第63話『爺さんの置き土産』
「……はいはい、時間切れ。残念だったね、おチビさん。また来年……」
サイボーグ女性が無情な宣告を下した、まさにその時だった。
彼女のカウンターに設置された通信機が、けたたましい着信音を鳴らした。
「……あ? なんだい、こんな時に……」
サイボーグは、面倒くさそうに通信に出た。
すると、スピーカーから、聞き覚えのある、しゃがれた声が響き渡った。
【――おい、聞こえとるか、ドリルの姉ちゃん。アルゴノーツ号は、わしの『特別推薦枠』じゃ。検査を通してやれ】
それは、ドクター・ギアの声だった。
サイボーグの顔が、驚愕と、それ以上の何か……畏敬のような色に変わる。
「……! ド、ドクター!し、しかし、時間は……!」
【ごちゃごちゃ言うな。わしが保証すると言っとるんじゃ。それとも何か? わしの顔に泥を塗るつもりか?ああん?】
ギアの声には、有無を言わせぬ凄みがこもっていた。
「……! い、いえ!滅相もございません!ただちに検査を開始します!」
サイボーグは、先ほどまでの横柄な態度が嘘のように、背筋を伸ばして敬礼した。
(……やはり、ただ者ではない……!レース運営委員会にも顔が利くのか、あの爺さん!)
俺は、ギアの影響力の大きさに、改めて戦慄した。
サイボーグは、慌てて検査用のスキャナーを起動させ、アルゴノーツ号に向けた。
船体各部をスキャンしていくうちに、彼女の表情が、困惑から、呆れへと変わっていく。
「……なんだい、この改造は……。装甲は…最低基準ギリギリ。スラスターは…なんだこりゃ、型番の違うパーツを無理やり繋ぎ合わせてるね。それに、この武装……船首についてるのは、まさか…ただの工業用レーザーポインターかい!?」
『(バレたか!)』
(時間がない中で、ギア爺さんが「これで十分じゃ!」と、ガラクタの山から見つけてきて無理やり取り付けた代物だ!)
俺が冷や汗をかく(という感覚に襲われる)中、サイボーグは深いため息をついた。
「……まあ、いいさ。『戦闘用改造』の定義は、『何らかの指向性エネルギー兵器または実体弾兵器を搭載していること』だからね。嘘はついちゃいない。……一応はね」
彼女は、まるで判決を下すかのように、承認のスタンプをデータパッドに叩きつけた。
「……合格だよ。ただし、一つ言っておく。こんな間に合わせの改造で、明日の予選を生き残れるなんて、思わないことだね。せいぜい、スタート直後に派手な花火にならないように祈るんだね」
その言葉は、まるで呪いのようだった。
だが、俺たちにとっては、絶望的な状況下で掴み取った、勝利のファンファーレでもあった。
『やりました……!やりましたよマスター!これで、レースに出られます!』
「うん! やったね、オマモリさん!」
ポプリは、満面の笑みで飛び跳ねた。
彼女の頭の中には、「花火」という不吉な言葉など、欠片も残っていないようだった。
(第63話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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【次回予告】
Protect! MASTER!
なんで今、一人で出て行くんだよ! 激辛料理のためだ!? ここは無法者の巣窟だぞ!
嫌な予感しかしねぇ。だが俺はG-1で見守るしかできねえ!
おいポプリ! 少しは俺の話しを聞け! やめろ、それ生で食べるな!
次回、『転爆』、第64話『嵐の前の静けさ(と腹ペコ)』
絶対に、守り抜く! やってやるぜ!




