第73話『蛇の待ち伏せ』
(クリムゾン・サーペント! なぜだ!?なぜ、こんな場所に!?)
俺の論理回路が、レースの緊張とは比較にならない、絶対的な恐怖で凍りついた。
アラン中佐の言葉が脳裏をよぎる。
『レース会場には、クリムゾン・サーペントの息がかかった者もいるだろう』
(……息がかかってる、どころじゃない! 本物が待ち伏せしてるじゃないか!)
ステルス機は、俺たちが気づいたのを察知したのか、残骸の影からスッと姿を現した。
その機体は、俺たちがアステリア・バザールを離脱する際に遭遇した、あの巨大な母艦に似て、生物的で禍々しいデザインをしていた。
【……見つけたぞ、『鍵』の小娘】
船内に、あの時の女幹部の時と同じように、通信回線に割り込んで相手の声が聞こえる。違うのは低く、機械的な合成音声ということだ。999の機械化人みたい感じだ。
【我らが主の命令である。その娘と、船を、生きたまま拿捕する】
『マスター、最大船速でこの宙域を離脱します! 相手は、レースの参加者ではありません。クリムゾン・サーペントです!』
「ええっ!? またあのヘビさんたち!?」
ポプリも、ようやく事態を理解したようだ。
だが、ステルス機は、アルゴノーツ号の進路を塞ぐように、ゆっくりと前に回り込む。
俺のセンサーが、敵機から放たれる強力なジャミング(妨害電波)を感知した。
(まずい、ナビゲーションシステムが……! コースマップが乱れる)
【逃がさん】
ステルス機の機首から、細く、鋭いエネルギー兵器が、アルゴノーツ号のエンジンめがけて正確に放たれた。
(狙いは、推進器か。やはり、生け捕りにする気だ)
『マスター、回避!』
「きゃっ!」
ポプリは必死で操縦桿を切るが、ギアが無理やり増設したスラスターは、ここまでの無理が祟ったのか僅かに遅れて敵の超高速ビームを完全には避けきれない!
ガギィィィン!
ビームが、増設された右舷スラスターを掠め、船体が大きくバランスを崩す!
(警告:右舷スラスター、出力低下!)
『くそっ!』
【ふん、図体だけのオンボロが】
ステルス機は、獲物をいたぶるように、ゆっくりとこちらに再接近してくる。
その時だった。
ビュンッ!
一筋の青い光が、俺たちとステルス機の間を切り裂くように飛んできた。
ステルス機は、慌ててそれを回避する。
「……!?」
俺がG-1のカメラをそちらに向けると、そこには、いつの間にか俺たちの隣に並走している、ゼインの「ブルーフラッシュ号」がいた。
【……よぉ、ポプリ! なんだか、ヤバいのに絡まれてるじゃねえか】
ゼインの、いつもの爽やかさとは違う、真剣な声が響いた。
「ゼイン!」
ポプリが嬉しそうに叫ぶ。
【……クリムゾン・サーペントか。とんだ疫病神を連れてきたな、お前ら】
ステルス機は、予期せぬ邪魔者の登場に、その動きを止めていた。
(第73話 了)
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元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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【次回予告】
レースの途中で邪魔が入りました。相手はクリムゾン・サーペントのしつこい奴らです。
しかも、アルゴノーツ号はスラスターをやられてしまい大ピンチ!
そこへ颯爽と現れたのが、ライバルのゼイン。
AIさんは、この状況、どう切り抜けますか?
次回、『転爆』、第74話『青い閃光、共闘』
さて




