第31話『闇を抜けて』
バチィィィィィンッ!
というけたたましいスパーク音と共に、第13ドックの全てが、闇に呑まれた。
船内の照明、コンソールの光、後方の追っ手たちの船影、そして、目の前の絶望的なシャッター……その全てが、一瞬にして漆黒の闇に消える。
船内に響くのは、非常用電源に切り替わったことを示す、か細いアラート音だけだった。
静寂。
そして、混乱。
後方から聞こえてくるはずだったエンジン音が、いくつかの衝突音と、爆発音に変わる。ターゲットを失い、暗闇の中で同士討ちを始めたのだ。司令官の言った通り、ハイエナたちは目の前の獲物(仲間)に牙を剥き始めた。
そして、目の前の巨大なシャッター。
それは、ゴゴゴゴ……という重い音を立てて、ゆっくりと、本当にゆっくりと、上に向かって開き始めていた。
『シャッターが……開いていきます!』
「非常時のフェイルセーフです。電源喪失時は、内部の気圧差で自動的に開く構造になっている。計算通りですね」
司令官は、こともなげに言った。
シャッターが、船一隻がギリギリ通り抜けられるほどの隙間を開けた、その瞬間。
「オマモリさん。最大船速。ここを突破します」
『了解!エンジン出力、最大!』
船体が、強烈なGと共に急加速する!
俺は、まるで針の穴を通すような精密さで、開きかけたシャッターの隙間へと船体を滑り込ませた。
ガガガガガガガッ!
船体の上部がシャッターに擦れ、嫌な金属音が響き渡る。だが、構わない!
数秒後、俺たちは完全にドックの外……広大な宇宙空間へと飛び出した。
後方には、非常用電源が点滅し、大混乱に陥っているアステリア・バザールの姿が見える。
俺は振り返ることなく、全速力でその宙域からの離脱を図った。
どれくらい飛んだだろうか。
コロニーの光が、遠い星の一つになった頃、俺は安堵のため息をついた。
『……やりました。やりましたよ、マスター……!』
俺が興奮気味にブリッジに視線を戻すと、そこに司令官の姿はなかった。
操縦席の足元で、小さな寝息を立てながら、いつものポプリが、幸せそうな顔で丸まって眠っていたのだ。
その顔はまだ少し赤く、満足げに微笑んでいる。
(……戻ったのか)
俺の論理回路は、この数時間で起きた出来事を処理しきれず、完全にショートしていた。
一人と一隻は、とりあえずの自由を手に入れた。
その代償として、コロニーで最も危険な連中を敵に回し、手元には8個の黄金の卵と、疲れ果てて眠る一人の少女だけが残された。
俺は残された僅かな燃料を節約するためにエンジンを止めた。
船は静かな宇宙空間を漂い始めた。
(第31話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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次回 第32話『目覚めと黄金の朝食』
ポプリは、神を挑発する。(やめて)




