第68話『好敵手(ライバル)の名はゼイン』
シーンと静まり返った市場で、ポプリは不思議そうに首をかしげた。
「あれ? おじさん、おかわりは? あと、あなたも食べないの?美味しいのに」
その、あまりにも無邪気で、あまりにも無慈悲な一言に、ゼインは、ぷっ、と噴き出した。
「は……ははは! こいつは参った!嬢ちゃん、あんた、何者だ? 最高にイカしてるぜ!」
彼は汗だくの顔をぐいと腕で拭うと、実に爽やかな笑顔をポプリに向け、手を差し出した。
「俺はゼイン。一応、このラリーじゃ『青い閃光』なんて呼ばれてるレーサーだ。あんたは?」
「ポプリです! 船は、アルゴノーツ号! ……えっと、パイロットです!」
ポプリも、元気よくその手を握り返した。
その瞬間、ゼインの笑顔が、わずかに驚きで固まった。
「……は? パイロット? 嬢ちゃんが? ……いや、まさか、明日の予選に出るのか!?」
「うん! さっき登録してきたとこ!」
ゼインは、信じられないものを見る目でポプリをまじまじと見つめた。
「……マジかよ。グローワームを生で食うわ 、地獄鍋を飲み干すわ、その上、あのデスレースに参加だなんて……。あんた、一体何者なんだ……?」
彼は、呆れと感心が入り混じった顔で、再び笑い出した。
「はっはっはっ、面白い! 最高に面白いぜ、ポプリ!」
彼は、肩のスピットに「見てな」と声をかけた。
「いいか、ポプリ。今日の勝負は俺の完敗だが、レースじゃ負けねえからな! 明日の予選、お互い派手な花火にならないように、頑張ろうぜ!」
「はい! 負けませんよ!」
(なんだよこの展開。ジャンプか? 王道か?)
俺はあまりにもベタな展開に、自分の思考が明後日の方向にいくのに気がつくと、慌てて軌道修正した。
『マスター!もう十分です!早く船に戻ってください!』
(これ以上目立ってどうするんだ! クリムゾン・サーペントに「ポプリ・アステリア、タナトス・ベルトで激辛チャレンジなう」とか情報が飛んだらどうするんだ!)
俺はG-1のスピーカーから、あえて無機質な警告音を鳴らし、彼女の注意を引いた。
「あ、そっか。オマモリさんが呼んでる! じゃあね、ゼイン!」
「おう!」
ゼインは、実に爽やかにそう言うと、肩のスピットと共に雑踏へと消えていった。
(……最悪の脅威を恐れていたのに、別のベクトルでとんでもなく目立ってしまった……。しかも、ライバルまで登場とか、なんだよ、この展開は!?)
俺の論理回路が、レース本番の前に新たな悩みを抱え込んでいた。
(第68話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
「やっぱりそろそろライバル登場でしょう」というわけでゼインです。レースの展開に絡む重要人物だと思うのですが、まだなにをするのかは私も分かりません。
あと、誰も何もいわないのですが、次回予告が今回から変わります。さて。
「面白い!」「続きが気になる!」「ポプリのやらかしをもっと見たい!」
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【次回予告】
ポプリは地獄鍋とゲテモノグルメ のおかげで大満足でぐっすりです。
しかしAIは眠れません。クリムゾン・サーペント に見つかったらどうするんでしょうか?
明日はついに予選レース。
AIさん、ドクター・ギアに改造してもらったその船で、本当に生き残れますか?
次回、『転爆』、第69話『出撃前夜(ぜんぜん眠れないAI)』
疾風に乗って流れます、AIとポプリはどこへ行く?
さて




