第36話『誰かの部屋』
『……なんだ……ここは……?』
俺の思考は、完全に停止していた。
目の前に広がる光景が、俺の論理回路の理解を完全に超えていたからだ。
壁一面のポスター。知らないアニメだが、描かれているのは魔法少女のようなキャラクターや、巨大なロボット。棚に整然と並べられたフィギュアは、前世の俺が喉から手が出るほど欲しがったであろう、限定品のガレージキットを思わせる精巧さだ。
(……なんで、こんな部屋が、この船に……?)
「わー!すごい!オマモリさん、見て!可愛い女の子がいっぱいいるよ!」
ポプリは、まるで友達の部屋にでも遊びに来たかのように、無邪気にはしゃいでいる。彼女は壁に貼られたポスターの、ピンク髪のツインテールのキャラクターを指さした。
「この子、なんだか私に似てない?」
(似てる……。髪の色も、髪型も……偶然か?)
俺が混乱していると、ポプリは部屋の中央に鎮座する、フルダイブ型のVRゲーム機らしきものに興味を示した。
「これは何?ゴーグル?」
『分かりません……。私のデータベースにも、この部屋に関する情報は一切ありません』
それは、嘘偽りのない事実だった。AIとしてこの船と一体化しているはずの俺が、この部屋の存在を今まで全く知らなかったのだ。それはまるで、俺の脳の中に、俺自身も知らない隠しフォルダがあったかのような、気味の悪い感覚だった。
俺はG-1を部屋に侵入させ、隅々までスキャンを開始する。
空気成分……異常なし。生命反応……なし。だが、奇妙なことに、この部屋だけは船の他の区画と完全に隔絶されており、エネルギー供給も独自の小型ジェネレーターで行われているようだった。俺が船全体のロックをかけても、この部屋だけは影響を受けなかったはずだ。
(誰かが、意図的に、俺に隠れてこの部屋を維持していた……?誰が?何のために?)
俺の思考が謎の迷宮に迷い込んでいると、ポプリが机の上の、一冊の古びた本を手に取った。
「あ、これ、日記かな?」
それは、革の表紙がついた、アナログな日記帳だった。
ポプリがその表紙をめくった瞬間、俺は息を呑んだ。
そこに書かれていたのは、俺の知らない古代宇宙文字でも、異星の言語でもない。
前世の俺が使っていた、見慣れた日本語だった。
(第36話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
「面白い!」「続きが気になる!」「ポプリのやらかしをもっと見たい!」
と少しでも思っていただけましたら、ぜひブックマークや、ページ下部の【★★★★★】で評価をいただけますと、作者の執筆速度が3倍になります!(※個人の感想です)
毎日【11:00】と【22:00】更新となります。ぜひお見逃しなく!
次回 第37話『最初の乗組員』
愛(AI)が互いを分かつまで。




