第67話『激辛完食(パーフェクト)レディ』
「へい、お待ち。死んでも、俺は知らねえからな」
屋台の主人が、二人の目の前に、マグマのように煮えたぎる二つの石鍋を、乱暴に置いた。鍋から鉄製のカウンターに飛んだ汁が、ジュッ、と短い音を出して穴を作った。
『マスター、危険です! 致死量のスパイスです! 今すぐ席を立っ……』
俺の声に被せてゼノンがポプリに話しかける。
「ルールは簡単、先にスープまで全部飲み干した方の勝ちだ」
ゼインはそう言うと、肩のイグアナ「スピット」に「見てな」とウインクした。
「それじゃあ」と声を掛けたゼインに、ポプリが元気よく、
「いただきます!」と応じる。
俺の悲痛な警告も虚しく、二人は同時に、勢いよくレンゲを口に運んだ。
周囲の野次馬たちが、興奮したように叫ぶ。
「いけー! ゼイン!」
「新記録を期待してるぞ!」
ゼインは、その声に応えるかのように、常軌を逸したスピードで鍋をかき込み始めた。
「ハッハッハ! 熱いぜ、熱いぜぇ、だが……美味いぜ!」
彼は額に汗を浮かべてはいるものの、そのペースは全く落ちない。明らかに常人ではない。マグマのような煮込みを、まるで機械のように正確なペースで食べていく。
「すげえ! さすがはゼインだ!」
「あのスピード、今日も記録更新か!?」
ギャラリーが、ゼインの超人っぷりに熱狂する。
(まずい、あの男、本物だ……! あの速度で食べ続ければ、流石のマスターも……)
俺がそう思った、その時だった。
「んー! おいひー! ピリッとするけど、素材の味かな? お出汁も効いてて美味しい〜!」
ゼインの隣で、ポプリは、戦闘的な早食いをするゼインとは対照的に、まるで高級レストランのディナーでも楽しむかのように、楽しそうに、しかし恐ろしい速度で食べ進めていた。
「あ! このブヨブヨした丸いの、噛んだら中から緑色で酸っぱい汁が出てきた! お肌に良さそう!」
「こっちの黒いキノコみたいなやつ、ちょっと苦くて舌に刺さる感じ! この苦味がスープと合ってクセになる〜!」
「わ、これ、クラーケンの足かな!? すっごくコリコリして、あ!まだ動いてる!」
ポプリが、鍋の中のおぞましい具材を次々と「食レポ」しながら、猛烈なスピードで食べ進める。
その異常な光景に、それまで一定のペースで鍋の中身を消化していたゼインの動きが止まった。
「なっ……!?」
信じられないものを見る目でポプリを見る。
ギャラリーの歓声も、徐々に困惑のざわめきに変わっていった。
「おい……なんだよ、あのチビ……」
「ゼインですら大変な『MAXブレンド』を……味わってるだと……?」
「見ろよ、あいつ、クラーケンの足を躍り食いしてる……」
「しかも、食レポしながら食ってる……!」
「うっ、俺、ちょっと気分が悪くなってきた……」
ゼインは、王者のプライドを懸けて、再び鍋に向き直る。
「ぐ……う……お、俺だって……!」
彼は残る力を振り絞ってペースを上げる。
だが、ポプリは全く意に介さず、最後のスープを、まるでジュースのように飲み干すと、カラン、と空の鍋をカウンターに置いた。
「ごちそうさまでした!」
彼女は、ぷはーっと満足げに息をつくと、屋台の主人に向かって元気よく言った。
「おじさん、おかわり!」
「おかわりだぁ!?」
屋台の主人と、まだ鍋の半分と格闘していたゼインの絶叫が重なった。
ゼインは、手にしたレンゲをカランと落とし、燃え尽きたように白くなっていた。
「……ま、負けた……。俺が、この地獄鍋で、完敗だと……? しかも、おかわり……?」
「かぁ」とスピットがゼインを慰めるように小さな声を上げた。
(第67話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
激辛対決はポプリが予想通りの圧勝です。食レポって書いてみて分かりましたけど、難しいですね(笑)。
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
「面白い!」「続きが気になる!」「ポプリのやらかしをもっと見たい!」
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【次回予告】
Rival! ZANE!
冗談じゃねえ! なんで激辛対決の後に、爽やかにライバル登場だと!?
こっちは少年ジャンプの王道やってる場合じゃねえ!
クリムゾン・サーペント にバレたらどうするんだ!?
だが、レースは明日! もう後には引けねえ!
次回、『転爆』、第68話『好敵手の名はゼイン』』
やってやるぜ!




