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転生したら宇宙船のAIで、隣にいるのが銀河級の爆弾娘だった(略:転爆)  作者: 怠田 眠


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第66話『地獄鍋と青い閃光』

『マスター、今すぐ船に戻ってください! 全速力で!』


 俺は、至福の表情でグローワームを頬張るポプリに、警告を続ける。


「えー? なんでー?まだお腹いっぱいじゃないよー」


 ポプリは全く意に介さず、人だかりができていることを気にせずゲテモノガイドを再び開いた。


「あ! あった! 『マグマ・クラーケンの灼熱煮込み』! こっちだよ、オマモリさん!」

『聞いていますかマスター!? あなたは今、この市場で最も危険な見世物になっているんですよ! その情報がクリムゾン・サーペントに渡ったら……』

「大丈夫だってば!」


 ポプリは、集まった野次馬たちをかき分け、市場のさらに奥……ひときわ異彩を放つ屋台へと突き進んでいく。野次馬たちも「おい、あのガキ、まだ何か食う気だぞ!」「次は地獄鍋かよ!」「こりゃ、見逃せないぜ!」と、面白がってゾロゾロと後をついてきた。大名行列かよ!


 地獄鍋の屋台の主人――溶岩ゴーレムのような厳つい男――は、ポプリと、彼女が引き連れてきた人だかりを見て、面倒くさそうに言った。


「……なんだい、嬢ちゃん。冷やかしなら帰んな」

「すみませーん!『マグマ・クラーケンの灼熱煮込み』、くださーい!」


  ポプリが元気よく注文した、その時だった。


「――待ちな、嬢ちゃん」


 人だかりをかき分けて、涼やかな声がした。 振り返ると、そこには、使い古された青いレーシングスーツに身を包んだ、男の青年が立っていた。20代前半だろうか、ツンツンに逆立った青い髪。その肩には、オレンジ色のイグアナのようなペットがちょこんと乗っている。


 男は、ポプリの姿(と、彼女がまだ少し持っているグローワームの箱)を見ると、ニヤリと笑った。

 彼は屋台の地獄鍋を指さした。


「その地獄鍋は『ピット・シティの登竜門』だ。俺はこの5年間、こいつの完食記録を保持してる。お嬢ちゃんが食うってんなら……俺と勝負するか?」

「勝負? 面白そう! やる!」


  ポプリが、目の前の男にそう宣言すると、周囲の野次馬たちから「おおーっ!」と歓声が上がった。


『マスター! 早まってはいけません! この状況で目立つのは……』


 俺の警告は、ポプリの燃え上がる闘志と、野次馬の熱狂にかき消された。


「いいじゃねぇか、嬢ちゃん!」 男は笑うと、ポプリに向き直った。

「でも勝負って、どんな勝負ですか?」


 ポプリは小首を傾げながら尋ねた。

 男は、肩のイグアナを指先で撫でながら、ニヤリと笑う。


「ルールは簡単さ。この『マグマ・クラーケンの灼熱煮込み』を先にスープまで一滴残らず全部飲み干した方の勝ちだ」

「早食い勝負かぁ。どうしようかな……」


 意外にもポプリが少し悩んでいる。(いいぞ、そのまま断れ!)と俺は念じた。そんなポプリの様子を見て男は挑発的な態度になった。


「嬢ちゃん、やっぱり自信がないのか? やめるのなら今のうちだぜ」


 ポプリが男の挑発に気がつかない様子で真面目に答える。


「違うの。私はご飯は味わって食べるのが好きなの。だから……」


 男は馬鹿にしたような口調でさらに挑発する。


「はいはい、その可愛いお口じゃ、とても勝負なんかできないよな!」


「……まあ、いいか。あんまり早食いは好きじゃないけど」


「よし決まりだ!」


 青年は、屋台の主人に、チップを2枚弾いた。


「親父、地獄鍋二つ! いつもの『MAXブレンド』でな!」

「……おい、ゼイン。本気か?」 屋台の主人が、低い声で尋ねる。 「こんなガキにお前の『MAXブレンド』なんぞ食わせたら、死ぬぞ」

「ハッ、こいつは、さっきグローワームを生で食っても平気だったタフな嬢ちゃんだぜ? 違うか?」


 ゼインは、楽しそうにポプリにウインクする。

(その情報がもう回ってるのか。想像以上に早いな……)俺のジリジリとした焦燥感をよそに、屋台の主人は「……知らねえぞ」と呟きながら、巨大な寸胴鍋から二つの石鍋へと、おぞましい赤黒い液体を注ぎ始めた。

