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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第一章 エドゥー星系
15/34

15.新星



 惑星カダナ ピザーラガクン イテッケ州ハヌマン砂漠 午前八時五十五分


 三百六十度、陽炎揺らめく地平線の彼方まで遮るものの何もなく、一本貫くハイウェイによってここが一応文明のある土地と分かる岩石砂漠。

 私は大自然を堪能しながらビーチチェアに寝そべっていた。もちろん頭上はビーチパラソルで紫外線くんな。今日のワンピはワインレッドのフレアスカート。真珠のネックレスに大きなサングラスでちょっと背伸びしてお忍び貴婦人コーデよ似合ってる? 嘘です自分で選んでないですなんかスタイリストが船内に混じっているらしく、ショッピングモールかロイヤルスイートでも漁ったのか、差出人不明でモノだけ置かれてた。無言の圧っ。まぁこれで士気が上がるなら安いもんよ着てやんよサイズぴったりが地味に怖い。


 名前が出てこないけど遊牧民の天幕のような軍用テントが近くに張ってあって、中からちびっ子たちのはしゃぐ声が聞こえる。さっきまで散々外を駆け回ったから休憩中なのに興奮が収まらないらしい。今は見るもの全てが新鮮で楽しくて仕方がないみたい。ママと一緒に星団中を観光しましょうね。


 『間もなくニドミスタンがピザーラガクンに宣戦布告、侵攻を開始します。保護者の皆様へ再度注意喚起します。これはシミュレーターではなく本物の戦争です。ショッキングな映像が映る可能性は極めて高いので、どうか小さいお子様の目に入らないようご配慮を━━』


 側のテーブルに置いたモニターからアナウンサーの畏まった声が聞こえた。待たせたなぁ、残虐ショーの始まりだヒャッハー、て副音声も聞こえる。


 モニターに目を向けると、どこかの基地を斜め上から撮影。ヘリから中継してるっぽい。別のモニターには同国衛星軌道上に張り付く宇宙船グリンカンビからの赤外線画像。撮っている場所は違う。


 そう、今から始まるのは戦争という名のバラエティ。奇襲は……、なくもないけど難しい。情報が筒抜けだから。通信傍受に限らず例えばー、人や物の移動とか、軍事予算の増減とか、戦争の準備なんて大規模だから隠せない。


 モニターには軍事評論家だのナントカ教授だのが下馬評を解説している。ピザーラガクン側の番組制作だから言葉は濁しているけど、ほぼピザーラガクンの負け確。タイマンだったらニドミスタンに勝算なしだけど、今はこの地域に爆弾を抱えていまして、いやはやまぁだからこのタイミングで仕掛けるんですねぇ、とか事情通ぶって語ってる。


 公式から非公式までギャンブルも盛り上がっているでしょうね。いや無理か。ピザーラガクンは最近評判が悪い。支持率なんて不敬な数字は表に出ないけど、口に出さない空気はやっぱりと言うかある。ニドミスタンのオッズは1.1倍とかしょぼそう。


 こうなる前にピザーラガクンは戦争を仕掛ければ良かったのに、て? まともなスポーツに置き換えてみましょう。世界ランクトップのチームが底辺チームにばかり試合を申し込んでいたら、ルール的にはオッケーだとしてもアリ? ダサすぎて世間の嘲笑を浴びるでしょ。出来るからやっていい、とはならない。国家も王侯貴族も体面(メンツ)が命より大事。自分さえ良ければそれでいい、自国ファーストなんて恥ずかしげもなくダサすぎる台詞を吐く老害がトップでいられた時代は地球で終わってるのよ。地球人はよく我慢出来たわね。


 だからニドミスタンのストレスが限界だった、という見方もできる。いつでも潰せるけど出来なくて良かったなぁ? て態度の隣国にナメられていたら、そりゃいつかやってやんよって気持ちにもなる。感情で動く人の集まりはメンドイわね。


 九時ちょうど、モニターに緊急速報の字幕が流れた。茶番感が凄い。

 ヘリから撮っているカメラの向こうから鳥の群れのような染みが滲み、ニドミスタンの航空戦力が基地に飛来。画面中に曳光弾の光やミサイルの煙が尾を引き、音は小さいけど基地周辺にも爆発が連続した。

