第92話『関所破りは蜜の味?』
ピット・シティを離れて、丸一日が過ぎた頃。 俺たちは、宇宙軍の監視網が及ばない危険地帯、通称「無法者の回廊」を航行していた。
俺は、メインスクリーンで現在のステータスを確認し、ほくそ笑んでいた。 【UNIVERSAL CREDIT BALANCE: 50,000】
(ふふふ……。ゼインと折半になったとはいえ、5万クレジット。これで当分は安泰だ)
さらに、貨物室のセンサーログを確認する。 【貨物:マグマ・クラーケンの激辛燻製(優勝副賞・1年分)】 (例の激辛勝負で負けたゼインはトラウマになったようで、「いらねえ」と全部こちらに押し付けてきた副賞だが、保存食としては優秀だ。まあ、船内が少しイカ臭いが……)
そんな平和な確認作業をしていた時だった。
【警告:接近アラート! 敵性反応、多数!】
「止まれ! ここは俺たち『ブラッディ・ホーネット』の縄張りだ!」
蜂のマークを描いた海賊船団がワープアウトしてきた。数は10隻以上。
【ようこそ、アステロイド・ラリーの優勝者さんよぉ!】
海賊の親玉が、下品な声で通信を入れてくる。
【お前らが10万クレジットの賞金を持ってることは分かってんだ! 金と積み荷を置いて消えな! さもなくば撃ち落とす!】
(……情報が早い。だけど賞金が折半されたことを知らないな)
俺は即座に迎撃態勢を取るが、ポプリは通信機のマイクに向かって叫んだ。
「お金は半分しかないし、あげませーん! 積み荷はイカさんの燻製だけど、いる?」
【あぁ!? 舐めてんのかガキ! 俺たちが欲しいのは金と、俺たちが略奪した最高級の『ネビュラ・ハニー(星雲蜂蜜)』に合うツマミだ!】
「はちみつ!?」
ポプリの瞳が、海賊船(の貨物室)にロックオンされた。
「ねぇオマモリさん、はちみつがあれば甘いデザートが食べられるよね?」
『……検索します』もう、そんな場合じゃない、とか言うのに疲れた。
俺はポプリの要求に応じ、レシピデータを表示させた。
【ホットケーキ(ハニーシロップ添え)、特製ハニープリン……】
それを見たポプリは、興奮した様子で身を乗り出した。
「やっぱり! ファブリケーターの合成はちみつじゃなくて、本物のはちみつ。それもネビュラ・ハニー!!」
『あ〜、マスター、目的が変わっています』
【チッ、面倒だ。やっちまえ!】
海賊船が一斉にミサイルを発射する。
「いただきま~す!」
ポプリは嬉しそうに叫ぶと、スラスター全開で海賊船団のど真ん中へと突っ込んでいった!
ズドォォォォン!
アルゴノーツ号の接近に慌てた先頭の海賊船が、味方との連携を崩して爆散する。
その時、青い閃光が宇宙を走り、横合いから別の海賊船を撃ち抜いた。
【よう。手伝いが必要か?】
ゼインの「ブルーフラッシュ号」が、悠然と並走してくる。
「ゼイン! あの人たち、蜂蜜持ってるって!」
【ハッ、そうかよ。俺は辛党だが、甘味もいける口でな、とっとと片付けて山分けといくか!】
「うん! アルゴノーツ、おかわり!」
『(……もはや海賊行為ですね)』
リミッター解除率15%のアルゴノーツ号と、ゼインのプラズマ・ディスラプター。 この二隻にかかれば、辺境の海賊など敵ではなかった。 わずか数分で海賊団は壊滅。ポプリは漂流するコンテナから「ネビュラ・ハニー」を回収し、早速作ったパンケーキにポプリもゼノンもご満悦だ。
「ん〜! 甘くて美味しい〜! 宇宙の味がする!」
【お〜、こりゃ美味いな〜」
『……やれやれ。先が思いやられます』
(第92話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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【次回予告】
さて、海賊から奪った蜂蜜でティータイムのポプリですが、行く手には不気味な濃霧が立ち込めています。
そこから響くのは、通信機を通さない、直の「助けて」という声……。
「オバケなんていない!」と強がるゼインですが、その足は震えてます。
科学かオカルトか、霧の彼方に待つのは呪われた宇宙船。
さてAI、論理の通じない恐怖、どう解析しますか?
次回、『転爆』、第93話『戦慄! 霧の彼方のSOS』
さて




