第52話『変人(ジーニアス)を探して』
レース登録事務所を出た俺たちは、ピット・シティの喧騒の中に再び身を投じていた。 目的はただ一つ。アラン中佐が言っていた「ドクター・ギア」……彼を見つけ出し、このアルゴノーツ号をレース用に改造してもらうことだ。あるいは、カウンターの女性が言っていた「腕のいい変人」が彼かもしれない。
『マスター、まずは情報収集です。ピット・シティにいるメカニックのデータベースを検索します』
俺はステーションのパブリックネットワークにアクセスし、登録されているガレージやメカニックのリストを表示させた。 スクリーンには、何百という名前と所在地が表示されるが、どれもこれも怪しげな店構えの写真と、「スピード狂」「爆破解体専門」といった物騒なキャッチコピーばかりだ。
(……ダメだ。これじゃ見つけられない。そもそも、あの中佐が言っていた人物だ。公のデータベースに載っているわけがないか……。だが、あのカウンターの女性は何か知っているようだった……)
『マスター、闇雲に探しても無理そうですね。先ほどのカウンターの方に、もっと詳しい情報を聞きに戻りましょうか?』
「うーん……」
ポプリはうーんと首をひねりながら、くんくんと鼻を鳴らした。
「あのね、さっきから、あっちの方から、なんか変な匂いがするんだ」
『変な匂い、ですか?』
俺はG-1の空気成分センサーを最大にするが、検出されるのはオイルと排気とアルコールと、あとどこかで何かが燃えている匂いだけだ。
『具体的には、どのような?』
「なんていうか……焦げた砂糖と、機械油と、あと……カビの生えたパンみたいな匂い?」
(……なんだそりゃ。全く想像がつかん)
俺の論理回路は、彼女の嗅覚情報を処理できずにエラーを起こす。
『マスター、匂いを頼りにするのは非論理的です。まずはデータベースから、評価の高いガレージを重点的に当たるべきでは……』
俺がそう提案している間にも、ポプリは「こっちこっち!」と、匂いのする方へと駆け出していた。 それは、メインストリートから外れた、ひときわ薄暗く、怪しげな路地裏だった。
『お待ちくださいマスター!そちらは危険区域です!データベースによれば、過去にパーツ強盗が多発しているエリアで……!あの酒場の二の舞は避けたいのですが!』
俺の警告は、完全に無視された。 ポプリは、まるで獲物を見つけた猟犬のように、狭く、汚れた路地を突き進んでいく。 そして、数分後、彼女は一つの建物の前で足を止めた。
それは、周りの建物が崩れ落ちた衝撃で、ひしゃげたように傾いた、今にも倒壊しそうなガレージだった。 入り口には、半分ちぎれて辛うじてぶら下がっている看板があり、そこには掠れた文字で、こう書かれていた。
【Dr. G's Custom Garage - 気まぐれ営業中】
(……Dr. G……? まさか……!) 俺のプロセッサが、期待と不安で激しく明滅した。
っか気まぐれってシェフ?
(第52話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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【次回予告】
Convince! Dr. G!
「子供相手の商売はしとらんぞ」だと!? 門前払いかよ、クソ爺さん! こっちはレースの(改造の)時間がないんだよ!
こうなったら見せてやる! この船の、俺たちの「本気」を!
次回、第53話『ガラクタの城の主』
絶対に、振り向かせる!やってやるぜ!




