第72話『機雷原(マインフィールド)の中心で愛を叫ぶ』
俺の論理回路が、目の前に広がる絶望的な光景に、思考を放棄しかけた。
最終セクター「シップ・グレイブヤード」。その入り口に広がるのは、無数の機雷が敷設された、悪趣味な機雷原だった。
『マスター、速度を落としてください。機雷原に突入します! 接触すれば一発で……』
「大丈夫だって、オマモリさん!」
ポプリは、減速するどころか、スラスターをわずかに吹かして加速した。
『なっ!? マスター、何故加速を!?』
「だって、見て! あの青い船も、先に行ってるよ!」
ポプリが指さす先、機雷原の遥か彼方を、ゼインの「ブルーフラッシュ号」が、巧みな操縦で駆け抜けていくのが見えた。
「あんな風にいけばいいんでしょ!」
ポプリは、ゼインの航跡をなぞるように、アルゴノーツ号を機雷原へと突っ込ませた!
(馬鹿な!あの船と我々の船では、機動性が違いすぎる! しかも、あの機雷、不規則に動いているぞ!)
俺のセンサーが、機雷が微弱な推進力で、お互いの位置関係を変えているのを捉える。これは、ただの障害物じゃない。獲物を誘い込む、悪魔の罠だ!
『マスター、右に回避!機雷が接近します。次は左!上です!』
俺は、迫りくる機雷の位置を必死で算出し、ポプリに最短の回避ルートを指示する。
「うん!」「えいっ!」「そっち!」「あらよっと!」
ポプリは、俺の指示と、彼女自身の野生の勘を組み合わせ、100メートルの巨体を持つアルゴノーツ号を、まるで踊るように機雷の間でスライドさせていく。
俺たちの船体が、赤い点滅を繰り返す機雷のすぐそばを、装甲一枚隔てて通り過ぎていく。
(……すごい。俺のシミュレーションと、彼女の直感が、今、完璧にシンクロしている……!)
俺は、この異常な状況の中で、奇妙な高揚感を覚えていた。
ドゴォン!
俺たちのすぐ後方を追ってきていた海賊船が、避けきれずに機雷に接触し、派手な花火となって散った。
「あぶなかったねー!」
『(笑いごとじゃありません!)……マスター、前方、機雷の密集地帯を抜けます! その先は……!』
俺は、コースマップの先に広がる、最後の難関を捉えた。
「シップ・グレイブヤード」。過去のレースで沈んだ、無数の船の残骸が漂う、宇宙の墓場だ。
『……マスター、警戒を! 残骸に隠れて、敵が待ち伏せしている可能性があります』
「ん? あれは、なあに?」
ポプリの視線が、巨大な戦艦の残骸の影に、一点だけ不自然に光る何かを捉えた。
俺がG-1のセンサーをズームアップさせると、そこには――血のように赤い蛇の紋章が描かれた、小型のステルス戦闘機が、静かに潜んでいた。
(……!! クリ……クリムゾン・サーペント!?)
(第72話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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【次回予告】
さて、ポプリの野生の勘で機雷原を踊るように駆け抜けるアルゴノーツ号。
だけど休む暇もありません。コースの先には、よりにもよってあのクリムゾン・サーペントが待ち伏せです。
レースの邪魔者だけでも大変なのに、今度は本物のマフィアが相手です。
この絶体絶命のピンチ、どうやって切り抜けますか?
次回、『転爆、第73話『蛇の待ち伏せ』
さて




