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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第一章 エドゥー星系
17/35

17.転進



 「あーっ、今のなしっス。もう一回、もう一回だけ」

 「ダーメ」

 「そんなぁ」


 薄暗いPCルーム、通称ネカフェ。まぁ要はゲーム専門の部屋ね。同時に三十人くらいはPCを使って遊べるっぽい個室の並んだ一角で、シーバが初めてのゲームに感情を爆発させた。兵士になって三人一組のチームを作って戦場を駆け回り、他チームを倒して最後まで生き残ったチームが勝つ古よりの定番ゲーム。防音が甘い他の個室からも悲鳴や歓声が聴こえる。


 しばらく待って、ハイティーン九人が全員ゲームオーバーになったのを見計らい、壁際の比較的広い大人数部屋に呼び集めた。下の子たちも夢中ではしゃいでいるけどそっちは遊んでていいわよ。とりあえず目的意識が違うのはシーバたち九人だから。


 「貴女たちへのルールはこう。ちゃんと覚えて守るのよ。このゲームに限定して、射撃訓練モードは好きなだけ遊んでオッケー。でもマッチング、試合は一日一回だけ」

 「なんでっスか? もっとやりたいっス」

 「理由は、目的が遊びじゃないから。ゲームから始める訓練よ」


 何回死んでも次があるゲームに染まるのも危ない。ゲームしかしないならお遊びでもいいけど、これはただの踏み台。いずれシーバたちには現実の戦場に出てもらうから甘えさせて死なせる気はない。


 「試合は一日一回で、終わったらみんなでプレイ動画を繰り返し再生して、どこが悪かったのか、良いところもあったか、次はどういう動きに挑戦してみるか、真剣に話し合いなさい」


 普通のスポーツと同じ。このやり方で上手にならないわけがない。ゲームに限らず思考停止は何をしても成長しない。そんな人は現実(リアル)も思考停止だから命が軽い。さらに━━。


 「身体を鍛えるのはまだ先。今は頭を鍛える時期ね。所詮ゲームと思う人にとっては所詮ゲームだけど、真剣に取り組む人にとっては現実のスキルアップに繋がるのよ」


 スポーツでよく使われる言葉。練習は本番のように、本番は練習のように。実践出来る人は強い。


 「このゲームを通じて、貴女たちには連携、チームプレーを磨いて欲しいの。ひとりで暴れる私は参考にならないししちゃダメ。貴女たちは弱い。それはちゃんと自覚しているだろうけど、だからって私の強さを目指すときっと失敗する。自分だけじゃなくて、みんなで強くなって私の背中を守ってね」

 「うす(はいっ)」

 「じゃ、今の試合をみんなで振り返るわよ」


 とりあえず落ち着いて時間が出来たから、しばらくはコミュニケーション重視でいく。シーバたちの世代は大丈夫だったけど、その下は内乱とスラムの悪環境のせいでエクステを埋め込まれてないとか端末も持ってないとか問題だらけだからケアしないとだし、私の場合の神経増加のような、ある程度の肉体改造もしておきたいし。庶民はあまりイジることは出来ないけど、しないよりは大きく変わる。あとイヤラシイ話、庶民が改造できないのは金の問題もある。つまりシーバたちには結構強化できる可能性が高い。その辺のいわゆる基礎ステータスってやつを医務室でチェックしておかないと、メモメモ。


 シーバたちには射撃訓練モードや他のゲームは普通に遊べばいいと言ってあるから放置して、私はひとり廊下を歩く。しばらくは夢中で遊ぶでしょうね。今までが酷すぎただけだから楽しい時間を取り戻すといい。


 居住区を離れると重力がほぼ消えた。宇宙を進むにあたって、近くの他惑星の影響を全方位から受けまくるのは健康上よろしくない。衛星軌道上にじっとしてたら関係ないけど、移動となると極端な話、昨日は足元に血が集まって目眩が起こりやすく、今日は頭上に見えるあの星からの引力で頭に血が上りやすい、とか結構怖くね?

