第85話『稲妻(サンダー)・ドリフト』
『マスター、敵を見失いました!ソナーにも反応がありません!』
俺の論理回路が焦燥に駆られる。見えない敵ほど恐ろしいものはない。
「……ううん、いるよ」
ポプリは、目を閉じ、耳を澄ませていた。
「あっち……風の音が、違う」
彼女はカッと目を見開くと、何もないはずの右側の雲海に向かって、急激に操縦桿を切った!
「そこっ!」
『マスター!? そっちは雷雲の渦です!』
アルゴノーツ号が突っ込んだその先には、まさに俺たちを奇襲しようと待ち構えていた「ファントム・レイ」がいた。
【なっ!?なぜバレた!?】
敵のパイロットが狼狽する。
ポプリは、敵船との衝突コースを恐れず、さらに加速した。
「逃がさないよ!」
『マスター、そのままでは激突します!』
「大丈夫! オマモリさん、シールドを前方に集中!」
『了解!』
アルゴノーツ号は、敵船の鼻先をかすめるように急旋回した。
その瞬間、俺たちのすぐ横を、極太の稲妻が走り抜けた。
バリバリバリバリッ!!
「今だっ!」
ポプリは、その稲妻の衝撃波を、スラスターの推力に利用した。
船体がきしみ、Gメーターがレッドゾーンに飛び込む。
だが、アルゴノーツ号は分解することなく、稲妻のレールに乗ったかのように、爆発的な加速を見せた!
『(重力ターンならぬ、稲妻ターンだと!?)』
【うわあぁぁぁっ!?】
不意を突かれ、さらに俺たちが避けた稲妻の直撃を受けた「ファントム・レイ」は、黒煙を上げて雲海の底へと墜落していった。
「やったー! 抜いたよ!」
俺たちは、乱気流と稲妻を味方につけ、嵐の層を一気に突破した。
目の前に、雲が晴れ、静寂な「台風の目」のような空間が広がる。
そこには、先頭集団を走るゼインの青い船の噴射炎が見えていた。
『……とんでもない操縦技術ですね。心臓に悪いです』
俺は、過熱したプロセッサを冷却しながら、心底呆れ、そして感心していた。
(第85話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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【次回予告】
稲妻サーフィンで難所を抜けたポプリとAI。
ですが、ギガント・プライムの底には、さらなる地獄が待っていました。
重力異常、酸の雨、そしてトップ集団の殺し合い。
ゼインも苦戦する中、ポプリの「お腹すいた」が最大の危機を招きます。
レース中に食事は美味しいのか。
次回、『転爆』、第86話『重力の底でランチタイム』
さて




