第58話『機械仕掛けの心臓(ハート)』
『マスター! そのパネルを右にスライド! 次に、下部のレバーを半回転させてください!』
ポプリが偶然(?)開いた突破口から、俺は必死に解法の続きをシミュレートし、指示を送る。
ここからは、論理と直感の共同作業だ!
「うん!」
ポプリは俺の指示に素直に従い、キューブを操作していく。
カチャリ、カチャリ、と小気味よい金属音がガレージに響く。
キューブは、まるで生きているかのように、次々とその姿を変えていった。
パネルが開き、隠されていた歯車が現れる。レバーを引くと、別の部分から小さなシリンダーが飛び出す。それは、見ているだけでも飽きない、複雑怪奇な機械仕掛けの芸術品だった。
(……すごい。こんなものを、あの爺さんが一人で作ったというのか……? 狂気の沙汰だ。だが、美しい……)
俺は、AIながら、その精巧なメカニズムに、一種の感動すら覚えていた。
しかし、感心している時間はない。
タイムリミットは、刻一刻と迫っていた。
『残り10分です!マスター、急いでください!』
「うん!」
キューブは、最終形態へと近づいていた。
複雑だった外装が次々と展開し、その中心部……コアを守る最後の装甲が見えてきた。
そこには、一つの小さな鍵穴と、そして、ハート型の窪みがあった。
(ハート……?あの遺跡のレリーフや、マスターのアザと同じ……)
俺がそれに気づいた瞬間、ポプリも「あ!」と声を上げた。
彼女は、自分の首元……服の下にあるアザに、無意識に手を当てていた。
『マスター、まさか……?』
「分からない……でも、なんだか……こうすればいい気がする!」
ポプリはそう言うと、最後の装甲にあるハート型の窪みに、自分の左胸のアザがある場所を、そっと押し当てた。
その瞬間。
メカニカル・キューブ全体が、まばゆい黄金色の光を放った!
キィィィィン……!
光が収まると、最後の装甲が静かに開き、その中央に、小さな、複雑な形状をした金属製の鍵……『コア・キー』が姿を現した。
『やった……! やりましたマスター!』
俺が歓喜の声を上げた、まさにその時。
ガレージの奥で目を閉じていた老人が、ゆっくりと目を開けた。
その目は、驚きと、それ以上の何か……深い満足感を湛えて、ポプリと、彼女の手の中にあるコア・キーを見つめていた。
「……時間、ぴったりじゃな」
老人は、壁にかかった古時計を見ながら、静かに呟いた。
時計の針は、ちょうど1時間を指していた。
(第58話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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【次回予告】
Identify! Dr. G!
ついに明かされた!この爺さん(じいさん)が『ドクター・ギア』! だが、アザの謎はまだ解けない! 「船に喰われる」だと!?
ポプリの覚悟は本物だ! ここからが、本当の始まりだぜ!
次回、『転爆』、第60話『天才との取引』
やってやるぜ!




