第87話『3分間クッキング(敵船の)』
「……んぐ、んぐ……ぷはっ!」
ポプリは栄養ゼリーを一気に吸い切ると、空になったチューブをポイと投げ捨てた。
その瞬間、彼女の翠色の瞳に、生気が戻った。
いや、ただの生気ではない。食欲を満たした獣の、満ち足りた、しかし獰猛な光だ。
「……美味しくないけど、元気出た!」
ポプリが叫ぶと同時に、敵船から放たれた誘導ミサイルが、アルゴノーツ号に迫る!
『ミサイル接近! 距離500!』
「邪魔しないでよ、いまごはん食べてたのに!」
ポプリは操縦桿を乱暴に叩き倒した。
ズゴゴゴゴォッ!
アルゴノーツ号が、高重力をものともしない異常な挙動で急降下する。
ミサイルは俺たちの頭上を通過し、そのまま重力に引かれて下層の雲海へと消えていった。
【なっ!? あのGで急降下だと!? 機体がバラバラになるぞ!】
敵のパイロットが驚愕の声を上げる。
「お返しだー!」
ポプリは降下の勢いを殺さず、そのまま重力を利用して振り子の様に急上昇! 敵船の死角である真下から、猛スピードで食らいついた!
『マスター、撃ちますか』(レーザーポインターで!)
「ううん、体当たり!」
(はあ!?)
アルゴノーツ号の先端、ギアが増設した衝角のような鋭角的な装甲が、敵船の腹に突き刺さる!
ドガァァァン!
【ぐわあああっ!?】
敵船はバランスを崩し、きりもみ回転しながらコースアウトしていく。
「ごちそうさまでした!」
ポプリはケロリと言い放つと、次なる獲物を目指して加速した。
(……なんてやつだ。栄養ゼリー一本で、これだけのパフォーマンスを出すとは……。燃費がいいのか悪いのか分からん!)
俺たちが敵を撃墜したのを見て、周囲のレーサーたちも色めき立つ。
だが、ポプリはもう止まらない。
「デザートは、あのゴールだよ!」
重力の底を抜けた俺たちは、上昇気流に乗り、一気にトップ集団へと躍り出た。
その先には、青い閃光――ゼインの背中が見えていた。
(第87話 了)
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元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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【次回予告】
腹ごしらえも済んで絶好調のポプリ。
重力の底から這い上がり、ついにトップのゼインを捉えました。
しかし、最後の難関「デビルズ・スロート(悪魔の喉笛)」は、一筋縄ではいきません。
狭まるコース、迫る制限時間、そしてゼインの本気。
AIさん、このデッドヒート、制するのはどっちですか?
次回、『転爆』、第88話『青と白、デッドヒート』
さて




