第71話『アステロイド・ダンシング』
『ミサイルロックオン、6基。マスター、回避機動!フレア(攪乱装置)射出……って、そんなもの搭載してませんでした!』
(あの爺さん、レーザーポインターなんか付ける前に、せめてフレアくらい付けておけよ!)
「大丈夫!オマモリさん、信じて!」
ポプリは叫ぶと、操縦桿を無茶苦茶とも思える角度に倒した。
『マスター!? そこは行き止まりの岩壁です!』
「ううん!」
アルゴノーツ号は、まるで重力を無視するかのように、アステロイドで出来たトンネルの入り口の壁を蹴る(スラスターを噴射する)と、ミサイル群のロックオンを強制的に解除させ、そのままトンネル内部へと突入した!
ミサイルは目標を見失い、トンネルの入り口で大爆発を起こし、後続の数隻を巻き込んでいく。
(……凄い、俺が一晩中かけて行ったシミュレーションデータを……いや、それ以上の動きを、楽しみながらやっている。…… この子、戦いの中で進化しているって、んな馬鹿な)
滑り込んだアステロイドのトンネル内部は、まさに地獄だった。
船二隻がやっとすれ違えるかどうかという狭い岩の筒の中を、時速数千キロ(亜光速)で突き進むのだ。
左右からは、俺たちの船を壁にこすりつけようと、他のレーサーたちが火花を散らしながら迫ってくる。
『左舷、接触まで2秒。シールド……ありません!』
(装甲は最低基準ギリギリだぞ! 擦ったら一発でアウトだ!)
「えいっ!」
ポプリは、左に迫ってきた船に対し、カウンターを当てるように、逆に船体を左に傾けた。
そして、ドクター・ギアが取り付けたばかりの、あの貧弱な工業用レーザーポインターのスイッチを入れた。
『マスター、何を!?』
ピッ、と放たれた赤い光が、左の船のコックピットを正確に直撃した。
【ぎゃあ!目がああああ!】
敵のパイロットが、目を抑えて悲鳴を上げる。
『(……目くらまし!?そういう使い方かよ!)』
俺のAIとしての戦術予測を、ポプリの野生の勘が、またしても盛大に斜め上方向に上回っていく。
体勢を崩した敵船が、トンネルの壁に激突していくのをバックミラーで見ながら、俺たちはついにトンネルの出口へとたどり着いた。
「ふぅー、ちょっといまのは熱かったね!」
ポプリが額の汗を拭う。
『……まだです。センサー、前方広域に高エネルギー反応を感知!』
俺のスクリーンが、再び赤く染まった。
トンネルを抜けた先に広がっていたのは、無数の機雷が敷設された、機雷原だった。
「わー、キラキラしてる!」
『(だから、それはキラキラじゃなくて……!)もう、どうにでもなれ……!』
(第71話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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【次回予告】
ポプリの野生の勘とレーザーポインターで、どうにか地獄のトンネルを抜けました。
ですが、休む暇もなく、目の前には機雷原が広がります。
果たして「間に合わせ改造」アルゴノーツ号で、無事にここを突破できますか?
次回、『転爆』、第72話『機雷原の中心で愛を叫ぶ』
さて




