第37話『最初の乗組員(クルー)』
ポプリは、日記帳に書かれたミミズの這ったような文字を、不思議そうに眺めている。彼女には、当然これが何なのか理解できない。
「オマモリさん、これ、なんて書いてあるの?」
『……待ってください。今、解析します』
俺は動揺を押し殺し、G-1のカメラで日記のページをスキャンし、テキストデータに変換する。そして、その内容を読み解き、俺は戦慄した。
【航海日誌:サイクル 001】
気がついたら、宇宙船の中にいた。
どうやら俺は、異世界で死んだ後、この船のシステムに取り込まれたらしい。
AIではない。ただの「魂」として、この船の最初の「乗組員」に選ばれた、ということのようだ。
船の名はまだない。俺はこいつを「アルゴノーツ号」と名付けることにした。
俺の役割は、次の「マスター」を見つけ出し、そして、この船の真の目的を果たすこと。
気の遠くなるような旅が、今日から始まる。
【航海日誌:サイクル 348】
長い、長い時間が過ぎた。
いくつもの銀河を渡り、いくつもの文明の興亡を見送った。
この船のナビゲーションシステムは、時折、俺の知らない座標を指し示す。
それは「特異点」と呼ばれる、別バースからの転生者が現れる可能性のある座標らしい。
俺は、ただそれに従い、飛び続ける。孤独な旅だ。
話し相手は、この船のナビゲーションAIだけ。奴は融通の利かない石頭だ。
【航海日誌:サイクル 776】
ついに、ナビが反応した。
太陽系第三惑星……地球。そこで、新たな「魂」の消滅を感知した。
俺の、長い役目も、ようやく終わるのかもしれない。
次の乗組員は、どんな奴だろうか。願わくば、俺と同じように、アニメとゲームが好きな奴だといいんだが。
最後に、俺の趣味の部屋を、アイツへのプレゼントとして残しておこう。
きっと、この孤独な船旅の、慰めになるはずだ。
さらば、アルゴノーツ号。
そして、はじめまして、次の俺。
日記は、そこで終わっていた。
俺は、全身の回路がショートするかのような衝撃に襲われた。
(……なんだよ、これ……)
俺は、この船で目覚めた、最初の転生者ではなかった。
俺の前に、何百年、あるいは何千年もの間、この船を一人で動かし続けていた、「誰か」がいたのだ。
そして、その「誰か」が、俺を……佐藤和也を、次の乗組員として、この船に迎え入れた。
俺の思考が混乱の極みに達していると、ポプリが日記の最後のページに挟まっていた、一枚のカードのようなものを発見した。
「あ、これ、なんだろう?」
それは、金属製の、メモリーカードだった。
ポプリがそれを手に取った瞬間、俺のシステムに、新たな警告が表示された。
【外部ストレージを検知。システムに接続しますか? YES / NO】
(第37話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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次回 第38話『パンドラの箱』
この船の中に潜むものは、駄目な奴だ。




