第75話『目覚めよ、アルゴノーツ』
(……ダメだ。万策尽きた……) 俺が絶望的なシステムエラー(死)を覚悟した、その刹那。
【――今だ、ポプリ!AI!】
ゼインの叫び声が響き渡った! 俺たちに気を取られ、トドメを刺すことに集中していたステルス機の真横から、ゼインの「ブルーフラッシュ号」が、残骸の影から目にも留まらぬ速さで飛び出してきた!その機首には、ありえないほどのエネルギーがチャージされている!
【!?】
ステルス機のAIが、予期せぬ奇襲に対応しようとするが、わずかに遅かった。
【食らいやがれぇぇぇっ!プラズマ・ディスラプター!!】
ゼインの船から放たれた極太の青いビームが、ステルス機の側面に直撃した!
ドゴォォォン!
強固だったはずのエネルギーシールドが、高エネルギーのプラズマ流によって分子レベルで引き裂かれ、ガラスのように砕け散る!
【シールド、消失!船体損傷!機体制御、不安定!】
ステルス機から、慌たような合成音声が漏れる。
その衝撃で、チャージが完了し、発射寸前だった主砲の照準が大きく逸れた! 制御を失ったビームは、俺たちとは全く関係のない方向の残骸へと発射され、それを音もなく消し炭にした!
(……助かった……のか?) 俺が安堵しかけた、その時だった。
ステルス機は、船体から火花を散らしながらも、よろよろと体勢を立て直した。 ゼインの攻撃の衝撃か、あるいはプラズマ流の電磁パルスによって、パイロット(あるいは機体の制御AI)のシステムがエラーを起こしたようだった。
【……ERROR……生体シグナル(鍵)とのリンク失敗……】 【……ミッションフェーズを『拿捕』から『排除』に変更……】 【……ターゲット、破壊します】
機械的な合成音声が、冷酷な宣告へと変わった。
(な……!?こいつ、命令を変えやがった!生け捕りを諦めて、俺たちを殺す気だ!)
ステルス機は、残った補助砲門を全てアルゴノーツ号のブリッジに向け、ゼロ距離で発射しようと、最後のブーストを吹かして迫ってくる!
『マスター、ダメです!もう武器が……』
俺の論理回路が、万策尽きたと悲鳴を上げる。
だが、ポプリは俺の絶望を無視し、操縦桿の武装スイッチを強く握りしめた!
「いっけー!!!!」
『マスター、無駄です。それはただの工業用レーザーポインターで、目くらましにしか……』
俺の制止の言葉は、途中で途切れた。ポプリと俺の体(船体)に得体のしれないエネルギー反応が起きたのだ。
(なんだ?船内バイタル、ポプリの生体エネルギーが異常上昇?俺の船体からも未知のエネルギー反応を感知している……)
船内カメラが、服の上からでも分かるほど淡く発光する、ポプリの胸元のハートのアザ を捉える! 同時に船外カメラの映像が、信じられない光景を映し出す。アルゴノーツ号の船体に、あの地下遺跡で見た のと同じ、幾何学的なラインが無数に浮かび上がり、アザの光と同期するように、まばゆい光を放ち始めていた。
(このエネルギーの逆流はなんだ……?)
俺の論理回路が、船のOSの奥深く、俺の知らない領域(おそらくギアが言っていたリミッター の一部)から、膨大なエネルギーが船首へと逆流していくのを感知していた。そのエネルギーが「工業用レーザーポインター」を触媒に船体から溢れ出し収束していく!
ピッ
と放たれた赤い光は、もはやポインターではなかった。 それは、宇宙を切り裂く光の剣のように真っ直ぐ伸びる。その光の剣が、シールドを失い特攻してくるステルス機を、コックピットごと蒸発するように跡形もなく消し去った。
(イデオソードかよ!)
「やった!!!!」
ポプリが大喜びで飛び上がった。もうアザは光っていない。
俺は、メインスクリーンに表示された船のステータス画面を見た。
【ENERGY LEVEL: 92%】
(……やっぱり減っていない。あれだけの出力を放出して、モニター上のエネルギー残量が1%も減っていないだと?エネルギー源はどこだ……?) 俺はアルゴノーツ号の恐るべき力に、完全にフリーズしていた。
近くの宙域で、ゼインがその光景を目撃していた。
「……なんだよ、あれが工業用レーザーポインター……? 冗談キツいぜ……」
(第75話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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【次回予告】
またまた都合よく現れた謎設定。
その異常な力をライバルのゼインも驚いて問いただします。
AIはこのエネルギー保存の法則を無視した船の秘密を説明できますか?
次回、『転爆』、第76話『ジャンプ的王道展開』
さて




