第33話『クリムゾン・サーペントの嗅覚』
その頃、アステリア・バザール第13ドックは、復旧作業の混乱の極みにあった。
管理事務所では、金歯の爬虫類型宇宙人――ドックマスターのグレックスが、怒りのあまり机を叩き壊していた。
「あのガキとポンコツ船はどこに行った!見つけ出せ!宇宙の果てまで追いかけて、八つ裂きにしてやる!」
部下の一人が、おずおずとデータパッドを差し出した。
「ボス……。停電の原因を調査していましたが、それよりも……奇妙なデータが見つかりました」
「あぁ?」
「例のガキの、生体認証スキャンのデータです。大部分は標準的なヒューマノイド種のものですが、ごく一部に……見たこともない、強固な暗号化が施されたデータブロックが偽装されていました」
グレックスは苛立ちながらも、そのデータパッドをひったくった。
画面には、意味不明な文字列と、複雑な幾何学模様が表示されている。
「なんだこりゃ、ただのバグじゃねえのか」
「それが……この暗号キーのパターンに、見覚えがあったんです。古代アステリア王朝の遺跡から発掘される遺物に刻まれている紋章と、酷似しています」
部下はそう言うと、別の画像を表示した。それは、壁画に描かれた、胸にハートの紋章を持つ、古代の王族の姿だった。
グレックスの動きが、ピタリと止まった。
彼の脳裏に、伝説が蘇る。宇宙の半分を支配した古代王朝。そして、その末裔だけが知るという、星系を丸ごと買えるほどの莫大な財宝の伝説。
「……アステリア……」
グレックスは、ゴクリと喉を鳴らした。
「……まさか……」
彼は震える手で、外部通信回線を開いた。
「……こちら、第13ドック、グレックス。クリムゾン・サーペントの幹部の方へ、緊急の連絡だ。……ああ、そうだ。とんでもない『獲物』の匂いがする。……伝説の、『王家の宝の地図』の匂いがな……」
通信の向こうで、冷たい声が短く応えた。
【……詳しく聞こう】
その数時間後。
アステリア・バザールの暗礁宙域に停泊していた、一隻の漆黒の巨大戦艦が、静かにそのエンジンを起動させた。
その船体には、血のように赤い蛇の紋章が描かれていた。
オマモリさんとポプリはまだ知らない。
自分たちが、銀河で最も厄介で、最も執念深い蛇に、その匂いを嗅ぎつけられてしまったことを。
彼らののんびりとした漂流が終わりを告げようとしていた。
(第33話 了)
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元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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次回 第34話『腹ペコと鉄の掟』
復讐するは、胃袋にあり。




