第35話『開けてはいけない扉』
『マスター、そちらの区画は現在、隔壁がロックされています。進入は不可能です』
俺は、G-1を船内で追従させながら、ポプリに冷静に事実を告げる。
彼女がブリッジを飛び出してから、すでに30分が経過していた。船内を探検すると意気込んでいたポプリだったが、居住区、倉庫区画、機関室……そのほとんどが、エネルギー節約のために俺がロックした、分厚い隔壁に阻まれていた。
「むー!ここもダメかー。オマモリさん、ケチだもんね!」
『論理的な判断です』
「じゃあ、あっち!」
ポプリは、船の最下層へと続く、狭い通路を指さした。
そこは、俺のシステムマップでも「用途不明区画」と表示されている、俺自身もよく知らない場所だった。普段は気にも留めていなかったが、そういえば、この区画だけはロックをかけていなかった。
『……マスター、そちらはデータベースにも詳細がないエリアです。危険かもしれません』
「だから、探検のしがいがあるんじゃない!」
ポプリは、まるでホラー映画の登場人物のように、死亡フラグをものともせずに突き進んでいく。
やがて、彼女は通路の突き当たりにある、一つの扉の前にたどり着いた。
それは、船内の他の扉とは明らかに異質だった。
装飾的な意匠が施され、中央には、俺のデータベースのどの言語にも属さない、古代文字のようなものが刻まれている。
「わー、なんかすごそうな扉!」
ポプリは、扉の中央にある認証パネルに、何の気なしに手を伸ばした。
『お待ちくださいマスター!それに触れては……!』
俺が警告を発した、その瞬間だった。
ポプリの手がパネルに触れると、パネルは青白い光を発し、彼女の手のひらをスキャンした。
そして、無機質な合成音声が、船内に響き渡った。
【……生体ID照合……マスター候補の一致を確認……】
【隠しプロトコル、第二段階(フェーズ2)を起動します】
『なっ……!?』
俺の知らないプロトコル?マスター候補だと?
ゴゴゴゴゴ……
重々しい音を立てて、目の前の扉がゆっくりと開き始めた。
そして、その奥から現れたのは、ただの倉庫ではなかった。
そこは、まるで誰かの「部屋」だった。
壁には、見たこともないアニメのポスター。棚には、精巧なロボットのフィギュア。そして、部屋の中央には、前世代の遺物であるはずの、フルダイブ型のVRゲーム機らしきものが、静かに鎮座していた。
それはまるで、前世の俺……「佐藤和也」が夢見た、理想の引きこもり部屋そのものだった。
そして、その部屋の机の上に、一冊の日記帳らしきものが、ポツンと置かれていた。
(第35話 了)
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元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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次回 第36話『誰かの部屋』
流されるAIの涙で、渇きを癒す。




