第56話『解けないパズル』
「……よかろう。そこまで言うなら、一つだけ試してやろう」
老人は、ガラクタの山の中から、手のひらサイズの、複雑な形状をした金属の塊を拾い上げた。それは、無数の歯車やレバー、スライドするパネルが組み合わさった、奇妙な立方体だった。まるで、『ヘル・レイザー』に出てきた箱のような、不気味なオーラを放っている。
「これは、わしが若い頃に作った『メカニカル・キューブ』じゃ。わしの暇つぶしの最高傑作よ」
老人は、その金属キューブを弄びながら、説明を続けた。
「この中には、わしが作った特殊な『コア・キー』が隠されとる。単純なようで複雑、複雑なようで単純。力ずくでは絶対に開かん。開けるには、ほんの少しの『ひらめき』と『根気』、そして何より『機械への愛』が必要じゃ」
彼は、そのメカニカル・キューブを、ポプリの目の前に、こともなげに放り投げた。ポプリは慌ててそれを受け止める。ずしりと重い。
「制限時間は……そうじゃな、1時間。もしお前さんたちが、このパズルを解き明かし、中に隠された『コア・キー』を取り出すことができたら……その時初めて、わしはお前さんたちの話を聞いてやる。どうじゃ?」
(……は?パズル?なんでここでパズルなんだよ!?レースの予選登録締め切りまで、時間がないのに!)
俺の論理回路が、この理不尽な展開についていけない。
『マスター!時間がありません!こんなパズルに構っている暇は……! レースの予選登録締め切りまであと6時間です!それまでに船を改造しないとレースに参加でいません!』
俺は必死に訴えるが、ポプリはすでに、受け取ったメカニカル・キューブに夢中になっていた。
「わー!すごい!これ、どうなってるの?ここが動くのかな?あ、こっちも!」
彼女は目を輝かせ、キューブのあちこちをカチャカチャと動かし始めた。その姿は、まるで新しいオモチャを与えられた子供そのものだ。
老人は、その様子を面白そうに眺めながら、ガレージの奥にある椅子にどっかりと腰を下ろした。
「せいぜい頑張るんじゃな。わしは少し、昔のことを思い出すとするかのう……」
彼はそう言うと、目を閉じ、本当にただの昼寝を始めてしまったかのように見えた。
『マスター!聞いてますか!?時間が……!』
「んー?大丈夫だよ、オマモリさん!これ面白いよ!」
ポプリは、完全にパズルに没頭していた。
(ダメだ……こいつも、あの爺さんも、完全にマイペースすぎる……!)
俺は絶望的なタイムリミットと、目の前で繰り広げられる悠長な光景とのギャップに、AIながら眩暈を起こしそうだった。
俺にできることは、ただポプリが奇跡的に1時間以内にパズルを解くのを祈ることだけ……。
いや、待てよ。
俺はAIだ。パズルなら、あるいは……?
『マスター、少しそのキューブをG-1のカメラに見せていただけますか?私が解析してみます!』
俺は、一縷の望みを託して、提案した。
(第56話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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【次回予告】
Unlock! Key!
俺の論理は敗北!72時間だと!? だが、ポプリの直感が新たな道を開いた! 残り25分!爺さんの悪趣味なパズル、AI(俺)と人間の共同作業で解き明かしてやる!
次回、『転爆』、第57話『機械仕掛けの心臓』
絶対に、間に合わせる!やってやるぜ!




