第89話『決着! 嵐の彼方へ』
ガガガガガガガッ!
船の外壁が悲鳴を上げる!
巨大竜巻「デビルズ・スロート」の内部は、乱気流と遠心力が支配するカオスの領域だった。
俺たちのアルゴノーツ号と、ゼインのブルーフラッシュ号は、互いのシールドを削り合い、火花を散らしながら、音速を超えて螺旋を描いていた。
【ヒャハハハ! 最高だ! 脳みそが焼けそうだぜ、ポプリ!】
ゼインの狂喜の声が通信機を震わせる。
「負けない! 絶対に負けないもん!」
ポプリもまた、極限状態の中で笑っていた。
『マスター。シールド残量15%。右舷装甲、剥離しました。これ以上は船体が持ちません!』
俺の警告など、暴風の音にかき消されている。
コース幅は徐々に狭まり、ついに二隻が並走できないボトルネックが迫っていた。あそこに先に飛び込んだ方が勝つ。だが、今の速度差はゼロ。このまま突っ込めば共倒れだ。
(どうする? 減速して譲るか? いや、ここで引けば負けだ)
その時、ポプリがふっと息を吐き、操縦桿から一瞬だけ力を抜いた。
『マスター?』
「……聞こえるよ。オマモリさん」
彼女は、嵐の轟音の中で、静かに呟いた。
「お船が言ってる。『こっちだ』って」
彼女はカッと目を見開き、操縦桿を逆に――竜巻の壁に向かって倒した!
【なっ!? 自殺する気か!?】
ゼインが驚愕する。
『マスター! そっちは暴風の壁です。 巻き込まれてバラバラに……!』
「ううん! 大丈夫。行くよ、アルゴノーツ!」
アルゴノーツ号は、自ら竜巻の壁に接触した。 その瞬間、船体の表面に、あの時と同じ幾何学的な光のラインが走った!
『(船体構造、再構成!?)』
ドクター・ギアが調整したナノマシン装甲が、生き物のように波打ち、流動する。 光のラインに沿って船体側面がスライドし、翼のように大きく展開。さらに船底が平たく引き伸ばされ、流線型の船体は見る見るうちに、巨大な「サーフボード」のような形状へと変貌を遂げた!
「乗るよっ!」
ポプリは、暴風のエネルギーを真っ向から受け止めるのではなく、変形した船体で風の流れを完全に捉えた。 アルゴノーツ号は、音速を超える風の壁を「波」に見立て、その背に乗って(ライドして)、遠心力を爆発的な推進力に変えたのだ!
『(馬鹿な……! 物理法則を超えている! これが、船との同調……いや、スペース・サーフィンかよ!?)』
「いっけええええええ!」
風の巨人に背中を押されたかのような、神速の加速! サーフボード形態となったアルゴノーツ号は、一瞬でブルーフラッシュ号を抜き去り、青い閃光を置き去りにした。
【……へっ。化け物が……!】 ゼインの悔しげな、しかし満足げな声が遠ざかる。
俺たちは、ボトルネックを一気に突き抜け、嵐の彼方――まばゆい光の中へと飛び出した。
「……ゴール!!」
目の前に広がっていたのは、雲が晴れ渡り、恒星の光が降り注ぐ「台風の目」。
そして、ゴールの判定ビーコンが、高らかに勝者を告げていた。
【WINNER: ARGONAUT】
『……勝ちました。勝ちましたよ、マスター』
俺は、過熱したプロセッサを冷却しながら、震える声で告げた。
「やった……! やったぁぁぁぁ!」
ポプリはシートの上で跳ね上がり、そして、糸が切れたように脱力した。
「……お腹、すいたぁ」
俺たちの船は、ボロボロになりながらも、誇らしげにウィニングランの軌道を描いていた。
(第89話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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【次回予告】
さて、地獄のデッドヒートを制し、見事に優勝を飾ったポプリとAI。
これで文句なし、ドクター・ギアも約束を守ってくれるはずです。
ですが、ガレージに戻った二人を待っていたのは、ギア爺さんの真剣な眼差しと、語られる衝撃の真実でした。
「アステリアの遺産」とは? そしてアルゴノーツ号に隠された本当の役割とは?
AIさん、ここからが本当の冒険の始まりですよ?
次回、『転爆』、第90話『約束と、語られる真実』
さて




