、一線を抜け抜けと越えやがった。断じて許さん。茶番だとしても今すぐ報復攻撃のひとつも命じたい。するまでもなく滅ぶようだが。


 にしてもフシギュント、三男がハニートラップに引っ掛かったか。私はしばらく意味のない声を出した。


 「ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ーァ゙ァ゙ァ゙」


 もうやだ。ホントやだ。全部捨てて温泉行きたい。三男を全力ストレートパンチでぶっ飛ばしたい。するまでもなく顔面崩壊してたから堪えたが。再生ポッドに入れられてもとに戻りはするが初見で噴きそうになった。

 ホントもうコイツなにしてくれたんだよ。初めて報告を受けた時は狂ったかと思った。世界が。私はテンプレアニメによくある就寝中に隕石に潰されて違う世界線に来たかと思った。今でも思ってる。むしろそうであれ。

 整備主任とエースがセットのウッドストック家を潰すって正気の沙汰ではない。オーナーの一員のくせにピッチャーとキャッチャーのバッテリーを冤罪スキャンダルでクビにするって思考回路どうなっているのか。もう試合が出来ねぇよどうしよう。


 三男は、才能の塊だった。……そのはずだった。赤子の時の適正診断は理論値の最高レベルだった。リセマラするタイプのRPGのキャラメイクでボーナスポイント平均十台なのに八十台とか、それくらいの豪運に恵まれた。あまり喜びすぎると兄弟間に亀裂が入るから自重はしたが、私も王妃も側近も浮かれるくらいに話題にした。懐かしい。そして愚か。現実はゲームではない。使い古された警句だし誰でも知ってることなのに、いざ自分の身に降りかかると当てはめることが出来なかった。


 三男は……、ポンコツに育った。今なら素直にそう思うが、潜在能力は人類最高の幻想に溺れて直視出来なかった。

 古代地球において、王族は存在が尊かった。王権神授とか言ったか、言葉は古くないらしいが、概念は有史以前からあったらしい。というか原初の宗教観だな。王とは神に近しい存在だから崇めよ。そんな詐欺まがいの演出によって王は王であれた。

 ひるがえって現代は、王が王であるための条件は結果だ。王に生まれたから尊べ、は通じない。王に相応しい結果を以て崇められる。

 三男には期待したせいで存在が特別などと勘違いさせてしまった。何も結果を出さないコイツが十代半ばのころに私は不安を覚え、同世代で結果を以て世界中から注目を浴びるラティシス・フォン・ウッドストックとの婚約を強引に結んだ。良い刺激になるだろう、と。まさか、まさかだ。プレッシャーから性格がねじ曲がるとか、完全に裏目に出た。


 いや、実のところ、私が歪んでいるのかも知れない。


 同窓の異端児、エルツヴァイゲ・フォン・ウッドストック。学年に一人か二人はいる、誰も声を聞いた覚えのない、探すとどこにもいなくて、気付くと側にいる、ニンジャの末裔みたいなヤツ。コイツが学生時代に長文をしゃべったのはたった一度。その一度で当時の二十代あたりまでの全員の記憶に刻まれた伝説の男。いや漢。


 私たちの学年にはマドンナがいた。コンスタンツェ・フォン・ヘンドリックス。才色兼備の公爵令嬢。絵に描いたような高嶺の花。当然の如く婚約者はいた。侯爵子息の……、ツェペリン家の誰だったか、今となっては消えたヤツの名なんて憶えてられない。


 卒業を間近に控えた秋の始め、コンスタンツェに不幸が訪れた。現代医療をもってしても原因が分からず治せない病気に倒れた。部外者の私は病名も症状も詳しいことは知らない。ただ、噂では、十年からもって二十年以内に死ぬだろう、と。おそらくそれだけではないとは思うが、他人の私なんかは二十年も生きれば長生きだろ? とのんきに思った。十代の自分は三十歳の自分すら想像出来なかった。

