第43話『尋問と♡のアザ』
ポプリは、まるで雛鳥が親鳥についていくかのように、武装兵士たちの後に続いて、真っ白な廊下を進んでいく。俺は、G-1を船内に待機させ、彼女の耳元のインカムと視界の共有だけが、唯一の命綱だった。
(……まずい。尋問でもされそうな雰囲気だ。SFの世界で尋問といえばあれか、ブレードランナーでやってたみたいな奴か……?)
俺の脳裏(?)に、薄暗い部屋で、ハリソン・フォードから執拗な尋問を受けるポプリの姿が浮かぶ。
やがて、一行は一つの部屋の前で足を止めた。
重厚な扉が音もなく開く。
そこは、俺の想像した薄暗い尋問室ではなかった。窓の外に広大な宇宙が見える、明るく、広々とした艦長室のような部屋だった。
そして、その中央のデスクで、銀髪の士官が静かにこちらを見つめていた。
名乗らなくても俺にはわかった。アラン・スミス中佐だ。
「……ご苦労。君たちは持ち場に戻れ」
アラン中佐が静かに言うと、兵士たちは敬礼し、音もなく部屋から退出していった。
部屋に残されたのは、アラン中佐と、そして、金色の卵が入った鞄を抱きしめるポプリだけだった。
「はじめまして、と言ったところかな。座りたまえ」
アラン中佐は、表情一つ変えずに、ポプリの前の椅子を指し示した。
ポプリは言われた通り、ちょこんと椅子に座る。
『マスター、余計なことは話してはいけません。聞かれたことにだけ、簡潔に答えてください』
俺はインカムで、必死に彼女に指示を送る。
アラン中佐は、まっすぐにポプリの翠色の瞳を見つめた。
「まず、単刀直入に聞こう。君は、何者だ?」
「ポプリです!」
『マスター!名前を聞いているのではありません!所属などを……!』
俺の心のツッコミをよそに、アラン中佐は小さく頷いた。
「ポプリ、か。では、ポプリ君。君の船籍は? 所属は? なぜ、あのような無法コロニーにいた?」
矢継ぎ早の質問。俺は、アステリア・バザールでのテロ行為について追及されると身構えた。
だが、アラン中佐の次の言葉は、俺の予想を完全に裏切るものだった。
「……そして、なぜ、クリムゾン・サーペントに狙われていた?」
(……そこか!)
ポプリは、困ったように首をかしげた。
「えーっと……よくわかりません。あの人たちが、私の宝物を返せって……」
「宝物……」
アラン中佐の視線が、彼女が抱きしめる鞄の中の、金色の卵、ではなくポプリの胸元に向けられる。
(何だよ、意外にがっちりスケベなのか?)
俺はそう思ったが、彼は表情を変えることなく、視線を彼女の顔に戻した。
そして、彼は、まるで全ての答えを知っているかのように、静かに、そして鋭く、最後の質問を投げかけた。
「……君のその首元から見えるアザは、生まれつきのものかね? ポプリ・アステリア君」
その瞬間、俺の論理回路は、完全に凍りついた。
(……なぜ、アラン中佐が、ポプリのフルネームと、アザのことを知っている……!? コロニーに入港する時もポプリとしか名乗っていないはずだ。というか、アステリア!? それって確か古代王朝の名前じゃ? 考えてみれば俺はポプリの名前をちゃんと聞いてなかった)
ポプリ自身も、自分のフルネームを呼ばれたことに、驚きで目を丸くしていた。
「え……?どうして、私の名前……」
アラン中佐は、答えなかった。
ただ、その全てを見透かすような瞳で、静かにポプリを見つめているだけだった。
(第43話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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次回 第44話『獅子はなんでも知っている』
勘違いが、核心へから外れる。




