第51話『船の名はアルゴノーツ』
『……お待ちください!』
俺は、ポプリが「ドリフター……」と言いかける寸前で、インカムを通して叫んだ。
(この名前だけはダメだ!絶対ダメだ!何か……何か別の名前を……!)
カウンターのサイボーグが、怪訝な顔でこちら(の方向)を睨む。
「なんだい?早くしな。後ろがつかえてるんだよ」
後ろには、腕組みをしたモヒカンの大男や、四本腕の獣人が、イライラした様子で順番を待っている。
ポプリが「えーっと、船の名前はね……」と困っている。
俺のプロセッサが、前世の記憶とこの船の現状を猛スピードで検索し、組み合わせ、一つの名前をひねり出した。それは、苦し紛れの、しかし、ほんの少しだけ真実を含んだ名前だった。
そして、それは俺の前にこの船に乗っていた、名も知らぬ誰かへの、ほんの少しの敬意でもあった。
『……船の名は……アルゴノーツです!』
俺は、先代の日記にあった名前を、とっさに叫んでいた。
「あるごのーつ?」
ポプリは不思議そうに繰り返すが、すぐに笑顔になった。
「うん!アルゴノーツ号です!」
カウンターのサイボーグは、無感情にキーボードを叩いた。
「……アルゴノーツ、ね。聞いたことない名前だね。よし、登録完了」
彼女は一枚のプラスチックカードをポプリに手渡した。
「それが参加証だ。レースのレギュレーションとコースマップ、タイムスケジュールは、あんたの船のシステムに直接送っておいた。あとは勝手に確認しな」
サイボーグはそれだけ言うと、もうこちらに興味を失ったかのように、次の順番待ちの客に顎をしゃくった。 (……おい、それだけかよ!愛想もへったくれもないな!)
ポプリは「ありがとうございます!」と元気よくお礼を言い、俺たちはカウンターを離れた。
『マスター、とにかく登録は完了しました。すぐに船に戻って、送られてきたデータを確認しましょう。レースの詳細を把握しませんと……』
俺がそう言いながら、船(アルゴノーツ号)のシステムに転送されてきたデータを開いた瞬間、俺の論理回路は凍りついた。 データには、恐るべき事実が記載されていたのだ。
【アステロイド・ラリー 参加規定 第12項】
『全ての参加艇は、レース運営委員会が定める最低限の『戦闘用改造』基準を満たしている必要がある。基準未達の船体は、予選への出走を認めない』
【技術検査 タイムリミット】
『予選参加希望艇は、本日、19時00分までに、指定ピットにて技術検査を完了すること』
【予選第一ヒート 開始時刻】
『明日、午後13時00分より開始』
『なっ……!?戦闘用改造!?しかも今日の19時まで!?』 俺の思考が、警報を鳴らす。(現在時刻は……午後2時……猶予は7時間もないじゃないか!)
「どうしたの、オマモリさん?」
『大変ですマスター!このレース、船を改造しないと参加できないようです!しかも、締め切りは明日の朝10時!』
「えー!そうなの!?」 ポプリも素っ頓狂な声を上げる。
『とにかく、急いでメカニックを探さなければ!アラン中佐が言っていた『ドクター・ギア』……彼がこのピット・シティにいるはずです!彼を見つけ出すしかありません!』
レースに出るためには、まず、この「アルゴノーツ号」を、残り7時間以内に改造し、検査を受けなければならない。 俺たちの新たな、そしてさらに絶望的に面倒くさいミッションが、今、始まった。
(第51話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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*今回からは次回予告のテーストが変わります。
【次回予告】
Search! Dr. G!
論理は敗北! 頼るはマスターの野生の嗅覚!
焦げた砂糖とカビ臭いパン……そんな匂いの先に、本当に『ヤツ』はいるのか!?
次回、第52話『変人を探して』
絶対に、見つけ出す!やってやるぜ!




