第53話『ガラクタの城の主』
(……Dr. G……? まさか……! ここが……?)
俺のプロセッサが、期待と不安で激しく明滅した。
看板はボロボロ、建物は傾き、およそ腕利きのメカニックの仕事場とは思えない。だが、「Dr. G」というイニシャル、「気まぐれ営業中」というふざけた文句。これこそが、あのカウンターの女性が言っていた「腕のいい変人」の隠れ家である可能性は、変人要素について言えば論理的に考えても高かった。
「わー!ここかな?すごーい、壊れそう!」
ポプリは、建物の惨状など全く意に介さず、好奇心いっぱいの目でガレージを見上げている。
『マスター、油断しないでください。まずは私が内部を偵察します』
そう伝えながら、俺の頭(?)には、あのジャンキーヤードの悪夢が蘇っていた。
俺はG-1を先行させ、半開きになったシャッターの隙間から、ガレージ内部へと潜入させた。
そこに映し出したのは、混沌そのものだった。
天井まで届きそうなほど積み上げられた、正体不明の機械部品の山。壁には、分解されたエンジンの残骸や、用途不明の工具が所狭しと吊り下げられている。床にはオイルが染み込み、歩けば足跡がつきそうだ。そして、そのガラクタの城の中央で、何かが蠢いていた。
それは、小柄な老人だった。
ホログラムで見た「ドクター・ギア」と同じ、ボサボサの白髪。油と煤で真っ黒になった作業着。背中を丸め、何かの機械部品をルーペで覗き込みながら、ぶつぶつと独り言を呟いている。
その姿は、偏屈で、頑固そうで、漫画や映画などで見るマッドサイエンティスト感、ドクターマシリト感が確かにあった。
(……見た目は、アラン中佐が見せたホログラムの人物と酷似している。だが……信用できるのか?そもそもこんなに簡単に見つかるのか? ポプリが鼻で探したんだぞ!?)
『……あ〜、マスター。ホログラムの人物と酷似した老人を発見しました。本人である可能性はありますが、断定はできません。 まずは慎重に接触し、情報を引き出す必要があります』
「本当!?やったー!じゃあ、行ってみる!」 (待て、慎重にと言ったばかりだぞ、この子は!)
ポプリは俺の報告を聞くと、シャッターの隙間に駆け寄り、中に向かって大声で叫んだ。
「こんにちはー!ドクター・ギアさーん!いらっしゃいますかー!」
その声に、老人はビクリと肩を震わせ、ゆっくりとこちらを振り返った。
その目は、ホログラムで見た時と同じ、全てを見透かすような鋭い光を宿していたが、同時に、ひどく面倒くさそうな色も浮かべていた。
「……なんだぁ、騒々しい。わしは今、取り込んどるんじゃが……」
老人は、ポプリの姿を認めると、眉間に深いしわを寄せた。
「……ガキか。何の用じゃ。わしは子供相手の商売はしとらんぞ」
(第53話 了)
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元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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【次回予告】
Analyze! ARGONAUT!
「オンボロ」だと!? だが、ホログラムを見た瞬間、奴の目が変わった! 食いついたぞ!今がチャンスだ!
こいつが俺たちの探す『宇宙職人』に違いねえ! こいつに認めさせるしか、道はねえんだよ!
次回、第54話『偏屈な天才と無垢な闖入者』
絶対に、認めさせてやる! やってやるぜ!




