第88話『青と白、デッドヒート』
重力の底から上昇気流に乗り、アルゴノーツ号は弾丸のように雲海を突き抜けた。
視界が開けると、そこには、荒れ狂う大気圏界面を切り裂いて疾走する、青い光の軌跡が見えた。
『マスター、前方、距離800。ゼインの「ブルーフラッシュ号」です』
「みーつけた!」
ポプリはニヤリと笑うと、スラスターを限界まで吹かした。
リミッター解除率15%の加速力が、俺たちを一気にゼインの背後へと押し上げる。
【……ッ! 来たか、ポプリ!】
ゼインからの通信が入る。彼の声には、驚きよりも歓喜の色が混じっていた。
【あの重力の底から這い上がってくるとはな! だが、ここから先は譲れねえ!】
ブルーフラッシュ号が、背面飛行で俺たちの頭上を飛び越え、背後に回り込もうとする。ドッグファイトの機動だ!
『後方に回られました。ロックオンされます』
「させないよ!」
ポプリは操縦桿を引かず、逆に押し込んだ。機体を急降下させ、雲の凸凹を障害物にして射線を切る。
そして、雲の切れ間から再浮上し、ゼインの横っ腹に並びかけた!
白きアルゴノーツ号と、青きブルーフラッシュ号。
二つの機体は、互いに譲らず、接触ギリギリの超高速並走を開始した。
【カッカッカ! 最高だぜ、ポプリ! レースっていうのはこうでなくちゃな!】
「負けないよ、ゼイン! 私、優勝して、おじいちゃんにお願いがあるんだもん!」
二人のパイロットは、極限の集中力の中で笑っていた。
だが、俺のセンサーは、前方に迫る最大の難関を捉えていた。
『マスター、警告。前方、「デビルズ・スロート(悪魔の喉笛)」です』
それは、ギガント・プライムの磁場が一点に集中し、大気が渦を巻いて形成された、巨大な竜巻のトンネルだった。
入り口は広いが、奥に行けば行くほど狭まり、風速は音速を超える。
しかも、コース幅は一隻分しかない。
【ここが勝負所だな。ポプリ! 先に入った方が勝つ!】
ゼインが加速する。
「望むところ!」
ポプリも引かない。
二隻は、互いの船体を火花が散るほど擦り合わせながら、巨大な竜巻の口へと、同時に突っ込んでいった!
(第88話 了)
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元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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【次回予告】
意地とプライドがぶつかり合う、青と白のデッドヒート。
狭まるコース、荒れ狂う暴風、そしてゼインの執念。
一瞬の判断ミスが死を招く「悪魔の喉笛」で、最後に笑うのはどっちでしょう。
AIさん、ゴールの向こうに待っているのは、栄光ですか、それとも?
次回、『転爆』、第89話『決着! 嵐の彼方へ』
さて




