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いつか深海に眠るとしても  作者: 丘上
第一章 エドゥー星系
13/33

13.必殺



 ワンルーム程度の自室にて、私はベッドに服を脱ぎ捨てGスーツに着替えた。王家仕様だからインテリアは高級感が暑苦しいけどまだマシか。いかにもなロイヤルスイートもあってそっちは肌に合わなくて無視。さりげなくどの家具も固定されているのが船っぽくて面白い。服は帰ってきたら散乱してるかもだけど、どうということでもない。


 いつものルーティン。ルージュをひいてンーッパ。ヘルメットとサーベルを掴んで細い廊下を歩く。流石に王家のために通路も照明も全てを無駄に豪華に、ということもなく空間設計は真面目っぽい。自動ドアにコンビニ音が仕込んであったからまだ信用してないけど。


 脳内に表示された地図に従い、宇宙船グリンカンビの腹部下層近くへ。全長三百メートル、幅百メートルの機体の中心が豪華客船風になっていて、外側は軍事で固めてある。

 なんせ人がいないからスーツと一体化した軍靴の足音だけが響き、ちょっとしたホラーゲームのVRでもプレイしている気分になるけど、目的地に到着してソレを見るといやでも高揚する。


 コリアンテ開発の宇宙用戦闘機、コルベット級。名称は特に……、あったようななかったような? 宇宙と地上は分けているから、スターなんちゃらとか無理につけなくても。識別個体名はあるだろうけど覚える気はないし、長く付き合いたいから勝手につけちゃおう。うーん、ふてぶてしいオッサンのようなマーモット味を感じるからマモちゃんで。よろしくマモちゃん。


 『艦内カメラでソッチは見えてる。発進シークエンスは俺のエクステで制御するから乗っていいぞ』


 「了解」


 艦橋で操縦しているシュヴァインことボア兄さんから通信が入り、私はヘルメットを被って歩道橋のような階段を登り、あぶみに足をかけてマモちゃんのコクピットに真上から降りた。はたから見るとアレよ。なんて言ったっけ。クレーンゲーム。


 地上の戦闘機のキャノピーは透明だけど、宇宙でそれはない。何を守っているのか謎なビキニアーマーじゃあるまいし。宇宙用は潜水艦以上にガチガチよ。エクステに接続するとモニターに周囲が映り、システムチェック、オールグリーンになると床ごと機体がスライドして隣りの区画に移動した。車輪がないから重力下にあると自力で軽快には動けない。そのへんの壁にゴツンゴツン当ててもいいなら別だけど。

 シャッターが降りると区画が無重力に切り換わり、通路周囲からの電磁力の反発で機体が軽く浮いて中央に固定された。

 目を閉じて静かに集中していると、プフェートことプー兄さんから通信が入った。


 『敵艦隊と一万キロメートル離れて追跡中だが、通信傍受から宙賊基地の座標は特定した。相手にバレるリスクはあるがスキャンするか?』


 「お願い」


 基地は分かったから、もう艦隊を襲ってもいい。仕掛けるタイミングは私が決めろ、という意味ね。どのみち交戦可能範囲に入れば相手にバレて警戒される。すでに戦闘中で飛び入り参加とかならともかく、宇宙で不意打ちは待ち伏せ以外は多分無理。だったら怪しい電波を拾って警戒されてでも先に情報を取ったほうがいい。


 『敵艦隊は中隊規模。駆逐艦一隻ずつの二隻、小型戦闘機が十五機ずつの三十機。公表されている機体名の該当なし。非合法用(イリーガル)だから隠しているんだろうが、デザイン性からコリアンテとニドミスタンって一目で分かる。気になる点は、駆逐艦も戦闘機もメイン兵装がレーザーっぽいんだが、だとしたらリスキーなコンセプトで面白いな。ロマンが分かっているじゃないか。前進速度が遅くなったことから推定するに、宙賊に連絡しておびき寄せようとしてないか?』


 「宙賊の側は自分たちをまだ味方と勘違いしているから利用しようって? なんてゆーかコイツらの思考って、いちいち合理的を気取って楽しようとしすぎじゃない?」


 あとレーザーがメインなのは弾薬費を抑えられるからじゃない? 軍って金食い虫だから派手な出費で非合法活動がバレないように、とか。ひとりで街に放てば堂々と無銭飲食しそうなプー兄さんにはピンとこない考え方でしょうね。


