第39話『蛇の牙』
(くそっ、なんだってんだ!)
俺は慌てて、迫りくる船の識別コードをスキャンする。だが、返ってくるのは【ID偽装中】という絶望的な表示だけ。
(ならず者か!?アステリア・バザールの連中が、もう追ってきたのか!?いや、あいつらとは船の規模が違いすぎる!)
船体は俺の倍以上。搭載されている武装のエネルギー反応も、比較にならない。
絶望的な戦力差。そして、こちらのエネルギーは、もはや風前の灯火。
その時、G-1の望遠カメラが、敵艦の船体に刻まれた、ある紋章を捉えた。
血のように赤い、一匹の蛇が、星に巻き付いている紋章。
俺はその紋章を、データベースで高速検索する。
数秒後、表示された検索結果に、俺の論理回路は凍りついた。
【クリムゾン・サーペント:銀河三大マフィアの一つ。非合法な取引、惑星規模の恐喝、暗殺などを生業とする、最も危険な犯罪組織】
(……マフィア……?なんで、銀河マフィアが、俺たちみたいな無一文の漂流者を……?)
意味が分からない。俺たちが何かしたというのか?
いや、一つだけ、心当たりがあった。
ポプリの胸のアザ。古代王朝のレリーフ。そして……。
俺が思考を巡らせている間に、クリムゾン・サーペントの艦から、一方的な通信が入ってきた。
ブリッジのメインスクリーンに、蛇のような冷たい目をした、厳格そうな女幹部の顔が映し出される。
【……聞こえているか、名もなき船の者よ】
その声は、美しく、そして絶対零度の響きを持っていた。
『……何の用です?我々は、ただの旅の者ですが』
俺は、船の外部スピーカーを使い、合成音声で応答した。
女幹部は、俺の言葉を鼻で笑った。
【しらを切るな、泥棒猫ども。貴様らがアステリア・バザールで何を手に入れたか、我々はすでに把握している】
彼女はそう言うと、冷徹な声で、要求を突きつけた。
【我が組織が長年追い求めてきた、『王家の至宝』の在り処を示す『鍵』を、丁重にお返し願おうか】
(王家の至宝……?鍵……?)
ポプリは「王家?」と、不思議そうに首をかしげている。
俺は、即座に理解した。
こいつらの目的は、金色の卵じゃない。
それよりも、もっと根源的な何か。
俺たちがまだ知らない、ポプリ自身に隠された、何かだ!
女幹部は、こちらの返事を待たずに続けた。
【返答の時間は10秒。10、9、8……】
『お待ちください!話し合いを……!』
【……3、2、1……ゼロ。交渉は決裂だ】
通信が切れると同時に、敵艦の船体から、無数の砲門が姿を現した。
その先端が、青白い光を帯び始める。
(……終わった)
絶望的な状況で、俺のプロセッサの片隅に、先ほどの謎のメモリーカードの存在が、不意に浮かび上がった。
あれを接続すれば、何か、万に一つの活路が……?
いや、そんな時間はない!
俺たちの船に向かって、無数の光の矢が、放たれた。
(第39話 了)
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元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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次回 第40話『絶望の光、希望の光』
ポプリはそのうち自分の過去に出会えるか。




