第84話『雷雲の中の亡霊(ゴースト)』
ゴォォォォォォォ……!
船外マイクが拾うのは、大気の咆哮と雷鳴だけ。
視界は分厚い紫色の雲に遮られ、何も見えない。センサーも、猛烈な磁気嵐の影響でノイズまみれだ。
『マスター、視界不良です。センサー有効範囲、わずか300メートル。計器飛行に切り替えます』
俺は、かろうじて生きているソナーと重力センサーのデータを統合し、3Dマップを構築しようと必死だった。
「うわぁ、真っ暗!ピカピカしてて目が痛いよー」
ポプリは、激しい揺れに耐えながらも、操縦桿を離さない。ギアから貰ったメモリーチップ のおかげか、船体制御は神がかり的だ。乱気流の「波」を読み、サーフィンのように乗りこなしている。
(……すごいな。この嵐の中で姿勢制御を保つだけでも奇跡だぞ)
その時、ノイズ混じりのレーダーに、巨大な影が映り込んだ。
【警告:近接アラート! 左舷後方、距離200!】
『マスター、左です! 何かが来ます!』
「え?」
ズザアアアァァッ!
雲を切り裂き、巨大な鉤爪のようなものが、アルゴノーツ号の左舷を掠めた!
シールドが激しくスパークする。
『被弾!? 敵襲です!』
「どこ!? 見えないよ!」
俺がカメラを向けると、雷光の一瞬の閃きの中に、その姿が浮かび上がった。
それは、雲と同じ紫色に塗装された、扁平なエイのような形状の巨大船だった。磁気嵐に紛れ、エンジン音すら消して忍び寄る、暗殺者のような走法。
『データ照合……該当なし。ですが、このステルス性は……』
(またマフィアか!? いや、違う。これはレース参加者だ!)
【ヒヒヒ……。いい反応だねえ、新人ちゃん】
ノイズ混じりの通信が入る。
【俺は『ファントム・レイ』。この雲海は俺の庭だ。視界ゼロの恐怖に怯えながら、落ちていきな!】
敵船は再び雲の中に姿を消した。
センサーには映らない。だが、殺気だけが背後から迫ってくる。
(第84話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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【次回予告】
さて、視界ゼロの雲海で、姿なき敵「ファントム・レイ」に狙われます。
センサーも効かない、目も見えない。頼れるのはポプリの野生の勘だけ。
しかし、飛び込んだ先は稲妻が荒れ狂う嵐の渦。 自殺行為か、起死回生か?
さてAIさん、このビリビリするような状況、どう切り抜けますか?
次回、『転爆』、第85話『稲妻・ドリフト』
さて




