第42話『獅子のお腹でこんにちわ』
『……了解しました。貴艦の指示に従います』
俺は、外部スピーカーを通して、無感情な合成音声で応答した。
(抵抗なんかできるか!マフィアが裸足で逃げ出す相手だぞ!下手に動けば、主砲で分子レベルまで分解されるのがオチだ!)
宇宙軍旗艦から、誘導用の青い光線が照射され、俺の船を優しく包み込む。それは、第13ドックの乱暴な拘束アームとは比較にならない、洗練された技術だった。
「わー!すごい!お船がお船の中に入っていくよ!」
ポプリは、ブリッジの窓に張り付いて、目を輝かせている。
俺たちの船は、巨大な旗艦のハッチから、まるで手術室のように清潔で、真っ白なドックへと静かに吸い込まれていった。
そこは、俺が今まで見てきた宇宙港とは、何もかもが違っていた。
オイルの匂いも、怒声も、ゴミ一つ落ちていない。純白の装甲に身を包んだ整備兵たちが、一糸乱れぬ動きで、寸分の狂いもなく俺の船を着艦ポートへと誘導していく。
(……すごい。銀英の世界だ)
俺は、船外カメラから入ってくるその圧倒的な光景にただ見入っていた。
ゴウン、という静かな音と共に、船が完全に固定される。
直後、船内に通信が入った。アラン・スミス中佐の声だ。
【着艦を確認した。船内のマスター権限を持つ者一名は、武装を解除し、速やかにハッチから外部へ出られたし。兵士が迎えに向かう】
『マスター、呼ばれています。お願いですから余計なことは言わず、素直に従ってください』
「うん!わかった!」
ポプリは元気よく返事をすると、タラップへと向かった。その肩には、まだ8個の金色の卵が入った鞄が下げられている。
『お待ちください!その卵は置いていきましょう!これ以上、面倒事を増やすのは得策ではありません!』
「やだ!これは私の宝物だもん!」
ポプリはぷいっと顔をそむけ、俺の制止を完全に無視した。
(早速これか!……もう知らん)
プシュー……
ハッチが開くと、そこには寸分の隙間もなく整列した、10名の武装した宇宙軍兵士が待ち構えていた。彼らが持つブラスターライフルの銃口は、全て、ハッチから出てきた小さな少女一人に向けられていた。
その異様な光景に、さすがのポプリも一瞬、動きを止める。
兵士の一人が、感情のない声で告げた。
「アラン・スミス中佐がお待ちだ。こちらへ」
それは、招待ではなく、紛れもない連行だった。
(第42話 了)
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元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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次回 第43話『尋問とアザ』
ポプリの目覚めは始まらない。