 流石に巻き込まれないよう相当遠くから撮っているらしい。


 『デルタ、対空砲に被弾、車両があったら回してくれ』

 『エリアT-6、クラスター爆弾で地雷原が消えた。来るぞ』

 『アルファ、スナイパーに一人抜かれた。マークスマンでいいから寄越してくれ』

 『外壁損傷七十オーバー、圧が激しくて保たない』

 『エリアK-3、そこは放棄してT-5に回れ』


 特番にはピザーラガクン軍の通信が流れている。なんか真面目に戦争しているっぽいでしょ? でもこれは半分ヤラセよ。もちろん命が懸かっているから真面目に戦ってはいるけど、放送されるって分かった上でのやりとりだから演技しているの。ドキュメンタリーの登場人物のオーバーリアクション、と言えば分かりやすいかしら。


 国からの圧で放送されることはない、不真面目二等兵だけでコッソリおしゃべりしているチャンネルに繋げると。


 『あー、今耳かすった。チュンって』

 『そろそろ逃げてもよくね?』

 『まだ三分経ってねぇぞ』

 『三分経ったら逃げていいルールなんてねぇよ』

 『はぁー騙された』 

 『いや無理、ホント無理だって。数多すぎー』

 『俺、この戦争が終わったらピザ(ドゥン)』

 『ハットぉぉぉ』


 ね? 本物はこんなもんよ。こういうヤツらのほうが長生きしそうな気はする。


 戦争はほんの十分程度で終わった。開始時の戦力に差があるからどうにもならない。五人対八人のバスケでも想像してみて。1stクォーターでギブアップするでしょ。


 全滅するまで粘る、ということもない。そんな戦いは古代でも滅多にないだろうし。負けがハッキリした時点で後退命令が出る。基地内から撤退ラインに地雷などのトラップを仕掛けて、被害を抑えて再戦に挑む。包囲されて逃げることも出来ない場合は降伏して捕虜になることもある。

 ゲリラ戦とか一応勝ちにこだわる展開もあるけど、大体の戦争はこんな流れになる。死人は出るけどゲームの雰囲気が強い。


 もう一つのモニターに映る赤外線の画面も赤い人形(ひとがた)がわちゃわちゃ動いている。ここはまだ始まってないが、この様子だときそうね。


 ここで本当に終わるパターンもある。勝ったほうが新開発の野菜を輸入してくれよぉと頼むような、それ戦争する必要ある? て言いたいヌルい交渉とか。


 戦争がスポーツと化し、憎いから殺し合う、という感覚は薄れた。ゼロではないけど。むしろそういう好き嫌いで殺すとか中身イキリボウヤかバキューン教でもやってんのか? という評価で見下される。プロレスは、ダサいと言われたら終わり。内心勝ちたくてたまらないとしても、美学を捨てたら最終的には禁じ手の破滅に進んでしまうから。


 ニドミスタンは……、ここで止めないでしょうね。交渉の内容が何かは関係ない。真意は完勝したという事実をもってピザーラガクンの権威を落とすことだから。もちろん真意は隠す。こういう政治的駆け引き自体は有史以来変わらないわね。


 私は端末を手に取り、昨夜この国の王から貰ったコードを入力、秘匿回線(ホットライン)を繋いだ。


 「ごきげんよう(アロー)


 『はぁ、今忙しいのだが』


 「だからかけました。直通って便利ですね。コードを教えてくれて感謝します」


 『プライベートの端末にかかってくるよりマシだから教えた。どこから漏れた?』


 「知り合いの言葉です。数学的にほぼ百%、端末に登録されている相手を辿ると、六、七人くらいで惑星上の誰にでも繋がるそうです。だから……」


 『え、嘘、マジで? 言わないで』


 「知り合いの知り合いの知り合いの知り合いの知り合いの知り合いまでの端末をハッキングすれば全員に繋がる、だそうです」


 『言っちゃったかぁー。ワシの端末王族モデルもやられてたかぁ。国王生活三十年の中でショッキングなニュースの三位に躍り出やがったチッキショー』


 「国王って暇なんですね。本題に入りませんか?」


 『はぁーもうっ、はぁーもうっ、ちょっと君一発叩いてくれたまえ。そう、そこだ。イヤじゃないやれ。はぅん。……よし。個人的には依頼したい。だが、国民感情というものがあってだな、容易く外部のチカラに頼るのは情けない、と受け取られるのだよ』


 「今の音声公開されるより情けないですか?」


 『言い値で雇おう。幾らだ?』


 毎度ありー。特別サービスもつけて手早く交渉をまとめて通信を切った。

 モニターを観るとやっぱり本番はここかららしい。


 「みんな、出撃準備をお願い」

 「「「はいっ」」」


 砂漠(デザート)仕様の迷彩服に身を包んだ娘たちがテキパキ動く。光学迷彩のスイッチを切ると滑走路代わりの道路脇に戦闘機が出現し、一人が乗り込み暖機運転に入る。テントの設営といい、本当に後方支援はありがたいわね。

 私はテントに入ると無頓着に全裸になってGスーツに着替えた。鏡越しに寝息をたてるちびっ子たちの顔を見て癒されながらルージュをひいてンーッパ。っし、いくか。ん、ホットライン?


