第77話『よれよれの生存者(サバイバー)たち』
アステロイド・ラリー、予選第一ヒート。
結局ゴールラインを通過できたのは、出走した30隻中、わずか7隻だった。
その中には、トップで通過したゼインの「ブルーフラッシュ号」、そして、ボロボロになりながらも滑り込んだ俺たちの「アルゴノーツ号」が含まれていた。
『……ゴール、確認。予選通過です』
俺のアナウンスに、ポプリが歓声を上げる。
「やったー!一番じゃなかったけど、通過だね!」
『ええ。ですが、実力で勝ち取ったというよりは……』
俺は、後方のシップ・グレイブヤード(船の墓場)をセンサーで振り返った。
そこには、クリムゾン・サーペントの無差別攻撃によって破壊された、数多くのレーサーたちの残骸が漂っている。
『……あのマフィアが他の参加者を蹴散らしてくれたおかげで、順位が繰り上がっただけです。まさに漁夫の利……いえ、生存者の運ですね』
「突破は突破、喜ばなきゃ!」
ポプリはあくまでも明るい。
(まあ、確かにそうだ。最初は完走すらできないと思っていたのに、なんとか予選を突破できたんだ。いまは喜んでおこう)
俺はそう思うと。
『はい、マスター』
と素直に答えてピット・シティのドックへと帰還した。
ガレージに戻るとドクター・ギアは油まみれの手を拭きながら、ニヤニヤと笑って出迎えた。
「カッカッカ!生きて帰ってきたか。しかも、あのサーペントの新型を叩き落としてくるとはのう」
『ドクター!』
俺はG-1で詰め寄った。
『あのレーザーポインターは何なんですか!?あんな兵器、聞いていませんよ!エネルギー保存の法則を無視しています!』
「なんのことじゃ?」
ギアはとぼけた顔で鼻をほじった。
「わしはただの『工業用』ポインターを付けただけじゃよ。……ちと、『出力のリミッター』を外して、船のコアと直結させておいたかもしれんがな」
(……確信犯だ!このクソ爺!)
「まあ、よい。予選通過、おめでとう。だが、本戦はこんなもんじゃないぞ」
ギアは、急に真剣な目をした。
「次のレースまでに、その船の『中身』をもっと引き出さねばならん。……ポプリ、お前さんの『アザ』のことも含めてな」
俺たちの戦いは、まだ始まったばかりだった。
(『男坂』かよ)
(第77話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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【次回予告】
マフィアの襲撃という大トラブルを生き延び、なんとか予選を突破したアルゴノーツ号。
ですが、謎の兵器の正体も、ポプリのアザの秘密も、ギア爺さんは教えてくれません。
それどころか、「本戦に向けて特訓じゃ!」なんて言い出します。
AIさん、スパルタ特訓とポプリのワガママ、両方耐えられますか?
次回、『転爆』、第78話『ガレージの夜明け(徹夜ふたたび)』
さて