 『おそらくは訓練期間に充てていたんだろうが、狭い駆逐艦に一月も待機して暇すぎて本人的には完璧な作戦立てたんじゃねーの。アソビのない計画なんて絵空事だっつーのに。まぁ万全を期したつもりの自信家を潰すと気持ち良いよな』


 「うーん、じゃあ私も出ちゃうか。交戦中に不意打ち出来たらラッキー。出来なくても別にいいや、の精神で」


 『ククッ、アドリブって対極見せつけんなよ。全然心配してないけど常識的には無茶な戦力差だぞ』


 「戦場の常識を笑い飛ばすからエースなのよ。ボア兄さん、お願い」


 前方三十メートル先のハッチが開いて覗く冷酷無慈悲なサイクロプスの瞳。格上だろうと多勢だろうと必ず殺す。ジャイアントキリング上等!


 『goodluck』


 「yah」


 電磁カタパルトに押し出されながら重力ブーストオン。自由落下で前進した。


 推進方法について簡単に説明しようかしら。難しい説明は出来ないとも言う。「量子(りょうこ)陽子(ようこ)ってどこの女よ」って答案用紙にヤンデレーエフと名乗ってボケてウケて満足した私の理系力をナメないで。


 まずはベッドのシーツのような布を想像して。四人が四角を持ってピンと張る。この布にボウリングの玉を乗せたらへこむでしょ。このへこみが重力ね。重ければ重いほどへこみは深くなる。大きければ大きいほど広範囲に影響を与える。このへこみにビー玉を投げると、ルーレットのように回り続ける。これが公転。


 質量の重い物体はシーツという時間と空間、時空を歪ませる。逆に、時空を歪ませれば質量がなくても重力が発生する。重力子の発見と利用法の研究が進み、ある程度はコントロール出来るようになった。結果、現代の宇宙船は人参をぶら下げた馬と同じ。人参の代わりに重力をぶら下げている。

 宇宙で終わりのない自由落下って、理論上は光の速さまで加速出来る。もちろん実際は無理よ。速すぎると小石に当たっただけで爆散しちゃう。それに重力子を飛ばして重力を作る速度を追い越したら逆にブレーキがかかる。そりゃ人参が後ろに流れたら馬も振り返るわ。


 この移動法の問題点は初速が遅いこと。流石に宇宙船丸ごととか、広範囲に作用する惑星レベルの重力をホイホイ作るのは無理だから。小惑星の上でジャンプする人間でも想像して。最終的には光になれるとしても始めはゆっくりなの。

 その欠点を補うのがもう一つの推進方法。電界のコントロール。磁石の同極は反発するでしょ。その反発力で加速するわけ。スラスターと呼ぶ、船体の全方位にこの反発を生む機構があって、基本は前に落下しながらスラスターで初速を上げたり向きや経路を変える、というのが宇宙船の仕組みなのです。これ以上は知らん。これ以前もエアプなのに。


 要は無酸素の宇宙で酸素を燃焼するロケットなんてコスパが悪すぎて使い物にならないから、電力で解決出来る方法を模索した結果らしいわね。そもそも電力、バッテリーの技術革新が文明史的には凄いらしいけど、どう凄いのやらサッパリ?

 あと当たり前だけど、これらの技術は地上ではたいして役に立たない。惑星の、自然の重力には勝てんのです。地上に降りられる宇宙船は宇宙に飛ぶ時は最大出力で使いつつ、普通にモーターエンジンに頼る。ああ、このエンジンも地球の技術を逸脱しているのかしら。燃焼ではなく空気を吸って吐くシンプルな仕組みだけど、吸引力の変わらないただ一つの技術を極めたら掃除機が空飛ぶのスゴくない?