 『おいっ、なんだアレ、特別サービスってアレなにぃー?』

 

 「喜んでくれてなにより」


 『よろこ(ピッ)』


 ホント暇なのね。こっちは忙しいの。


 ピザーラガクン南オミオン基地 午前九時三十分


 国境南の山脈沿いに位置する、対ニドミスタン防衛の司令部が置かれた最大軍事拠点。ニドミスタンにとってはここが最初の本命になる。まずは国境最前線の監視を任務とする駐屯地を全て落とし、戦力が削れたことを確認してから本命を落とす、という戦略ね。


 ピザーラガクンの賢い立ち回りとしては、全ての駐屯地は始めから捨てて、このオミオン基地に戦力を集中させるべきだった。ニドミスタンもそれを警戒しているからまずは駐屯地を攻めて様子を伺った。

 ピザーラガクンは賢い立ち回りが分からないのか? 違うのよ。プロレスだから、賢いだの効率だのとは対極の美学が働いちゃうのよ。


 ただでさえ軍人は精神論を好む。同じ戦闘部隊でも最前線で戦う庶民と違い、命令が主な貴族に筋肉至上主義者が多いのもそう。ほぼ男だけがやってる野球にも多いわね。下らない。筋肉を鍛えても、骨や腱までは強化されない。戦闘機の骨格(シャーシ)はそのままエンジンだけを替えたらどうなる? 重くてパワーがあるエンジンに。そりゃ故障率が上がって当たり前でしょ。下手すりゃ空中分解よ。ボディビルダーはいい。実利ではなく鑑賞のための筋肉だからケチはつけないけど、アスリートや軍人がそれはダメでしょ。と言いたいけど、軍人はプロレスラーの一面があるから、魅せるための筋肉もアリっちゃアリなのよね。


 五人対八人のバスケが無謀なのは分かっていても、勝てないから棄権しよう、という考えを良しとしない風土が軍にはある。勝てないから逃げますって言われたら、守られる国民はフリーズするんじゃね? 最後の最後は死んでも逃げてはいけない責任が軍にはある。最終的に勝つための撤退、転進ってものもあるけど、いつでも賢く立ち回れる生き物ではない。軍人も、人間も。


 さらに軍の美学を代表するものが、ロボット。はっきり言って弱い。戦車より攻撃力が低く、戦闘機より遅く、なによりデカくて目立つ的。頭が悪いにもほどがある。ドレスアームズと呼ばれるその名称がもう世間からの揶揄を含んでいる。ドレス、見た目重視の兵器。大体特注(ワンオフ)ですんごい高価だから貴族のおもちゃ、というニュアンスがある。


 そのドレスアームズを三十両くらい先頭で行進させて、ニドミスタン軍が基地から見える平地に布陣した。

 ロボットは一両一両形が違うけど、全長は平均十メートルくらい。もうカメラ映えをガッツリ意識してるでしょ。ここで派手に暴れて完全勝利を世間にアピールしたいんでしょうね。戦争がいつ終わるのかはニドミスタン次第、あるいはピザーラガクンが降伏宣言するまでだけど、この基地を落としてしまえば後は消化試合に等しい。


 『諸君っ、ここが正念場だ。一人一殺して生き残れば我々の勝ち。各自健闘を祈る』

 『祖国に栄光あれっ』

 『祖国に栄光あれっ』


 うわぁ、もうなんか悲壮感が漂ってるわねぇ。一応、一応あっちのチャンネルも覗いてみましょう。


 『へっ、数で勝敗が決まってたら戦争なんて無ぇんだよっ』

 『ここから入れる保険はありますか?』

 『ったく、しょーがねぇーな。このチカラを解放したら、俺が、俺自身どうなるか分かんねぇのに』

 『全財産……、ニドミスタンに賭けちった。帰ったらおごってやるよウヘヘ』

 『しっ、今なんか、降りてきた……、啓示?』


 こっちもオモロい感じに終わってるわね。ニドミスタンは進軍開始。まずは航空戦力が先駆けて制空権の奪い合いになる。現場に向かいつつグリンカンビの衛星画像から状況を見ていた私もそろそろ着くわよ。オープン回線に繋いでアフターバーナー。


