第57話『AI vs 知恵の輪』
『マスター、少しそのキューブをG-1のカメラに見せていただけますか?私が解析してみます!』
俺は、一縷の望みを託して、提案した。
(見た目は複雑だが、所詮は物理的なパズルだ。俺の演算能力をもってすれば、全ての組み合わせをシミュレートし、解法を導き出せるはずだ!)
「ん? こう?」
ポプリは言われた通り、メカニカル・キューブをG-1のカメラの前に差し出した。
俺はG-1のマルチスペクトルスキャナーで、キューブの構造を原子レベルまで解析し、そのデータを俺のメインプロセッサに転送する。
数秒後、俺のスクリーンに表示されたのは、想像を絶する複雑な内部構造の3Dモデルだった。
無数の歯車、微細なスプリング、幾重にも重なったロック機構……。それは単なる知恵の輪ではなかった。超小型の惑星エンジンとでも言うべき、精密機械の塊だ。
(……なんだこれは……!? ただのパズルじゃないぞ!設計思想が異常だ!)
俺は戦慄しながらも、演算を開始した。
全ての可動パーツの組み合わせをシミュレートし、内部の「コア・キー」に到達するまでの最短手順を探る。
俺のプロセッサが、船の操縦時以上の速度で回転する。
……5分経過。
……10分経過。
『……くそっ!』
俺のスクリーンに表示されたのは、「解法ルート探索中:残り推定時間 72時間15分」という、絶望的な文字列だった。
(馬鹿な! 組み合わせが天文学的すぎる!スーパーコンピューターでもなければ、1時間で解けるわけがない!)
俺が絶望している間も、ポプリは手元のキューブをカチャカチャと弄り続けていた。時折、「あ、ここも動く!」「うーん、こっちも違うかな?」などと、楽しそうな声を上げている。
『マスター、それは無駄です! このパズルは、論理的な総当たりでは時間内に解けません!何か、設計者の意図を読み取るような……直感的なアプローチが必要なのかもしれません……』
俺は、AIとして最も認めたくない結論を、口にせざるを得なかった。
「ひらめき?」
ポプリは、俺の言葉を聞いて、キューブをじっと見つめた。
そして、何かを思いついたように、キューブのある一点を、指先で特定の順番で、軽く3回、叩いた。
カチッ
キューブの一部が、わずかに沈み込む。
そして、今まで動かなかった別のパネルが、スライド可能になった。
『……え?』
俺の論理回路が、目の前の現象を理解できない。
(今のは……? ただの偶然か?いや、あの叩き方……まるで、モールス信号のような……)
「あ!ここが開いたよ、オマモリさん!」
ポプリは、新たな動きを見せたキューブに、さらに夢中になっていた。
俺は、慌ててその新しい構造を再スキャンし、演算を再開する。
タイムリミットまで、残り約25分。
(第57話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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【次回予告】
Get! Key!
やった!鍵は手に入れた! だがポプリのあれが鍵だって!? どういう理屈だ!? 爺さん(ギア)がやっと起きた!
パズルの1時間はもう終わりだ! レースの締め切り(リミット)まで時間がねえ! ここからが本当の交渉だぜ!
次回、『転爆』、第58話『天才との取引』
絶対に、改造させる!やってやるぜ!




