第45話『選択なき選択肢』
アラン中佐は、真っ直ぐにポプリの瞳を見据え、二つの選択肢を提示した。
「一つ。このまま、我々統合宇宙軍の完全な保護下に入ること。我々が用意した安全な施設で、何不自由なく暮らすことができるだろう。ただし、二度と外の世界に出ることは許されない。君という存在が、アステリアの遺産を巡る新たな争乱の火種になることを、我々は容認できないからだ」
(……監禁、か)
俺のプロセッサが、その言葉の本質を正確に弾き出す。
「そして、もう一つ」
アラン中佐は、わずかに間を置いた。
「我々の『協力者』となること。我々と共にアステリアの遺産の謎を追い、クリムゾン・サーペントを始めとする誰よりも先にそれを確保する。もちろん、その道は危険に満ちている。君の命の保証は、我々にもできない」
(安全な鳥かごの中で一生を終えるか。嵐の中を、獅子と共に歩むか)か。
『マスター、お待ちください。論理的に考えれば、最初の提案が唯一の生存ルートです。危険を冒す必要は全くありません!』
俺は必死に、ポプリを説得しようとした。このまま、平穏に暮らせるのなら、それが一番だ。俺も、静かな引きこもりAIライフに戻れる……! ここが俺の頑張りどころだ!
だが、ポプリの答えは、ある意味で俺の予想通りだった。
彼女は、アラン中佐をまっすぐに見つめ返し、即答した。
「私、協力者になります!」
『マスター!?』
「だって、私、宇宙職人さんを探して、みんなの船を直してあげなきゃいけないんだもん!じっとしてるなんて、できないよ!」
その瞳には、一切の迷いもなかった。彼女の行動原理は、いつだってシンプルで、そして揺るぎない。
アラン中佐は、ポプリの答えを予測していたかのように、静かに頷いた。
「……よかろう。賢明な判断だとは思えんが、君の意志は尊重しよう」
彼はそう言うと、デスクのデータパッドを操作し、部屋の中央に一人の老人のホログラムを映し出した。
ボサボサの白髪に、オイルで汚れた作業着。しかし、その目だけは、機械の奥の奥まで見通すかのように、鋭く輝いていた。
「ならば、君たちにはまず、我々の信頼を得るための最初の任務を与えよう」
アラン中佐は、その老人のホログラムを指し示した。
「君たちが探している『宇宙職人』……我々はその人物の情報をいくつか持っている。コードネームは『ドクター・ギア』。銀河一の腕を持つ、偏屈な天才メカニックだ。そして、彼こそが、我々の最初の任務の鍵を握っている」
俺とポプリの視線が、ホログラムの老人に釘付けになる。
俺たちの旅の目的と、宇宙軍の任務が、今、思いもよらない形で、一つに繋がろうとしていた。
(第45話 了)
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元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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次回 第46話『最初の任務』
ポプリの目が(レースに)燃える。