 だから船内全体も少しとはいえ足元に重力がかかるよう調整されている。惑星と同じ負荷にするのはコストがアレだし、そもそも労働の大半は無重力のほうが楽でコストがコレだし。運搬人だったらヨダレを垂らす環境でしょ。おっと垂れないか。


 無重力は面白いけど長距離を歩くのはまぁまぁストレスになる。だから船内の廊下の壁、二百五十センチメートル上にはエスカレーター的な手すりがついていて、左手で掴んで宙を引っ張られる。左側通行よコレ常識。上にあるのは事故防止と部屋の出入り口の邪魔だから。曲がり角や三叉路はインターチェンジっぽい。


 つまり、だから宇宙にスカートは少ないのよね。今日は居住区から出ないとか女子会用とかの衣装になる。

 私にとってはジャージに等しい軍服姿で廊下を滑空しながらふと気付く。そうだ、シーバたちにお洒落させなきゃ。本人たちが早く私の役に立ちたいとか目に見えて焦ってるから有用なことを優先したけど、十代はどれだけ無用なことをするかが大事。効率厨の集団なんてツマンネー。


 時々誰かとすれ違い、ペコリと頭を下げられる。まだまだ人手は欲しいけど、二百人ゲットで少しは賑やかになった。でもやっぱり足りないわね。スカウト頑張ろ。

 医務室、宇宙船はメディカルルームとか言ったほうがカッコイイかしら。まぁいいや。医務室に入ると衛生班の娘が詰めていたから、シーバたちの相談をしてすぐに出た。まだみんな担当区域を学習中だから邪魔しちゃ悪い。次の目的地へゴー。


 工場区画に入るとだだっ広い空間が広がり、壁がなくなり手すりが宙に浮いてるアスレチックな景観に変わり、二十メートルはありそうなくらい高い天井とそこに届きそうなくらい高い建物が並び、人工樹木が整然と並んでいて実家の寒々しい貴族街を思い出す。

 やや高所を滑空する私の視線の先、特に公園でも広場でもない道端にたむろして、シュヴァインことボア兄さんが数人の女子とタブレットを囲んで話しているのが見えた。気難しい表情でタブレットと工場群を目が行き来しているけど、つま先がロッキューなリズムを刻んでいる。ズンズンチャッ、ズンズンチャッ、ウィーあーれは上機嫌の癖。新しいおもちゃを与えられて興奮する子供みたいに楽しんでいるわね。


 「兄さん、手は回りそう?」

 「うん? ああラッテか。とりあえず今戦うのはお前くらいだから余裕だな。今後を見据えるのであれば早めに対処しないと厳しいかも」

 「工場の手伝いって技術はいる?」

 「いや、未経験者歓迎だ。専門知識(ソフトウェア)は俺やプフェートに任せていいが、意外とオートメーションっつっても種類が多すぎて人のほうが便利なんだよな」

 「そっか。ベルトコンベアに流れる大量生産された銃弾、なんて絵面はその銃弾のみを作る場合の話になるのか」

 「そうそう。ひとつの物を大量に作る、ひとつの物しか作れない工場だったら全部自動がコスパが良いんだろうが、宇宙船にそんな工場は逆に頭悪ぃよな」


 [物次第ではそういう工場を用意しておくのも有効と考えられます。マスターの仰る通り、同じ弾薬を大量消費する場合など]


 「……ああ、そのへんは不便を感じるようになったら作っていこうか。てかノクチャー、だっけ? どっから見て聞いてしゃべってんの?」


 [はいシュヴァイン・ウッドストック、質問に答えます。ALGS式レンダラーを介して会話が行われています]


 「そっかぁ、アレもう実用化されてたのか。やっぱ自重なしの宇宙関係はヤベェな」

 「へぇー、て分かるかぁ」


 [要約すると敷地内のアウトプットは全て管理可能ですマスター]


 「なるほどね」

 「相手に合わせた返答の高低差っ。てか明らかにお前だけに態度違うよな?」

 「ノクちゃん呼びでデレたみたい」

 「んなわけあるかぁ、と言いたいけどお前ならありえそう。この技術他国にバレたら絶対ヤバいよな。ホントは他国人の俺らが知っちゃダメな最高機密だよな」


 [はい、いいえシュヴァイン・ウッドストック、すでにワタシの権限はマスターに固定されており、それを否定する者はワタシの敵対者と認定します]


 「ラティシス、俺、胃が、胃がぁぁ」

 「ノクちゃん、関係者以外にはバレるまでは大人しくするのよ」


 [善処します。が、万が一に備えて質問します。バレたら]


 「やっちまいな」


 [イエス・マイ・フェ…、マスター!]


