第91話『銀河を駆ける迷惑(トラブル)』
「いってきまーす! おじいちゃん、またねー!」
ポプリの元気な声と共に、さらに強化されたアルゴノーツ号が、ピット・シティのドックを離脱した。 ドクター・ギアは、腕組みをして見送っている。
「……死ぬなよ、ガキ共。そして、その船の『心』……必ず目覚めさせてみせろ」
アルゴノーツ号がピット・シティの重力圏を離脱し、公海(宙域)に出た、その瞬間だった。
【優先回線、着信。暗号化コード:UNIFIED SPACE FORCE(統合宇宙軍)】
『……来ました、マスター。お目付役のお出ましです』
俺は緊張しつつ、回線を開いた。 メインスクリーンに、相変わらず涼しい顔をしたアラン・スミス中佐が映し出される。
【……予選突破、おめでとう。ポプリ・アステリア君、そしてAI】
中佐の声は穏やかだったが、その目は笑っていなかった。
【だが、少し派手にやりすぎではないかね? あの『光の剣』……。あれは我々の想定にも、ドクター・ギアの技術データにもない代物だ。報告書を楽しみにしているよ】
(……やはり、見られていたか)
俺は慎重に言葉を選んだ。
『……緊急事態における、偶発的なエネルギーの暴走です。制御には成功しています』
【ほう。暴走、か】
中佐は意味深に眉を上げたが、それ以上追求はしなかった。
【まあいい。結果として君たちはクリムゾン・サーペントを撃退し、本戦への切符を手にした。評価に値する】
彼は手元のデータパッドを操作し、新たなデータをこちらに送信してきた。
【君たちが向かうべき座標は送信した。そこに『アヴァロン』が眠っている可能性がある。……忘れるなよ。君たちは我々の『希望』であり、同時に敵をおびき寄せる『餌』でもあるのだ】
「わかってます! 私、絶対にみんなを助けます!」 ポプリが力強く宣言する。
【期待しているよ。……通信終了】 プツン、と通信が切れた。
『……食えない人ですね。完全に掌の上です』
俺がぼやいていると、前方の宙域に、見慣れた青い船が待機しているのが見えた。 ゼインの「ブルーフラッシュ号」だ。
【よう。随分と遅いお出ましだな、姫様? ここに来る直前、随分と厳重なプロテクトのかかった回線と長電話してたじゃねえか。おかげで待ちくたびれたぜ】
通信機から、からかうような声が響く。
(通信の内容までは聞かれていないようだが、信号の強度だけで「ただならぬ相手」と見抜いたか……)
俺は、このライバルの鋭い感覚に改めて警戒を強めた。
「ゼイン! 待っててくれたの?」
【ハッ、勘違いすんな。俺も次のレース会場へ向かうんだよ】
ゼインはそこで言葉を切り、ニヤリと笑ったような気配を見せた。
【……だがまあ、道中退屈しのぎに付き合ってやってもいいぜ。あれだけのモン(光の剣)見せられちゃ、目が離せねえからな。面白そうだ】
「ありがとう! 頼りにしてるね、ナイト様!」
【ナッ……! ナイトじゃねえ! 勝手に決めるな!】
通信越しでも、ゼインが狼狽しているのが分かった。
こうして、俺たちは新たな旅路へと踏み出した。 目的は「お母さんの船」の復活。 手持ちの武器は、覚醒した(かもしれない)ポプリと、魔改造されたアルゴノーツ号。 そして、背後には銀河マフィアの殺意と、宇宙軍の冷徹な計算。さらに隣には、底知れないライバルの視線。
(……やれやれ。引きこもりたかった俺が、銀河を股にかけた逃避行とはな)
俺は、広大な星の海を見つめながら、覚悟を決めた。 この迷惑で、愛すべき爆弾娘を守り抜く。それが、俺の新しい「ミッション」だ。
『全速前進。無法者の回廊を突破し、アヴァロン宙域の(静寂の海)へ。行きますよ、マスター!』
「おー!」
アルゴノーツ号のスラスターが、希望の光のように宇宙を照らした。
(第91話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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【次回予告】
さて、宇宙軍に釘を刺され、ゼインと共にようやく次のステージへ
ですが、行く手には「無法者の回廊」の名に恥じぬ、荒くれ者たちが待ち構えていました。
通関税? 通行料? そんなことはお構い無しにポプリの食欲と、
ゼインの火力と、AIの苦労が爆発します。
AIさん、財布の紐とシールドの出力、どっちが先に緩みますか?
次回、『転爆』、第92話『関所破りは蜜の味』
さて




