第62話『滑り込みアウト!?』
アルゴノーツ号が停泊する公営ドックは異様な雰囲気に包まれていた。 ドクター・ギアが到着するや否や、周囲のメカニックや船乗りたちが、まるで伝説の生き物でも見るかのように遠巻きにし、ヒソヒソと噂を交わしている。
「おい、あれ……本当に『ドクター・ギア』か?」 「なぜあんな爺さんが、こんな場所に……」 「あのボロ船を改造するつもりらしいぞ……正気か?」
ギアは、そんな周囲の視線など全く意に介さず、アルゴノーツ号の前に仁王立ちになると、俺に指示を飛ばした。
「AI!船外カメラの映像をわしのタブレットに送れ!それと、船体各部の構造材データをリアルタイムで表示させろ!」
『了解! データ転送、開始します!』
「嬢ちゃん!そこのツールボックスから、レーザーカッターと反物質溶接機を持ってこい!」
「はーい!」
ドック内は、まさに戦場と化した。 ギアは、空中に投影されたアルゴノーツ号の構造図と、俺が送るリアルタイムの船体データを睨みつけながら、設計図もなしに改造を進めていく。 彼が『秘蔵のパーツ』を取り出し、船体に直接加工を始めると、周囲のメカニックたちから驚きの声が上がる。
「なんだあの素材は……見たこともない合金だぞ!?」 「あの溶接技術……信じられん!」
俺も俺で必死だった。ギアの指示に従い、内部OSの書き換え、エネルギーラインのバイパス、そして船体に搭載されたナノマシンへの指示を送り、ギアが行う物理的な改造とシステムをリアルタイムで同期させていく。
(くそっ!この爺さん、無茶苦茶だ!だが、確かに船の性能が……上がっている!? これが……天才の仕事か!)
ポプリも、その小さな体で懸命にギアの助手を務めていた。工具を運び、部品を押さえ、時にはその怪力で巨大なパーツの位置を微調整する。
やがて、時計の針が19時50分を指した頃。 ドック内に、けたたましいブザー音が鳴り響いた。タイムリミット10分前の合図だ。
「……よし、できた!」
ギアは、額の汗を拭うと、満足げに呟いた。 目の前には、先ほどまでとは見違えるような姿になったアルゴノーツ号が鎮座していた。流線型の船体には最低限だが鋭角的な装甲が追加され、船体下部には見るからに高出力なスラスターが増設されている。さらに、船首には小型ながらも高エネルギー反応を示すレーザー砲らしきものまで取り付けられていた。
『これが……アルゴノーツ号……?』(原型、ほとんど留めてねえ!)
「ふん、間に合わせじゃがな。これで、そこらの雑魚どもに撃ち落とされることはあるまい。わしが直々に手を下したんじゃ、そこらの改造屋とはワケが違うわい」
ギアは、自信満々に胸を張った。
「さて、嬢ちゃん、AI!お前さんたちの出番じゃ!」
ギアは、俺たちにハッパをかけた。
「今すぐ船に乗り込み、技術検査場に向くんじゃ!急げ!あと10分もないぞ!」
『了解!』 「うん!」
俺たちは、ギアに(心の中で)礼を言う間もなく、船に飛び乗った。
『システム最終チェック、完了!ドック管制、緊急出港許可を要請!目的地、技術検査場!』
俺は、生まれ変わったアルゴノーツ号のエンジンを最大出力で吹かし、ピット・シティの公営ドックを飛び出した。その加速力は、以前とは比べ物にならない!
時計は、19時58分を指している。 技術検査場は、ドックから見てステーションの反対側だ。 間に合うか……!?
検査場の前には、もう誰も並んでいなかった。 カウンターでは、ドリル腕のサイボーグ女性が、呆れた顔で時計を眺めている。
「……ったく、時間ギリギリの奴が必ずいるんだから……」
俺は、アルゴノーツ号を強引に着陸させると、外部スピーカーで叫んだ。
『アルゴノーツ号!技術検査、お願いします!滑り込みセーフ!』
サイボーグは、時計の針が20時00分を指したのをちらりと見ると、面倒くさそうに言った。
「……はいはい、時間切れ。残念だったね、おチビさん。また来年……」
彼女がそう言いかけた、まさにその時だった。
(第62話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
予約のミスで後悔が時間通り行えずすみませんでした。夜の公開は予定通り22時です。
リラックスした時間を狙って遅めの公開時間ですが、数少ない読者の方のなかで「もっと早い方がいい!」という声がありましたら変えますので、気軽にお声がけくださいね。
「面白い!」「続きが気になる!」「ポプリのやらかしをもっと見たい!」
と少しでも思っていただけましたら、ぜひブックマークや、ページ下部の【★★★★★】で評価をいただけますと、作者の執筆速度が3倍になります!(※個人の感想です)
毎日【11:00】と【22:00】更新となります。ぜひお見逃しなく!
【次回予告】
Pass! Race Entry!
「時間切れ」の非情な宣告! だが、それを覆したのは爺さん(ギア)の鶴の一声! 工業用レーザーポインター!? こんなポンコツで、明日の予選、本当に生き残れるのか!?
次回、『転爆』、第63話『爺さんの置き土産』
絶対に、生き残る! やってやるぜ!