 三分ほどかけて第一宇宙速度、秒速九キロメートル、地上のマッハ換算だと二十いくつかまで加速して、二十分も経たずに近距離レーダーにターゲットが表示された。ホントに遅いのね。


 『通信チャンネルは国際(I)宇宙(S)ステーション(S)で破棄された旧式の消防無線を使ってる。後ろ暗い連中はなんとか隠そうと工夫してるんだな。それで分かったことがひとつ。先日のイレギュラー、近所から何故かお人好しな航空小隊が参戦しただろ? アレ、俺は情報を遮断していたのにどこをミスったのか気になってたんだが、こういうカラクリだったんだな』


 へぇ、アイツらも裏の顔があったと。妙に実戦慣れしている態度だったし私の正体を知った上で向かってきたし、言われてみれば納得。

 プー兄さんにサラッと傍受されてるチャンネルを共有すると、やかましい悲鳴と怒声がわちゃわちゃと。始まってたか。てか宙賊もオープン回線は避けてるのか。今後のためにも注意しておこう。


 『っざっけんな。こんな真似してただで済むと思うなよ』

 『ほう、どうなるのかね』

 『人質は全員死ぬんだよ。ざまぁみやがれ』

 『ああー、それは手間が省けて助かる』

 『は?』

 『とはいえ、そっちはどうでもいいが、君たち宙賊には万が一にも逃げられると面倒だからね。この宙域には通信妨害(ジャミング)を張らせてもらったよ。それで、なにがざまぁだって?』

 『みんなっ、逃げろ。ひとりでも逃げれ━━』

 『これだから下民は。潔く死ね』


 というタイミングでお邪魔しまーす。

 宇宙の戦闘は近接が基本。クレー射撃でも思い浮かべると分かりやすいけど、横切る物体に射撃を命中させるのは、点の攻撃だから当てるのが難しい。散々訓練した人が近くから狙ってあんなどんくさい放物線を描く的に当てることすら難しい。なのにマッハ十から二十で横切る敵に当たるか? 無理無理。遠くからじゃ光学兵器を使って連射しても一生当たらない。

 だから相手の後ろにつけて、自分も相手も同じ速度で同じ方向なら相対的に止まっているに等しいシチュエーションで、文字通り射線、線の攻撃で当てる。地上のドッグファイトも考え方は同じ。あっちはまだ対面からの射撃もイケるけど、宇宙はねぇ、対面だと目で見えたコンマ一秒後には遥か後ろだから。人間の反応速度ではまともな戦いは出来ない。


 というのが常識。反応速度が人間辞めてる私には通じない。あと何回もマッハいくつとか言ってるけど、普通の人間はそんな速度で移動は出来ても戦えない。瞬きしている間に衝突してお陀仏。時速八百キロメートルの車に乗って、無人のハイウェイならともかく、街中をドライブ出来る? 超高速戦闘ってそんな感覚だから、普通の人はせいぜいマッハ三、地上の最高速と同じくらいが限界みたいね。コクピットの回りに重力制御を仕込み、カウンターGを当てて相殺するから地上より負担は軽いけど、目が追いつかないらしい。だから━━。


 『は?』


 誰の声かは知らないけど、全員同じ気持ちかもね。レーダーを注視していれば私の接近に気付いたはずだけど、ジャミングを発動して宙域は密室になった、そう油断するから不意打ちを許した。

 おそらく最初は艦隊がレーザーで一斉射撃して、味方と思い込んでいた宙賊の乗る小型戦闘機を十機くらい?正面から撃ち抜いた。宇宙船の装甲は低温高温放射線に耐えるからレーザーにも耐性があるけど、軍用の光学兵器をまともにくらうと無理だったみたい。そして残る宙賊の船は三機。


 ここで重要なポイントは、全員止まってる、ってこと。ぶっちゃけ、ただのボーナスステージでしたごちそうさま。


 私は群れの中に一瞬で突入、いったん重力を消して前方にスラスターで急ブレーキをかけてから他のスラスターも次々に発動。速度を落としてなお高速前進しながら独楽(こま)回りしてロックオン表示より速くトリガー。一発でも当たれば大穴を空けて貫通する秒間六十発のレールガンを乱射して、とりあえず近くの戦闘機二十三機を撃破。重力を戻して加速して、宇宙で変な表現だけど上に出て俯瞰、二隻の駆逐艦にロックオンしてマイクロミサイル発射。ミサイルは途中で分裂して八十発の小型ミサイルがクモの巣のように煙を吐きながら駆逐艦に向かい、全弾撃ち落とされた。


 そう、宇宙戦闘で一番気をつけるべきは大型艦に搭載されているこの迎撃レーザーね。近距離防衛力が高く、なにより自動、人じゃないから動揺しない。この戦闘で唯一まともに反応出来た相手だったわ。でも。