 しかし上級貴族の家では問題があったらしい。コンスタンツェは婚約を解消された。人前で婚約破棄を叫ぶとかはないぞ。そんな貴族にあるまじき下品な行為、貴族がやったらそれだけで終わりに決まっている。三男がやった? だから終わってるだろうが。


 病気が発覚したとはいえ、体力が消えたとか入院生活とかってこともなく、彼女は普通に学校に通い、それまでと変わらない態度を貫いた。悲劇のヒロインぶるでもなく、実に誇り高い貴族の在り方に私なんかは感心していたのだが、貴族社会、いや普通の社会でもそうなのか、彼女は腫れ物扱いに変わった。噂によると家でも不遇に変わったとか。


 そして迎えた卒業式。私たち王侯貴族は別に中世ヨーロッパやアメリカンハイスクールの真似をするわけではないが、特別な日は何かしたいというクリスマス程度のノリなのか、プロムナードと呼んで男子は燕尾服、女子は地味なのから派手なのまで多種多様なドレスで着飾り、この時しか踊らないワルツを練習してパートナーと地球ごっこを楽しむ伝統がある。

 コンスタンツェは……、当然相手はなく壁の花。元婚約者の侯爵子息が早々に新しいパートナーと踊る微妙に居心地の悪い空間に、あの漢は声を張り上げて、彼女の前に跪いた。


 「コンスタンツェ・フォン・ヘンドリックス嬢、私はウッドストック伯爵家長男、エルツヴァイゲと申します。ずっと、ずっと、貴女をお慕い申し上げておりました。身分の違う叶わぬ恋と蓋をしていましたが、手が届くのであればどれほどの高嶺であろうと登ってみせます。貴女の地位も財産も寿命もどうでもいい。もとより未来は誰にも分からない。明日、私と貴女のどちらかが死のうと悔いはない。私が恋い焦がれて求めるものは貴女の心と身体のみ。何も持たなくていい。今このひとときでいい。私の手を取り踊って頂けませんか?」


 ずりぃわ。私、王太子だったのに、こんなカッケーもの見せられてモブになっちまった。そして二人は踊って手を恋人繋ぎしながら伯爵家に帰り、一瞬で貴族社会に広まり伝説になりやがった。まぁ男も女も憧れるわ。ついでに公爵家と侯爵家は没落したわ。遠回しに格下の伯爵子息に浅ましくてダッセ、て鼻で笑われて世間からナメられてぐうの音も出なきゃ終わりだ。


 結局彼女は数年で亡くなったが……、その彼女に瓜二つの娘が世間に美貌と才能を見せつけて、きっと私はエルツヴァイゲに嫉妬したのだ。物語のようなカップルに羨ましい子供たちに堅実な立場。地味で目立たない伯爵風情が王の私より恵まれているなどと。


 三男の押し付けがイヤガラセのつもりはなかったが、結果はそうなった。私たちの世界はどんなつもりとか関係ない。結果が全てだ。

 自分の無能を認めざるを得ない。しんどい王様業を無難にこなしてきたつもりだったのだが、こうも報われないものなのか。

 誰にも言えない八つ当たりをすると、アイツにはご苦労などと(ねぎら)いはしたが、諜報機関が悪い。国同士の関係がヌルくなって、諜報戦もなあなあに変わった。禁止された兵器の使用とかないよう監視はし合っているが、常識的に考えて狂った指導者など滅多にいないから緩んでいる。ニドミスタン王太子という狂った指導者に気付かず手遅れになった。国内も荒らされていたのに王の自分が気付かなかった。ウッドストック家に不正の証拠ありとか報告など受けてないぞ。しかも雑な捏造、第三王子の派閥がふざけた真似をしやがって、全員潰す。


 フシギュントは……、婚約破棄を人前で宣言した瞬間ボコられて笑いものにされた時点で終わった。アイツはもう表に出てくることはない。王族だから処刑とか軽い扱いはしないが、実質軟禁されて生涯を終えるだろう。子供ならともかく大人になっても王侯貴族の在り方が分からなかったカスのことなんかどうでもいい。大事なのはこれからだ。