(それにしても早食い勝負……。よりにもよって、あの生物兵器の早食い……?)俺の論理回路が、ポプリの胃袋の安否について、緊急のシミュレーションを開始する。当然答えはNaNだ。


「おい、ザラームのゼインが、あんなチビと勝負するらしいぜ」

「ゼインに勝てるわけねえだろ。あいつの舌は、マグマで出来てるんだ」

「なんだよ、賭けにもなんねぇじゃねぇか。誰かあのガキに乗る奴はいねぇのか?」

「無理無理」


  野次馬たちが、興奮した様子で噂を交わしている。 (ゼイン……? データベース検索……ヒット。アステロイド・ラリーの若手トップレーサーの一人。通称『青い閃光』……。よりにもよって、一番目立つ奴かよ)


「俺はゼイン。あんたは?」

「ポプリです!」

「そうか、ポプリ。こいつはスピットだ」


 そういうとゼインは肩に乗っているぎょろぎょろした目が異様に大きく、オレンジ色でトゲだらけの生き物を紹介した。どう見ても可愛くないそいつにポプリは「かわいー、よろしくねー」と言っている。俺のセンサーがスピットが「ケコ」っと鳴いたのを捉えた。


 そんな二人と一匹の前で店主は黙々と料理(と呼ぶにはあれだが)の用意をしている。煮えたぎっている大鍋(スターウォーズのEp4で、ルークたちが逃げ込んだごみ処理施設を圧縮して鍋の中にぶち込んだようなもの)から赤黒いスープを二つの石鍋によそうと、カウンターの下から、ドクロマークが描かれた、見るからに危険な小瓶を取り出した。


(分かりやすすぎだろ、 タイムボカンかよ!)


 俺の突っ込みに関係なく、店主はその小瓶の蓋を開け、粘度の高い、タールのような黒い液体を、二つの鍋に数滴ずつ垂らした。


 ジュワアアァァァッ!!


 まるでジェット燃料に火をつけたかのように、スープが激しく沸騰し、鼻を突く焦げたような刺激臭が周囲に立ち込めた!


「うおっ!」「ガチのMAXブレンドかよ!」「あんなの食ったら明日レースに出られねえぞ!」「馬鹿! レースどころじゃねぇ、死んじまうぞ」 野次馬たちが、その匂いだけで後ずさりしている。


 ゴトッ! ゴトッ!


 屋台の主人が、二人の目の前に、マグマのように煮えたぎる二つの石鍋を、乱暴に置いた。


「へい、お待ち。……死んでも、俺は知らねえからな」


(第66話 了)

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


ゲテモノ料理シーンは書いていて楽しいです(笑)。さて、勝負の行方は?


元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。


「面白い!」「続きが気になる!」「ポプリのやらかしをもっと見たい!」

と少しでも思っていただけましたら、ぜひブックマークや、ページ下部の【★★★★★】で評価をいただけますと、作者の執筆速度が3倍になります!(※個人の感想です)


毎日【11:00】と【22:00】更新となります。ぜひお見逃しなく!


【次回予告】

Eat! Victory!

始まっちまった地獄鍋MAXブレンドの早食い対決! ぶっちゃけ俺は転生前は辛いものは苦手だった。

だからカレーといえば『カレーの王子さま』一択! 誰にでもフレンドリーな味が堪らねぇ。

それはともかく、謎の男ゼノンとポプリのガチ勝負の行方は!?


次回、『転爆』、第67話『激辛完食パーフェクトレディ』

やってやるぜ!

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