 『! っつ。まずいっ、宙域を離脱しろっ、レーザーが無効化されたっ』


 そう、言ったでしょ。レーザーって弱点だらけで使い勝手最悪なのよ。駆逐艦の周囲に煙幕とジャミングが発生して、迎撃システム、CIWSが機能不全になってレーザーの攻撃力も著しく下がる。空気抵抗のない空間に煙幕は高速で広がって、この戦場全体にレーザーデバフがかかった。もちろんほんの数秒だけのデバフ。煙は高速で消えてしまう。でも数秒あれば十分。


 『なんだよ、何が起きてんだよぉ』

 『敵? どこだよ見えねぇ』

 『レーダー……、ってクソがっジャミングされてるっ』


 混乱している数秒で残りの戦闘機も撃破。棲んでいる速度域が違いすぎて、あなたたちの目では追えないのよ。煙が晴れる寸前、通りすがりの至近距離から大口径レーザーキャノンで駆逐艦を二隻沈めた。レーザー攻撃はこう使うのが最適解ね。


 [宙域、オールクリア。先に宙賊のアジトに行くわね]


 『了解、後ろをのんびりついて行く』


 宙賊? まとめて倒したわよ当たり前でしょ。国が宙賊を使って行っているのは、他国への通商破壊。具体的にはコリアンテがエクスに対し、宙域を通る商船を襲わせたり、人質をとるなどして治安をおびやかしたり、密貿易の仲介をしたり、要は国家規模の嫌がらせをする。多くの国が同じことをしている。その国と繋がる宙賊はその国の宙域にアジトを作り、他の国の宙域で暴れて、アジトに逃げるから取り締まりが難しい。というかほぼ出来ない。

 だからいつの時代も海賊と宙賊はなくならないのよ。山賊と盗賊が末永く暴れた本人的にはハッピーエンドがひとつでもある? 海賊はお宝を残した伝説とかざらにある。山賊と盗賊を野放しにする国がひとつでもあったらギャグね。フィクション以外に聞いたこともない。

 そして宙賊に同情出来る余地はない。表向きは民間宇宙船を違法改造したテイで、国のバックアップを受けてテストパイロットになって、他国の民間人を襲う犯罪者。地上のルールを逃れて足を引っ張り合う醜い世界の裏側。当然エクス王国も。軍にいたころから黒い噂は聞いていたから、常々こういう連中を掃除したいとは思っていたのよねー。


 十分も進むとポツンと小惑星。どこの公転軌道に乗っているのか分からないほど周囲になにも見えない。へー、逆にこういうところのほうが見つかりにくいとか? あ、違う。接近が見つけやすいのか。考えてるじゃん。私ひとりで先行して正解だったかも。ド派手な宇宙船で近付いたら留守番宙賊が人質を殺しそう。


 グリンカンビのほうから小惑星をスキャンしたデータが送られて、アジトの見取り図が脳内に表示された。やや側面に回り、戦闘機が出入りする穴へ侵入。古き良き下町の工場ぽいスペースにちょっと強引に着陸した。重力弱いから機体は起動したまま、上から最弱スラスターをかけて床に固定。あと他人が乗り込んで悪さ出来ないようエクステでロックをかけておく。


 サーベル片手にふんわり、すんごいゆっくり着地。ちょっと面白い。工場風のエリアを抜けて区画が変わると、酸素があって惑星ほどではないけど重力がかかった。十分の六Gくらい。まだふわふわして動きにくいわね。


 「とまれっ、え?」


 ここまで無人だったけど、見取り図を見ながら通路を歩いていたら三叉路で宙賊と鉢合わせた、から抜刀。小銃を借りた。

 危険度が高そうなのは通信室だと思うけど、まずは人質救出を優先したいから居住区画の大広間っぽいスペースに急ぐ。想定より敵が少ないから大丈夫そうだけど。うーん、留守番なんて数人とかそんなもんなのだろうか。宙賊の一日、とかってドキュメンタリーでもなきゃコイツらの生態が分からん。番組があっても観ないけど。


 特にドンパチもなく広間の扉近くで椅子に座って端末つつく誰かを撃って扉の閂を外した。コレ? ドンパチに入らないわよ。


 「ごきげんよう、助けにきました。要望はありますか?」


 怯えさせないよう、フェイスシールドを外して顔を露出してから扉を開けて見回すと、広間には二百人ほどの女子がゴチャっとひしめいていた。ほとんどは座っているけど、五分の一くらいは立っている。私が銃声を鳴らしたせいかな。よくまぁこんな狭いスペースにえーと、一週間はいるのか。