 マジでどうしよう。方針が決められない。普通は革命が起きるレベルのやらかしだ。整備主任を冤罪で死に追いやった。てかエルツヴァイゲ、お前自決が早すぎるんだよ。武門の貴族ですらそこまで即決しねーよ。なんで技術士官(テクノオフィサー)のお前が猛将みたいな死に様見せつけんだよ今まともな貴族間でお前の最期についてざわついてんだよ。日本史ヲタクの間で『オヤジ白虎隊』の二つ名がついてるぞ。

 おそらくは冤罪の罠も殺すつもりはなかったのだろう。あくまで弱みを握って自分たちの下におく、そんな意図だったのだろう。エルツヴァイゲの死によって取り返しがつかなくなった。てかそういうことを見越してコイツは自決した。弱みを握ろうとしたことで犯罪が露見する、敵の罠を完全に破壊して自滅する逆トラップを仕掛けた。たいした漢だったよ。


 コイツの死によって事態が急展開した。誰も追いつけない光速で逝っちゃった。

 軍用機の整備士なんて一人前に育つまでに何年かかるか分かるか? 軍事機密を隅々まで把握している整備主任に代わりがいると思うか? しかも、人望のあったウッドストック家が潰されて、彼の指揮下にあった庶民のベテラン整備士が次々辞職して市井に下りている。もうこれだけで我が国は終わりだ。継戦能力が銀河の彼方へ消えた。かつての水準に戻すまでに何十年かかるのやら。


 次代の整備主任、エルツヴァイゲの長男も去った。開発部の天才、次男も去ったがこれはめでたいかも。そして我が国が誇ったエースも去った。その後すぐ他国で暴れた豪傑エピソードを添えて、なんなら本人作成の近況動画の再生メーターが爆速回転し続けて、今我が国は星団中の笑いものにされている。トドメは━━。


 “我がウッドストック家をコケにしたエクス王国に告ぐ。貴族は善意も悪意も倍にして返すのが流儀。いずれ気が向いたら帰ってお礼参りはします。首を洗って待ってなさい”


 個人が国家に宣戦布告など本来噴飯ものだし、釣り合いを取るために一ヶ月王様生誕祭とか祝日にしたいくらい不敬がすぎる態度だが、もう国民ガチギレしちゃった。私に。泣くぞ?


 いっそ彼女が攻めてくればいい。軍事基地をいくつも潰してくれていい。それで事態が収まるなら安いものだ。が、彼女は放置して他星系に行っちゃった。残されたウチはどうしたらいい? 謝っても手遅れ。隣国コリアンテでは救国の英雄扱い、反対の隣国ニドミスタンは国家予算数年分の宇宙要塞と、勝ち確と浮かれた国民からギャンブルで財産を根こそぎ奪った挙げ句に滅亡確定、負け確って悪魔の所業。しかもたった二、三日で。リバーシだったらウチの駒は盤面ごと陥没するわ。どーも、こんなヤベぇヤツを敵に回して生殺し中の無能の王がこの私です。


 本来は表向きは王族全員不審死して代わりに公爵家あたりが玉座に就くが、代わりになりえる者がいない。いくらなんでもコイツが次代の王はナイナイ、という人材しかいない。もうそれだけでこの国終わってるのですよトホホ。

 だから私が王様続けるしかないが、支持率が目に見えたらマイナスになってそう。総人口より多く嫌われてんの? もうヤダぁ。






制作裏話

その一。ガルパン系コスTUBER。ガルパンはなんの略かは不明だが、不朽の名作に違いない。コスTUBERはテキトーな造語。コスプレ配信者。

その二。キャンドルタエリーヌ。初代近藤ナントカの遠い子孫の設定で頑張ってマス。実在しないか念の為にググッて落ち込んだ。なにやってんだろ。

その三。ニドミスターナマダニ。プフェートが思いついた実在しないダニ。

その四。ラティシスが知性を捨てたと言ってるわりに妙に歴史に詳しいのは、歴史多めな雑談配信のリスナーだから、らしい。

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