第49話『タナトス・ベルトの洗礼』
前方に広がるのは、不吉な色の星雲と、無数の宇宙の残骸が渦巻く、無法宙域「タナトス・ベルト」。
『これよりタナトス・ベルトの境界線を通過します。マスター、何があっても、決して油断しないでください』
「はーい!」
ポプリの元気な返事とは裏腹に、俺の論理回路は最大級の警戒レベルに移行していた。
船が星雲の中に機首を突っ込んだ、その瞬間だった。
船内にけたたましいアラートが脊髄反射のように鳴り響く!
【警告:小型戦闘艇2機、急速接近。ID照合……不可。所属不明機です】
(くそっ、もう来たか!)
メインスクリーンに、後方から急速に迫ってくる、錆びついた二機の戦闘艇が映し出される。どう見ても正規の船ではない。海賊か、あるいは獲物を探すハイエナだろう。
【ようこそ、タナトス・ベルトへ、新入りさんよぉ】
船内に、下品な通信が強制的に割り込んでくる。
【ここは無法の宙域だ。ここを通りたきゃ、積荷の半分か、10,000クレジットを置いていきな。それがここの「通行料」だぜぇ?】
「こんにちはー!私たち、お金はないんですー!」
ポプリが、屈託なく通信に応答する。
『マスター、余計なことを!』
【金がねえだと?ハッ、じゃあその船ごと全部いただくしかねえなあ!】
通信が切れると同時に、敵機が戦闘態勢に入った。
(まずい!戦闘になれば、折角満タンになったエネルギーも燃料もあっという間に尽きる!)
俺は必死に活路を探す。この船には、ミサイルのような気の利いた武装はない。
(……だが!)
『マスター、しっかり掴まってください!今から急加速及び、緊急回避機動に入ります!』
「え?きゃー!」
俺は、前世でやりこんだシューティングゲームの記憶を、この船の操縦系統にオーバードライブさせる!
(マクロスプラスのドッグファイトみたいにうまくいくか!いや、やってやるぜ!【ダンクーガ的な感じで】)
俺の船は、ありえない角度で急反転すると、敵機の弾幕をかすめ、密集した小惑星帯へと突っ込んでいった!
「うわわわわ!ぶつかるー!」
ポプリの悲鳴がブリッジに響く。
『問題ありません!計算通りです!』
俺は、四方八方から迫る岩塊の動きをミリ秒単位で計算し、縫うようにして突き進む。
追ってくる海賊船は、俺の人間離れした(AI離れした?)機動についてこれない。
ドゴォン!
一機が、避けきれずにアステロイドに激突し、火の玉となった。
【て、てめえ!覚えてろよ!】
残った一機は、恐怖に駆られたのか、捨て台詞を残して逃げていった。時代が変わっても悪党の捨て台詞は変わらない。
「はぁ……はぁ……」
俺は、凄まじい情報処理でオーバーヒートしかけたプロセッサを、必死に冷却していた。
(……これが、タナトス・ベルトの洗礼かよ……)
「すごいよオマモリさん!今の、すっごくかっこよかった!」
俺は応えた。
『I know』
と。
(第49話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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次回 第50話『亡者たちのガレージ』
なんにも得ないで、地獄に落ちそう。




