第38話『パンドラの箱』
【外部ストレージを検知。システムに接続しますか? YES / NO】
俺のメインスクリーンに、無機質な二択が提示される。
その背後では、ポプリが「何これ、なあに? 押してみようよ!」と、キラキラした目でパネルを覗き込んでいた。
(待て、待て待て待て!)
俺は、前世で培った引きこもりとしての(数少ない)知識と経験を総動員して、この状況の危険性を分析した。
(素性の知れないメモリをいきなりPCに挿すのは、一番やっちゃいけないことだ!ウイルス!トロイの木馬!最悪の場合、俺のシステムが乗っ取られる!)
前の乗組員からのメッセージかもしれない。この船の謎を解く、重要な鍵かもしれない。
だが、もしこれが罠だったら? 俺というAIの存在そのものを破壊する、強力なデータ爆弾だったら?
俺は、この得体の知れないメモリーカードを、「パンドラの箱」だと結論付けた。
『お待ちくださいマスター!それは危険です!未知のデバイスをシステムに接続するのは、論理的にリスクが高すぎます!』
「えー、でも、さっきの日記の人が残してくれたんでしょ? きっといいことに決まってるよ!」
ポプリは、楽観的にそう言って、パネルの「YES」の部分を指でつつこうとする。
『やめてください!マスターのその「大丈夫」は、全く大丈夫だった試しがありません!』
俺が悲痛な叫びをインカムで送った、まさにその瞬間だった。
ウウウウウウウウウウウウッ!
船全体に、これまで聞いたこともない、けたたましい緊急警報が鳴り響いた!
隠し部屋の照明が赤色に明滅し、俺のスクリーンには、見たこともない警告ウィンドウが強制的に表示される。
【警告:高エネルギー反応、急速接近!】
【予測針路、本艦と完全に一致!衝突まで、残り120秒!】
『なっ……!?』
「きゃっ!なに、今の音!?」
ポプリも、さすがにただ事ではないと察したようだ。
俺は即座に船の全センサーを外部に向け、ブリッジのメインスクリーンに映像を転送する。
そこには、漆黒の宇宙空間を切り裂くように、一隻の宇宙船が、凄まじい速度でこちらに迫ってくる姿が映し出されていた。
流線型で、生物的なフォルム。俺の船とは明らかに違う、攻撃的なシルエット。それは、ただの輸送船や民間船ではなかった。
それは、軍艦だった。
(第38話 了)
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元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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次回 第39話『蛇の牙』
一足先に自由になってなに? 美味しいの?




