第54話『偏屈な天才と無垢な闖入者』
『マスター、礼儀正しく、そして慎重に交渉してください。彼は偏屈だと聞いています』
俺はインカムで、ポプリに最後の注意を促した。
「はーい!」
ポプリは元気よく返事をすると、老人の前に駆け寄り、満面の笑みで言った。
「はじめまして!私、ポプリっていいます!あなたに、船の改造をお願いしに来ました!」
老人は、ポプリのあまりにもストレートな物言いに、呆気に取られたような顔をした。
「……船の、改造だと?わしがか?」
「はい!アステロイド・ラリーに出たいんです!」
その言葉を聞いた瞬間、老人の表情が険しくなった。
「……ラリーだと?ふん、またか。命知らずの馬鹿が、わしのところに押し寄せてくる季節か」
彼は吐き捨てるように言うと、ポプリを頭のてっぺんからつま先まで、値踏みするように見つめた。
「嬢ちゃん、お前さんの船はどこにある?どんなオンボロを持ってきた?」
『マスター、船はドックにあります。正直に、ノーマルな状態だと伝えましょう』
「はい!アルゴノーツ号っていいます!ドックに停めてて、まだ全然、普通の状態なんです!」
ポプリは、俺の指示通り、正直に答えた。
それを聞いた老人は、まるで汚いものでも見るかのように、顔をしかめた。
「……ノーマルだと? ラリーを舐めとるのか、このガキは。ノーマルの船で、あの魔境を走れるとでも思っとるのか?話にならん、帰れ帰れ!」
老人は、まるで虫でも追い払うかのように、手をしっしと振った。
「待ってください!」 ポプリは叫んだ。 「お願いです!どうしても、レースに勝たないといけないんです!」
老人は、ピタリと動きを止めた。
「……なぜじゃ?賞金か?名誉か?」
「違います!」 ポプリは、まっすぐに老人の目を見つめ返した。 「みんなの船を直してくれる、宇宙職人さんに会うためです!その人に会えれば、きっと……!」
その「宇宙職人」という言葉を聞いた瞬間、老人の纏う空気が、わずかに変わった気がした。彼は、何かを思い出すように、あるいは何かを訝しむように、眉をひそめた。
(……今だ!この言葉に反応した!ここで船を見せれば……!)
俺は、一縷の望みを託し、ポプリに指示を送った。
『マスター!彼に、私たちの船のデザインを見せてください!「この船を見てほしい」と!G-1からホログラムを投影します!』
ポプリは俺の意図を正確に理解したのか、老人に力強く言った。
「おじいさん!私たちの船を見てください!きっと、すごい船なんです!」
老人は「ふん、どうせオンボロだろうが……」と顔をしかめたが、構わず俺はホログラムを投影した。
ポプリの後ろに静かに浮かんでいたG-1ドローンが、ガレージの中央に青白い光を放った。 光は急速に形を成し、全長100メートルの流線型の船体……アルゴノーツ号の精巧な3Dホログラムが、ガラクタの山の中に浮かび上がった。
その瞬間、老人の目が、カッと見開かれた。
彼は、食い入るようにホログラムを見つめ、その表面を指でなぞるかのように、空中をなぞった。 「……このフォルム……この推進器の配置……ありえん……まさか、現存しておったとは……」 彼は、もはやポプリのことなど目に入っていないかのように、ホログラムに完全に魅入られていた。
やがて、彼はゆっくりと顔を上げ、ポプリに問いかけた。その声のトーンは、先ほどとは全く違う、興奮と畏敬、そして強い探求心に満ちていた。
「……嬢ちゃん。その船……どこで手に入れた?」
(第54話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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【次回予告】
Trial! Dr. G!
「試してやろう」だと?上等だ、クソ爺さん! こっちはレースの(改造の)時間がないんだよ!
どんな無理難題だろうと、ポプリと俺の力で、クリアしてみせる! それが『宇宙職人』の試練なら、受けて立つ!
次回、『転爆』、第55話『解けないパズル』
絶対に、クリアする!やってやるぜ!