 [南オミオン基地管制塔へ、こちら傭兵団アタナシア・レミングス、参戦します。間違えて撃たないでね]


 『了解。敵味方識別装置(I F F)に登録した。……一機とはいえ民間人が戦闘機とは凄いな。健闘を祈る』


 [ありがと]


 傭兵デビュー戦だから張り切っていきたいけど、残念ながらまだ目立つわけにはいかないのよねぇ。国王の言った通り、国民感情、あるいは軍人の意地というものがある。一戦だけの助っ人外国人にMVPをとられたら素直に喜べないでしょ。だから━━。


 『くそっ、ケツにつかれた、誰かっ』


 [ほいっと]


 味方機の後ろに張り付いた敵機の真上から強襲。バルカン砲ちょろっと撃って、すれ違いざまに横目に撃破を確認した。


 [背中は私に任せて突っ込みなさい]


 『惚れたっ、結婚して下さい』


 [分かってるだけでも親衛隊(ヤンデレ)が八百人はついてくるけどいい?]


 『遠くから応援してますっ』


 今日の仕事は支援に徹するわよ。先頭は味方に行かせて、私は一ライン下げて後ろにつけようとする敵機を潰す。

 目敏く私が厄介と判断した敵機から対空ミサイルが撃たれた。私はミサイルを連れて、爆撃機を撃墜した味方機を襲う敵機の下に潜り込むように通り過ぎる。ワンテンポ遅れてついてきたミサイルが敵機にごっつんこ。

 そのままインメルマンターン、宙返りして上空に腹を見せている敵機をバルカン砲で撃ち抜き、ミサイルを撃ってきた敵機が爆炎に隠れて見失った私を探す隙に後ろにつけてバルカン砲で撃破した。


 『なぁ、気のせいか? ヤベェ味方機がいねぇか』

 『あのへんだけシューティングゲームだよな』

 『バレルロールでミサイル回避って初めて見た』

 『バルカン砲も回避したような、俺疲れてるわ』

 『アタナシア・レミングス? まさかな。ないよな。あの人なわけないない』


 なんで目立つのよさっさと全員突っ込みなさい。戦争なんて綱引きと同じ。パワーバランスが決まれば一気に勝敗が決する。古来より使われる指針は、戦力を一割失えば負け、てヤツね。バスケじゃなくサッカーのほうが適切だったか。一点取られたほうが一人消えるルールで、十一人対十人のサッカー。まだワンチャンありそうだけど、確率的には負けを認めたほうがいい。粘っても、時間が経てば十一人対九人に差が開き、もっとひどくなる。

 そんな盤面をひっくり返すのがエース。ピザーラガクンにエースはいないらしい。一番優秀という意味のエース部隊はいるけど、まぁ普通の腕ね。コッチ見なくていいから行きなさい。

 そしてニドミスタンのエースは……、プッ、あれか。


 『我が軍の航空部隊はなにをやっとるのだっ。もうこちらの勝利は揺るがん。全軍、突撃ぃぃや』


 わざわざチャンネルを変えてこちらにも聞かせること? まぁニドミスタン側の番組映えを狙ってるのか。

 二足歩行に重装甲のロボットでドスンドスン走ってくる、名前を覚える気もないコイツがアビャーナの兄、大公の次男、軍のトップにしてエース、らしい。いやトップが先陣を切るって何時代よ。勝ち確だから目立ちたいって欲望がオーラになって目に見えそう。ちなみにトップであって元帥ではない。身分が絡むとこのへんややこしいわね。将来の元帥は確約されている現・小将、くらいの立ち位置のはず。

 

 [空は任せて潰してきなさい]


 『はいっ』


 なんで私が上官みたいになってんのよアンタ部隊長でしょうが。

 二足歩行だの四脚だの無限軌道(キャタピラ)だの、統一感のまるでないロボットが塊になって突撃してきて、戦車や装甲車が遅めに追従して、その後ろに隠れるように歩兵が走っている。要はロボットが突出してしまっていて、制空権はこちらがとったから、分かるわよね。


 残りの敵機を追いかけながら(※撃墜数トップ)地上を見下ろすと、味方機が雁行陣を二列に組んで爆撃していた。広く斜め一列になって、一拍おいて前の機体の真似をすると全機がタイミング良く攻撃出来る古き良き戦術ね。どの機体も投下型の爆弾をセッティングしてあるらしく、ものの見事にロボットの群れをフルボッコにした。ついでに後方の敵部隊にもバルカン砲を掃射しながら通り過ぎるとまぁ悲惨。基本開けた戦場って戦闘機で決まる。結果が見えてたのに地上を突撃って無謀なことよくやるわ。


 ほとんどのロボットは沈黙か弾薬に誘爆して大破して、隊長機を含めて三機、ベイルアウトした。おー、これがロマンってやつ? うなじの辺りが弾け飛んで、マッサージチェアみたいな席ごとマッチョが空高く吹き飛んで、天高く浮いて、パラシュートが開いて、私の視界に入った、から、トリガー。宇宙兼用でもあるロボットの脱出がなんでパラシュートなのよフザけてんの?


