第61話『徹夜必至! 地獄の(?)魔改造』
予想外の展開に、俺の論理回路は再び混乱していた。
(……一つだけでいいのか? なぜ? 最低でも100,000クレジットの価値があるものを……。そして、この卵は、一体……? 星系の運命すら左右する?)
老人の言葉は、新たな、そしてより深い謎を、俺たちに突きつけていた。
『……本当に、これだけで?』
俺は、信じられない気持ちで尋ねた。
老人は、懐に入れた卵を満足げにポンと叩くと、うっすらと笑みを浮かべた。
「ああ。わしにとっては、この一つでもお釣りがくるわい。それに……残りは嬢ちゃんが持っておった方が、後々面白いことになりそうじゃからのう」
その目は、完全に悪戯を楽しんでいる子供のそれだった。
「やったー! おじいさん、ありがとう!」
ポプリは取引が成立したことに、単純に大喜びしている。
(面白いこと……? 何を企んでいるんだ、この爺さんは……)
俺の不信感は拭えなかったが、今は目的を優先するしかない。
『では、早速ですが改造をお願いします! 時間がありません! 予選の技術検査締め切りが、今日の20時なのです!』
俺は、最も重要な懸念事項を伝えた。現在の時刻は、すでに夕方5時半を過ぎている。
老人は、俺の言葉を聞いて、ピタリと思考を止めた。そして、「何を今さら」といった顔でこちらを見た。
「……そんなことはとっくに分かっとるわい!」
そう言う彼の顔には焦りの色はない。むしろ、不敵な笑みを浮かべていた。
「いいじゃねぇか……、普通なら数ヶ月はかかる改造じゃぞ! それをたった2時間半でやるんじゃからな! 久しぶりにぞくぞくするわい」
老人は工具ベルトを締め直し、ガレージの奥にある、ひときわ厳重にロックされた棚に向かった。
「お前さんたちの船はどこにあるんじゃ? いまからわしの『秘蔵のパーツ』を持って一緒に行くぞ!」
そう言って老人はガレージの奥にある、ひときわ厳重にロックされた棚に向かうと、見たこともない形状の工具や、鈍い光を放つ金属パーツが入った巨大なツールボックスを引っ張り出してきた。
「けけけ、久しぶりじゃのう、わしの『秘蔵のパーツ』を総動員するのは……。おい、お主らにも死ぬ気で手伝よ!」
彼はビシッと俺(G-1)を指さした。
「お前さん(AI)!船に戻って待機しろ! わしがドックに着き次第、内部システムの最適化を指示通りにやってもらうぞ! あの船のOSは複雑怪奇じゃからな! 遅れたら承知せんぞ!」
『サー、イエッサー!』
俺は反射的にそう答えていた。
彼は次にポプリに向き直った。
「それから嬢ちゃん! お前さんは、わしの助手じゃ! 工具を取ったり、指示された部品を持ってきたり……ドックでわしの言うことを光の速さで聞け! いいな!」
「任せて! 足には自信があるから!」
ポプリは元気よく返事をした。
こうして、俺たちと偏屈な天才メカニック、ドクター・ギアによる、アルゴノーツ号・超突貫魔改造プロジェクトが、タイムリミットわずか2時間半という、絶望的な状況下で、船のある公営ドックへと場所を移して幕を開けようとしていた。
(第61話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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【次回予告】
Dash! Finish line!
間に合え! 間に合え! 間に合えぇぇぇ! 爺さん(ギア)の魔改造は完了した! だが、検査場の締め切りは20時ぴったり!
「時間切れ」だと!? 冗談じゃねえ!俺たちの戦いはこれからだ!
次回、『転爆』、第62話『滑り込みアウト!?』
絶対に、認めさせる!やってやるぜ!