 どの女子も疲れた顔をしている。それは当たり前だけど、これは……、やっぱり諦めてる感じ? ひとりで来て良かった。

 誰も喜ばない。声も上げない。聞きたいことがあるけど聞きたくない、そんな緊張感を破って一人の女子が私の近くに来た。ちんまい。私も女性にしては高めくらいの身長だけど、この娘は百五十あるかどうか。私の肩より下から上目遣いで訊ねた。ネットで知ったトレードマークの伊達メガネの向こうでサファイアブルーの瞳が潤んでいる。


 「あの、私たちのことはニュースに……?」

 「ええ、騒がれているわよ」


 周りの立っていた女子たちがペタンと床に崩れ落ちた。すんごい気不味い沈黙を破り、また同じ娘が話した。リーダーの立場だもんね。震える足を踏ん張って、気丈じゃない。


 「要望を聞いてくれますか? 高級な酒なんてわがままは言いません。味の良し悪しも分かりませんし。全員分の水と、楽に逝ける毒をお願いします」

 「だよね。貴女たち全員、誇り高い王侯貴族の子女だもんね」

 「はい。例え純潔だとしても、主張することに意味はありません。下世話な世間から辱めを受ける前に、どうか……」

 「下らない」

 「なっ」

 「貴女たち、今の状況は誰の仕業か分かってる? ニドミスタン公国王太子陣営よ。主犯は第二王子。将来有望な貴女が目障りなんだそうよ、プリンセス、アーフリタム・ニドミ・サンドーミ、そして貴女の麾下もまとめて排除ってわけね」

 

 全員俯いた。そうか、薄々は気付いていたと。運が悪い、でこうはならないもんね。目の前の娘も握りこぶしが震えている。そうよ、もっと怒りなさい。


 「先日、私の父、エクス王国ウッドストック伯爵は不正の冤罪を被り、毒酒を(あお)りました。でもね、勘違いしないで。父は疑われたから、貴族として誇りを汚される前に自害したのではない。味方がいなくて失望したから、と思われていたけど後に遺言が聞けました。父は、私たち子供のしがらみを壊すために笑って逝ったの。負け犬を認めて諦めて死にたい、そんな貴女たちとは違うの」


 娘が、娘たちがキッと睨みつけてきた。いいじゃない。諦めるより絶対にいい。


 「助けにきた。そう言ったはずよ。エクスの士官学校に留学していたのだから、自己紹介しなくていいわよね。私が何故ここにいると思ってるの? 貴女たちを国に帰して見世物にする気なんてないわよ。数時間前、コリアンテ王家所有の宇宙船グリンカンビをゲットしたの」

 「へ?」

 「いいもの貰って嬉しいんだけど、困ったことに乗組員(クルー)が圧倒的に不足してるの。そこに貴女たちよ。近い将来ニドミスタンに宇宙防衛軍を新設するという志を立てて、自身も元帥になるべく積極的に学ぶ公女と、追随する側近候補たち。これはもう全員頂くしかないじゃない?」

 「冗談……、ではないのですね」

 「貴女たちの原点、プライドって生まれついての家柄や血筋なの? そんな下らないものに殉じて満足? 世間体? 私の経験人数がお前に何の関係があって? 気にしなくても品と知性のない不細工は好みじゃないの。とでも言えばいいだけのことでしょ。私が評価しているのは貴女たちが積み重ねてきたものよ。今までずっと厳しい競争に勝ってきたのでしょう? 高貴な生まれだから結果を出して当たり前って顔をして、どんなに辛くても澄ました顔で。そんなに頑張って手に入れた力があるのに、簡単に死を選んで手放して悔しくないの?」


 娘たちの顔つきが変わった。そうよ。誇り高く胸を張りなさい。


 「貴族はナメられたら終わり。貴女たちを罠に嵌めて、我がウッドストック家に喧嘩を売ったニドミスタン王太子陣営にはキッチリ落とし前をつけさせます。みんなでぶっ飛ばすわよ。だから私のものになりなさい」


 「「「「「ハイッ」」」」」


 あ、これ知ってる。女の子限定、熱に浮かされたような上気した頬。崇拝フィルターのかかった信者の瞳。学校でも軍でも時々見た顔。ガチ恋勢ってヤツだ。なんで?




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