 『『『えぇー……』』』


 [分かってるわよ。私だって腕に蚊が止まった時は叩かないほうがいいって分かってるけど反射的に動いたんだからしょうがないでしょっ]


 『うわぁ、息を吸うようにヒデェ言い草』

 『この毒舌、やっぱあの(ひと)だろ』


 [そんなことより掃討戦よ、行きなさい]


 いかに航空戦力が重要か、ではあるけど、にしたってこれはひどいわね。負けるってことを想定してなかったから。ロボットで群れて運用なんておかしなことをしたから。周りをイエスマンで固めてエースとおだてられて勘違いしたイタい脳筋がトップになっちゃったから。いろいろ理由は考えられるけど、それでもこれはないわね。


 戦場では背を向けて逃げる敵を撃つ掃討戦が最もダメージを与える。だから撤退ラインに罠を仕掛けたり、練度の高い部隊がしんがりを受けて最善を尽くすわけだけど、呆れたことにそういう備えもしていなかったから哀れなほどの死者を出した。


 さて、随分早く片付いちゃったけれど、そろそろ始まるのかしら。勝どきを上げる味方の通信を聞き流しながら、特番のチャンネルの音声だけ拾ってみた。


 『緊急速報です。ただいま、ニドミスタン公国より、デシアス領、ワーネギー領、エラントロン領がピザーラガクン王国に恭順すると声明を発表しました。各領地を治める貴族はアーフリタム公女の派閥に属しており、アーフリタム公女と言えば今エクス王国留学中に宙賊に誘拐されたとして安否が気遣われていましたが、この事件の首謀者がなんと公女の兄にして王太子であるカプリコンブ・ニドミ・サンドーミであるとして、数々の証拠と共に糾弾、このような非道がまかり通る国に未来なしとの説明がピザーラガクン報道官を通して各メディアに通達されました。繰り返します━━』


 きたきた特別サービス、こんなの貰ったらそりゃ嬉しいわよね。


 『現在安否不明のアーフリタム公女に代わって派閥をまとめるマーテサクヤ公女もこの顛末は当然のこととして、ピザーラガクンに派閥が受け入れられた後、地に落ちた王家の一員として公の場からは身を引くとの決意表明がなされました。なお、王太子陣営からはこの件に関するコメントは一切出されておらず、真相究明が待たれます。ちなみに現在我々の手元にある資料は、ニドミスタン王家からの裏金の拠出を示す口座記録。それぞれ、(くだん)の宙賊、エクス王国第三王子、コリアンテ王国王弟次男、ピザーラガクン王国第二妃、ここから今独立運動を起こしている地区にも資金が流れていることが判明するという、近年稀に見るスキャンダルとなることは確実でしょう』


 何がヤバいって、プー兄さんが用意したこれらの証拠の大半は捏造なのよ。黒なのは確定しているからやりたい放題。ちゃんと調べよう、てなったら困るの相手だし。


 『他にもこのような音声データが提供されました。ニドミスタン軍公都防衛師団第二連隊航空部隊隊長、ユカペソ・ハイツクバーナ准佐と宙賊の通信です』


 “っざっけんな。こんな真似してただで済むと思うなよ”

 “ほう、どうなるのかね”

 “人質は全員死ぬんだよ。ざまぁみやがれ”

 “ああー、それは手間が省けて助かる”

 “は?”

 “とはいえ、そっちはどうでもいいが、君たち宙賊には万が一にも逃げられると面倒だからね。この宙域には通信妨害(ジャミング)を張らせてもらったよ。それで、なにがざまぁだって?”

 “みんなっ、逃げろ。ひとりでも逃げれ━━”

 “これだから下民は。潔く死ね”



 本物も混じってるしね。王家の身内に足元を掬われる。世界中が注目するイベント中に自分の得意技をくらった気分はどう? これがプロレスってもんよ。さぁ、スリーカウントのゴングに向けて盛り上げましょうか、王太子クン。

 



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