 「お前絶対ネットサーフィンしてんだろっ。AIの禁忌破っちゃってんだろ!」

 「兄さん、犯罪はバレなきゃ完全犯罪なのよ」

 「え、ゴメン、どのへんが名言のつもり?」


 AIがいろいろ不味いという話は貴族の常識だけど、ちょっと怯えすぎよね。プー兄さんのほうが危険に決まってんじゃん。いやまぁプー兄さん×ノクちゃんで情報戦無双は確定か。ヤバ。


 医務室で貰っておいた胃薬をプレゼントして去る私優しい。薬ってほぼプラシーボ効果らしいけど。

 次に訊ねるのは情報処理区画。ほぼ無重力な廊下をスイーっと飛んでいく。これって慣れすぎると地上が怖いような。三メートルから落ちたら普通に怪我するかも。

 無重力だけで暮らすと骨を筆頭に身体が弱るから重力が必要なのは有名だけど、その割には宇宙と地上の交流が少ない理由が分かった気がして、他のあるあるを探していたら着信音。ホットライン、またアイツ?


 「アロー」


 『まずは礼を。感謝する。君のおかげで諸問題がまとめて片付いた。天王山の勝利もさることながら、あの悪事の暴き方がエグい。おかげで実は悪人ポジにされていた私が相対的に良い人になってしまった。独立されてからずっとこじれていたニドミスタンを吸収して元の鞘に収まるのも時間の問題だろう。昨今独立騒ぎを起こした連中も共犯として断罪ルート確定だ』


 「それは重畳。逆転劇、おめでとうございます」


 『ただ、このスピード感はどうにかならなかったのか? 今朝九時に戦争が始まって、十時前に終わって特大スクープ発信してニドミスタンから離反した派閥との会合を済ませて、慌てて泥舟から逃げ出した他の連中の処遇についての方針会議を終えて今正午だ。根回しって分かる? 一ヶ月のスケジュールを書いたハリセンでぶっ叩かれた気分だ』


 「えーと、ご褒美?」


 『ありがとうございますっ! て違う。私も周囲も今朝までは悲壮感が漂っていたのが嘘のような忙しさでな、現実に情緒が追いついてこないのだよ。支持率なんて数字があったら面白いことになってそうだ』


 「L字回復バンザイ」


 『ありがとう、って初めて聞いたわ回復してねーじゃん下がりっぱじゃーん。……コホン、まぁこちらはハッピーエンドとして、君はこれからどうするのだね? 昨夜接触してきた時に少し調べたが、君もアイツに裏で攻撃されてたんだろう。ウッドストック家の名誉回復とか復帰とか、私に力になれることがあれば喜んで手を貸すし、なんなら侯爵待遇でもなんでもいいから我が国のエースに━━』


 「フフ、ありがとうございます。でも、そういうのは結構です。仕事一筋の父が横領なんて下らないにもほどがあって、世間に対して反論する気もないですわ。忠義を尽くしてきた我が一族を裏切ったエクス王国などこちらから見限らせてもらいます。この先連中はある意味ニドミスタン王太子より辛くなるかもね」


 『王族でアレ以上は想像を絶するな。ここからは観客として楽しませてもらおう』


 おしゃべりしていたら到着したから端末はしまい、映画にありそうな作戦司令室? そんな感じの機材がごちゃごちゃ置かれた広間に足を踏み入れた。ここもまだ把握が済んでなくて調査しているっぽい。

 出入り口周辺は薄暗いせいか誰も私に気付かず、照明の効いた中央付近にアビャーナと二十人くらいの娘がわちゃわちゃ話している。どうやら担当者の配置を決めているらしい。ああ、ここから各施設をモニタリング出来るから便利ってことか。賢い。何故かプー兄さんも隅の椅子に座って端末をつついている。娘たちがヒソヒソ話をした後、アビャーナは遠慮気味に振り返ってプー兄さんに訊ねた。


 「プフェート様、はしたない話になりますが、現時点でラッテ様以外は、取り繕って言うと食客、包み隠さず言うとただ飯食らいです。食料や物資の備蓄はまだありますが、いつまでもこのままでは……。資金は大丈夫なのでしょうか?」

 「ニドミスタン対ピザーラガクンの戦争の賭けは盛り上がったなぁ。アレ、当初はほとんどの人がニドミスタンに賭けてな、オッズが1.001倍とか勝っても手数料引かれて赤字って意味不明な勝負になってたんだが、ラッテの全財産をピザーラガクンに賭けて1.1倍まで上げて、負けモブたちにひとときの夢を見させてやったのさ。良いことして風邪引きそう」

