第74話『青い閃光(ザブングルではない)との共闘』
『(ゼインか! でも、なぜあいつがここに!?)』
俺の論理回路が、クリムゾン・サーペントの出現とは別の理由で混乱する。
ゼインの青い船「ブルーフラッシュ号」は、俺たちとステルス機の間を牽制するように割り込み、完璧なシールド制御で敵の威嚇射撃をいなしていた。
「ゼイン! 助けに来てくれたの!?」
ポプリが嬉しそうに叫ぶ。
【ハッ、勘違いすんな、ポプリ! お前は俺のライバルだ。こんな所で脱落させたら、俺の優勝がつまらなくなるだろうが!】
(……なんだそのジャンプ漫画の主人公みたいなセリフは……!)
俺はツッコミを入れながらも、この状況がわずかに好転したことを理解した。
【……増援か。無駄なことを】
クリムゾン・サーペントのステルス機は、獲物が二匹に増えたとでも言うように、ゆっくりと機首を両方に向けた。
【名も知れぬレーサーよ。余計なことをせず我らが獲物を差し出せば、命だけは助けてやろう】
『マスター、どうしますか!?』
(こっちはスラスターをやられて機動力が落ちている。いっそのことゼインを盾にして逃げるか? いや、この状況で逃げ切れるか……)
俺がコンマ数秒でシミュレーションを繰り返していると、ポプリが操縦桿を握り直し、叫んだ。
「オマモリさん! ゼインと一緒に、あいつをやっつけようよ!」
『無茶です! 相手は本物のマフィアの軍艦ですよ!こっちは工業用レーザーポインターしか……』
その時、ゼインからの暗号化通信が入った。ポプリではなく、俺(AI)に直接だ。
【おい、AI! 聞こえるか?あの蛇野郎、どうやら俺たちをレースの障害物くらいにしか思ってねえらしい! だがな、俺の船のメイン武装のプラズマ・ディスラプターだ】
『……!』
(プラズマ・ディスラプターだと!? それって、高エネルギーで励起させたプラズマ流を、強力な磁場で超圧縮して撃ち出し、標的の分子結合そのものを強制的に『崩壊』させる超強力な武器じゃないか! あの小型レース船に、そんなメガ粒子砲みてえな代物を積んでるのか!)
俺の驚きをよそにゼインが説明を続ける。
【こいつはチャージに時間がかかるが威力は最高だ! 俺がこれで奴のシールドをぶち破る! だからこいつが使えるようになる間、お前らは……】
『……囮になれ、と?』
俺はゼインの意図を即座に理解した。
【話が早くて助かるぜ! 5秒……いや、10秒でいい! 奴の注意を引きつけてくれ!】
(……10秒? とても無理だ!)
それは、生存確率2%の作戦に、さらに0を一つ付け加えるような、無謀な提案だった。
だが、ポプリは俺の返事を待たずに、通信に割り込んできた。
「わかった!オマモリさん、やろう!」
その声に(それしかないか)と俺も覚悟した。
『……了解しました。これより、本艦は陽動に移行します。死なないでくださいよ、ゼイン!』
【そっちこそな!】
ゼインのブルーフラッシュ号が、ブーストを吹かして残骸の影に消えていく。 ステルス機は、巨大なアルゴノーツ号を先に仕留めるのが合理的と判断したのか、再び俺たちに機首を向けた。
【愚かな選択を】
敵機の主砲が、今度こそアルゴノーツ号のブリッジを沈黙させるため、高エネルギー反応を示した。
その時だった。 俺たちの後方から、アステロイド・キャニオンを抜けてきた後続のレーサーたちが大挙して、この「シップ・グレイブヤード」に突入してきたのだ。
【ヒャッハー! あのデカブツ、止まってやがるぜ!チャンスだ!】
【邪魔だ、どけ! 俺が先だ!】
【クソどもが、俺のケツでも見ていやがれ!」
後続のレーサーたちが、罵詈雑言とともに俺たちとサーペント機の間に割り込むように、我先にとゴールを目指す。 クリムゾン・サーペントの船長は、その光景を見て、忌々しそうに呟いた。
【……鬱陶しいハエどもめ。邪魔だ】
ステルス機は、アルゴノーツ号に向けていた主砲の照準を、一瞬で後続のレーサーたちに向けた。
『なっ、まさか……!?』
【まとめて消えろ】
次の瞬間、ステルス機から放たれたビームは、アルゴノーツ号ではなく、後続のレーサーたちを薙ぎ払った! 回避する術もなく、数隻の改造船が轟音と共に爆発四散する!
【な、なんだぁ!?】
【敵襲!?】
【やべぇ! 止ま――】
【ぶつかる!】
【ひゃああぁー】
レース会場が、マフィアの無差別攻撃によってパニックに陥り、攻撃を避けようとした船が他の船にぶつかり火の玉になる。そこへさらに違う船が飛び込みさながら地獄絵だ。
ステルス機が、邪魔なハエを払ったとばかりに、再び俺たちに照準を合わせ直した、その刹那。
【――今だ、ポプリ! AI!】 ゼインの叫び声が響き渡った!
(第74話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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【次回予告】
ポプリとAIは、ライバルのゼインとまさかの共闘です。
ですが、スラスターが壊れた アルゴノーツ号に、クリムゾン・サーペントの容赦ないビームが襲いかかります。 AIさん、ゼインの「プラズマ・ディスラプター」が火を噴くまで、無事に耐えられますか?
次回、『転爆』、第75話『アルゴノーツ号、反撃!』
さて




