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転生したら宇宙船のAIで、隣にいるのが銀河級の爆弾娘だった(略:転爆)  作者: 怠田 眠


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第98話『星の海への逃避行にランデブー』

「――ひざまずけ」


 その一言で、暴走していた巨神は沈黙した。

 アヴァロンの輝きが、攻撃的な赤から、従順な青へと変わり、突きつけられていた数千の砲門が静かに収納されていく。


【……止まった、だと?】


 アラン中佐が息を呑む気配がした。


【……だが、武装解除だけでは不十分だ。確保する! 全艦、アヴァロンを包囲せよ!】


 宇宙軍の艦隊が、包囲を狭めようと前進を開始する。

 同時に、アラン中佐からの通信回線が開かれた。


【ポプリ・アステリア君。君がその船を止めたのか? 見事だ。では次にその船の指揮権を放棄し、我々宇宙軍に譲渡したまえ】


「……なぜそんなことをしなければならないのですか?」


 答えたポプリの声には、いつもの甘えや怯えは微塵もなかった。

 モニターに映る彼女の瞳は、氷のように冷たく、そして鋭い。司令官モードだ。


【君は知らないのだ。その船が……『アヴァロン』が、かつてこの銀河に何をもたらしたかを】


 中佐の背後のスクリーンに、古い記録映像が映し出される。一つの星系が、アヴァロンの主砲と思われる光によって消滅する、悪夢のような光景。


【『アステリアの悪夢』。数千年前、銀河を支配した王朝が崩壊した際、その遺産を巡る争いで三つの星系が地図から消えた。その引き金を引いたのが、君が乗っている『王家直属艦アヴァロン』だ】

『(……星系消滅兵器、だと……?)』


 俺は息を呑んだ。


【我々、統合宇宙軍の使命は、銀河のパワーバランスを維持することだ。特定の個人が、星を砕く力を独占することは許されない。それがたとえ、家族を守りたいという純粋な少女であってもだ】


 スミス中佐の目は、個人的な感情を殺した、軍人の目だった。


【君にその責任が背負えるか? 『お家』を守るために、全宇宙を敵に回す覚悟があるのか?】


 論理的で、残酷な問いかけ。

 だが、司令官ポプリは、冷ややかな笑みを浮かべただけだった。


「……下らない問答ですね」


 彼女は、真っ直ぐに中佐を見据えた。

「貴官の懸念は理解しました。強大な力は管理されねばならない。……ええ、正論です」

【ならば……】

「ですが、その管理者が『貴官ら(宇宙軍)』である必要はないと言っているのです」


 ポプリは断言した。


「この船は、正統な継承者である私が管理し、統御します。過去に何があったにせよ、現在の所有権は私にある。貴官らの干渉は、不当な財産権の侵害であり、我がアステリア王朝への主権侵害と見なします」

【……何を……?】


 中佐が言葉を失う。ただの少女だと思っていた相手から、国家元首のような威圧感をぶつけられたのだ。


「それに」


 ポプリは目を細めた。


「私が『責任を背負えるか』と聞きましたね? 愚問です。私は王の血を引く者。その程度の重圧、背負って立つのが『責務』です」


 彼女は通信機のマイクに向かって、宣告した。


「交渉は決裂です。これより本艦は、貴軍の包囲網を突破し、公海へと離脱します。進路を妨害する者は、排除します」


【……そうか。残念だ】


 アラン中佐の表情から、迷いが消えた。


【全艦、攻撃開始。……沈めてでも、確保せよ】


 再び、閃光が宇宙を埋め尽くす。

 アイギス・フィールドが悲鳴を上げ始めた。


『司令官、このままではフィールドが保ちません。どうしますか!?』


 俺の質問に、ポプリ(司令官)は冷静に答えた。


「問題ありません。この程度の包囲網、こじ開けるまでです」


 そう言うと司令官は、俺のシステム(回線)を通じて、アヴァロンに新たなコードを入力した。


【戦術プラン:アイギス・バースト(領域解放)】

【被弾エネルギーをフィールド内に蓄積・圧縮し、指向性衝撃波として解放する】


『(……なるほど! 敵の攻撃を吸収して、それを爆風として送り返すのか!)』 これなら、この巨体を加速させる推進力と、敵を吹き飛ばす目くらましを同時に得られる!

「AI。青い機体ブルーフラッシュを強制収容しなさい。巻き添えにするのは忍びない」

『了解!』 アヴァロンからトラクタービームが射出され、文句を言う暇もなくゼインの船を船体後部の格納庫へと引きずり込んだ。


「そして、本艦アルゴノーツ接続ドッキングします」 ポプリは冷静に、自身の座るアルゴノーツ号の


操縦桿を操作した。


「アヴァロン、中枢ポート開放。……還りなさい」


ゴゴゴゴ……!


 アヴァロンの艦橋基部が展開し、アルゴノーツ号を迎え入れるための専用ポートが口を開けた。 そこは、かつて「鍵」となる王族の船が収まるために作られた、システム直結用のコクピット・ブロックのようだった。


『ドッキング・ルート、算出! 推力同調!』


 俺はスラスターを吹かし、アルゴノーツ号をアヴァロンの懐へと滑り込ませた。


ガコンッ!


 激しい衝撃と共に、ロックボルトが固定される。 エネルギーラインとデータパスが物理的に直結し、俺たちはアヴァロンと「一心同体」になった。


「準備完了。……散りなさい」


 司令官が、静かに指を鳴らした。


『――フィールド、解放バースト!!』


カッッッ!!!!


 宇宙空間が、純白の閃光に塗りつぶされた。 アヴァロンを包んでいた光の障壁が、蓄積されたエネルギーを一気に吐き出し、超高密度の衝撃波となって全方位に炸裂したのだ!

 その圧倒的なエネルギーの津波は、周囲を取り囲んでいた宇宙軍の艦隊を、木の葉のように吹き飛ばし、陣形をズタズタに引き裂いた。


【うわあああっ!? コントロール不能!】

【艦隊が……押し戻される!?】


 そして、衝撃波によって生まれた真空の回廊を、アヴァロンは悠然と突き進む。 爆発の反動を利用し、巨体とは思えない加速でワープゲートへと突入した。


【……見事だ】


 アラン中佐が、モニターの中で小さくなっていく光を見つめ、ポツリと呟くのが聞こえた気がした。

 光の帯となり、俺たちは星の海へと消えた。 後に残されたのは、衝撃波に揉まれて混乱する宇宙軍だけだった。


(第98話 了)

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。


「面白い!」「続きが気になる!」「ポプリのやらかしをもっと見たい!」

と少しでも思っていただけましたら、ぜひブックマークや、ページ下部の【★★★★★】で評価をいただけますと、作者の執筆速度が3倍になります!(※個人の感想です)


毎日【11:00】更新となります。ぜひお見逃しなく!


【次回予告】

次回予告(ザブングル風)

(♪~軽快なBGM~)

(ナレーション)

さて、問答無用の脱出劇。司令官ポプリの冷徹な一撃で、アラン中佐の正論も銀河の彼方へ置き去りです。

たどり着いたのは、地図にも載っていない未開の惑星。

AIオマモリさん、その星で何を見つけますか?


次回、『転爆』、第99話『忘れられた星の記憶』

さて

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