 「凄い……、噂以上の傍若無人なのですね」

 「仮にニドミスタンが勝った場合はラッテが死んでるから財産が消えようと知ったことではあるまい。お前たちも心に刻め。ウッドストック家家訓第三条、他人(ひと)の金と不正取引(インサイダー)で食う飯は旨ぇ」

 「「「他人の金と不正取引で食う飯は旨ぇ」」」

 「捏造やめい」


 アイツらなんで父さんに冤罪被せたのかしら。こっちに胸張って歩くギルティーがいるのに。


 「あ、ラッテ様。いらしたのですか」

 「心配しなくても収入源は複数用意するつもり。今貴女たちがやってるのもそう」


 流石に傭兵稼業だけで上手くいくとは思わない。現場は私ひとりに後方支援が二百人以上の傭兵が成立してたまるか。

 私はアビャーナに応えながら違う方向を見た。左手に包み込むように専用カメラを持ってアビャーナたちを撮影しているマーテサクヤがいる。グリンカンビは目立つから昨夜、夜に紛れてピザーラガクンに私や戦闘機を降ろした後、いったん宇宙に上げて、戦争が終わると迎えに来てもらい、ついでに行く宛のない彼女もさらった。グリンカンビと各車両にコリアンテの国旗が描かれているからさっさと消したいわね。私が乗った戦闘機だけは雑に消してもらった。代わりにどこかで見たようなハムスターが描かれているのも消してもらおう。パクりはダメ。

 あと当たり前だけど、宇宙船を降ろすにあたってピザーラガクンと通信でのやりとりがあった。その前に国王に連絡して強引に許可を取りつけたからセーフだけど普通はアウトね。コリアンテから宇宙に出た時? さあ? もう関わるなとか通達があったとか?


 「この撮影は記録用では?」

 「ホームビデオや卒アル制作じゃないわよ。まずマーテサクヤ、貴女も公女の立場は捨ててもらうからえーと、マーサに改名ね」

 「はいはいどうぞ」

 「私の見立てだと多分貴女、引きこもって動画制作あたりが天職だと思うの。どう?」

 「ビンゴ」

 「ラッテ様凄い。お姉様の内面を初見で見抜くなんて」

 「うーん、結構貴族にも多いタイプよ? 貴族に限らず社会は人脈が重要だけど、コミュニケーションが致命的に苦手なのに無理しているタイプ。具体的に言うと目が死んでるかおでこに働きたくないでゴザルと書いてある人ね」


 そんで田舎でスローライフがリハビリになると勘違いして挫折するまでがお約束。田舎はもっと人脈とコミュニケーションが重要なのに難易度上げてどうする。性分なんだから変わらないし変えようとしなくていい。あと働きたくないでゴザルと書いたシャツを着た人はただの陽キャ。


 「才能があって他人に関心がなければプー兄さんになる。才能があって他人の目を気にしすぎると貴女になる。どーせ今までやりたくないことばかりしてきたでしょ。誰も見ない環境で好きなことすればいい。貴女のようなタイプを活かすにはそれが最適ね」

 「一生従います」

 「まさかお姉様が即落ち」

 「で、マーサが編集した動画は公開します」

 「え……、ちょっと恥ずかしいような。ラッテ様だけで良いのでは?」

 「ダーメ。ニドミスタンがこの先荒れて、遠からず消滅しそうな展開だけど、貴女たちは兄や王太子に嵌められて悲惨な運命を辿った哀れな被害者、という見方のままでしょ。世間の同情とかムカつかない? 実はブルーエンプレスと組んで傭兵団を起ち上げてザマァも完了ですわオホホホ、という姿を見せるといい。私たちはもう貴族じゃないけど、それでも貴族なのよ。ナメられっぱなしは許さない」

 「はぁー、だいしゅき」「「「もうらめぇ」」」

 「アーフ……、じゃなかった、アビャーナたちはそれ以上落ちたらマズくない?」


 見る気はないけど私の動画はそれなりに人気があるらしいし、今後は軍属だから機密がどうのってしがらみもないし、かしましい女子たちがキャイキャイはしゃぐ宇宙船の日常から戦場まで明け透けなコンテンツ、結構ウケそうじゃない? 映えを意識して華やかなコスチュームとかもアリかも。


 カメラを向けられ今後の展望を語り、悪ノリし始めたころ、マーサの端末に着信アリ。あーハイハイ。だからプー兄さんスタンバってたのか。プー兄さんとおそらくはノクちゃんも組んで、情報処理室に巨大なスクリーンが現れ、相手の顔が映った。ニドミスタン王太子、名はえーと忘れたしどうでもいいか。何かで見た顔より一気に老けたわね。向こうは端末を耳に当てて視線は画面の奥に飛んでいる。見られているって気付いていない。端末ハッキングするとこんなことも可能なのか。コワっ。


 『やっと見つけたぞマーテサクヤ、どういうつもりだっ、この売国奴がぁ』


 「あらあらお兄様、口が悪くてよ」


 『どういうつもりかと聞いてるのだっ。貴様のせいで我が国は終わりだ。公女に生まれてどんな理由があればここまでの愚挙に及べるのか申開きしてみろぉ』


 「あのねお兄様、元エクス王国ウッドストック伯爵家次男を名乗る知らない人から唐突に連絡を貰って、あなたの悪事を全て聞かされた私の身にもなって。王太子に生まれてどんな理由があれば実の妹にあんな下衆な真似が出来るのか、そっちこそどういうつもりなの?」


 『あれは義弟の仕業だっ。私は知らなかった』


 「責任者が知らなかったは通じないのよ。どうあれ私が何もしなくてもニドミスタンは滅びました。聞こえなかったの? ウッドストック家が接触してきたって。見てなかったの? 今朝の歴史的大敗を。あなた如き小物がブルーエンプレスに喧嘩を売ったらそりゃあ終わりますよ。そんなことも分からないの?」


 『黙れっ。もう少しで全て上手くいくはずだったんだ。どいつもこいつも足を引っ張りやがって……』


 「プッ、ククク、ダメっ、もうっ、苦しっ、足を引っ張るしか能がないのは自分なのに」


 『なんだ? 誰だ貴様、盗み聞きしてたのか』


 「はぁー、見事なブーメラン、笑わせてもらいました。私はラティシス・ウッドストックと申します」 

 

 『貴様がっ。貴様のせいで━━』


 「先に仕掛けたのはそちらですよ。どれもこれも王太子を名乗るには品のない奸計だらけで呆れた話ですが、せめて言動はもう少し上品に出来ませんか? 先程から市井のチンピラと大差なくてみっともないですよ」


 『黙れ貴様っ、不敬であるぞ。綺麗事だけでは国は治まらんのだ。国を導く者として、奸計を仕掛けたとして何が悪いっ』


 「何も悪くないですよ。政治は清濁併せ呑むが道理。奸計大いに結構。勝てば官軍結果が全てです」


 『そうだ。だから━━』


 「だから負けたら黙って反撃するか潔く散れ」


 『なっ』


 「我がウッドストック家が貶められて、負けて、私たち兄妹が世間に無実を訴えたか? 正義は我にあれとか寝言をほざいたか? あなたはいつまで恨み言を言っているの? 見苦しい」


 『ぐぬぬぅ、おのれ、おのれぇ、ん? どうした』


 ぐぬぬとか言う人初めて見た、て変な感動してたら画面に映る王太子が誰かに耳打ちされてフリーズした。


 『そんなわけ……、ちょっと待て、おい貴様ら、ラティシス・ウッドストック、マーテサクヤ、貴様ら……、()()()()()()?』


 ギギギ、と軋む音が聞こえそうなほどぎこちなく首を動かし端末を凝視して、王太子は囁いた。


 「フフフ、ひょっとして、ニドミスタンSSに到着しましたか? じゃあもうお気付きでしょう。将来設立予定の宇宙防衛軍に合わせてニドミスタンが総力を挙げて建造した移動型要塞アテナ、慰謝料代わりに頂きました。ちなみにここは、えーと、そろそろ惑星カダナの宙域を外れるかも? 他星系へのワープゲートまで移動中です」


 お椀を上下に重ねたような、超巨大なソロバンのアレみたいなヤツがフミョンフミョンすっ飛んでるわよ。


 『お前……、お前……、お前……、なんて、なんてことを……』


 「そちらこそ追い詰められて自重なしの兵器だらけの宇宙要塞に乗り込んで何をするつもりだったのかしら?」


 させないわよ。


 『いや待て、ありえないっ。そいつを動かすには王族二人のパスコードが……、あ、まさか』


 うん、だからマーサにお前が連絡してくるのは予想出来た。チョロ。


 「ここに二人いるから問題ないですわ。カプリコンブ王太子殿下」

 「うわぁ、他人行儀。最後の挨拶くらい兄扱いしてあげなさいよ」

 「マーサ姉さんこそよくこんなのを兄呼ばわり出来ますね」


 『アーフリタム、無事だったのか』


 「はいおかげさまで。トップが無能だとここまで苦労するなんて思いませんでした。良い学びになりましたわありがとうございます」


 『それはっ、アテナはっ、将来宇宙防衛軍の元帥になるお前のために私が━━』


 「そういうのやめましょう? あとづけで自分に都合の良い言い訳並べて、ホント見苦しい」


 『なっ、アーフリタム、嘘じゃない』


 「私のためなら支配権に王族二人のパスコードってなんですか? 私の意見を一度も聞かない設計図はなんですか? 露呈したらただでは済まないディープラーニングのAIにまで手を出して、そんなのばかり……、鶴の一声、大公の父上が私のために作れと命じて嫉妬したのでしょう? 横槍を入れまくってバカバカしい」

 「クックック、結果オーライだ。深宇宙探索対応サイクル型要塞アテナ。半径約五キロメートル、収容人数最大二十万人。大きいだけなら無重力の宇宙でいくらでも大きく出来るが、特筆すべきは食料衣料武器弾薬メンテナンスも含めて外部に頼らず賄える点だな。コモン太子と肉眼でギリ見えるニドミスターナマダニの存在など今日中に忘れる自信しかないがロマンを求めた熱意だけは評価してやる」


 そう、プー兄さんの言う通り、軍需物資を自力で用意出来るって滅茶苦茶便利。設計図云々は兄二人がプロ中のプロだから問題ないし、鉱物資源は宇宙ってそのへんを飛んでるし。


 「生産工場はチートだろ。ありがたく使わせてもらうが」


 ボア兄さんが後ろから声をかけた。


 「ゲーセンも感謝っス」


 シーバたちも。ああ、バスティンが呼んだのね。隅に控えて、私と目が合うと一礼した。


 「AI研究とこの要塞に足りないメガ粒子砲の開発は俺が引き継ぐから安心して散れ」


 プー兄さん、メガ粒子砲はちょっと無理があるような。


 「じゃ、そろそろ宙域を離れるから、バイバイ」


 特に何も言わせず通信を切った。何か言えたとも思えないけど。


 「あの王太子の顔、なんてゆーか……」


 ボア兄さんが奥歯に物が挟まったように口をつぐみ━━。


 『まるで脳破ka (ピッ)』


 コイツまだ聞いてたの? いや、見てたってことは。


 [ブルーエンプレスと敵対するとはどういうことか、ピザーラガクンの国王はまだ利用価値があるかもなので見せたほうが得策と判断しましたマスター]


 うんまぁ事後報告だらけは慣れてるわよ使いこなしてやんよ。

 マーサに合図してカメラを向けさせて、私は正面から見据えて言った。


 「我がウッドストック家をコケにしたエクス王国に告ぐ。貴族は善意も悪意も倍にして返すのが流儀。いずれ気が向いたら帰ってお礼参りはします。首を洗って待ってなさい」


 さーて、どんな編集の動画になってどんな反響になるか楽しみね。


 航行はノクちゃんがコントロールしているから敵襲でもない限りは放置でいい。でも艦橋に行きたい気分。複数のモニターに今まで見たことのない星雲の煌めきがマーブルに乱反射して未知をアピールしている。

 私はモニターを見たまま、隣りに並んだボア兄さんに声をかけた。


 「兄さん、まだ宇宙は怖い?」

 「ん? ……ああ、どうかな、たった数日なのにいろいろありすぎて、感情を整理する暇もねぇよ。ただ……」


 ボア兄さんは頭をかきながら照れ臭そうに笑った。


 「どーせこれからも暇なんてねぇんだから先は気にせず今を楽しむさ。だから頼む、もう少し手加減を」

 「フフ、それは約束出来ないわね。私ね、確信しているの。この船には星と呼べるほど大勢の仲間が集まる。だから、いつか深海に眠るとしても孤独なんて感じないわ」


 いったんお別れエドゥー星系、行くわよ次の目的スキャナー星系。




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