第30話『五秒間の無政府状態(アナーキー)』
『りょ、了解しました……!』
俺は、司令官と化したポプリの命令に、反射的に応えていた。
(正気か!?ドックの電源を落とすなんて!そんなことしたら、ただのチンピラとの喧嘩じゃ済まなくなるぞ!テロ行為だ!)
俺の論理回路が最大級の警報を鳴らす。リスク、危険度、その後の追手の規模……あらゆる予測が、破滅的な未来を指し示していた。
だが、ポプリの翠色の瞳は、一切の迷いを映していなかった。その瞳は、俺の予測するリスクの、さらに先を見据えているようだった。
(……もう、乗るしかない!この無茶苦茶な作戦に!ビックウェーブに!)
『G-1、船倉ハッチより射出!目標、管理事務所の主電源ケーブル!』
俺の思考とシンクロし、船体下部の小さなハッチが音もなく開く。手のひらサイズの球形ドローン「G-1」が、宇宙空間へと静かに射出された。
ドックの管制システムは、まだ俺たちの船と、後方の追っ手たちに気を取られている。G-1の存在には、誰も気づいていない。
俺はG-1のカメラ映像に意識を集中させる。それはまるで、前世でやりこんだステルスアクションゲームの画面のようだった。
『G-1、光学迷彩、最大レベル。ドック下層のメンテナンスルートに侵入します』
ドローンは闇に溶け込むように姿を消し、ドックの壁面に張り付くと、小さな排熱口から内部へと侵入していく。
汚れたパイプと、剥き出しのケーブルが迷路のように入り組む、狭い通路。俺は司令官がスキャンした構造図を頼りに、G-1を最短ルートで進ませた。
数分後、ドローンは目標にたどり着いた。
壁一面に設置された、巨大なジャンクション・ボックス。そこには、人間の胴体ほどもある極太の主電源ケーブルが接続されていた。
『目標ポイントに到達。いつでも破壊可能です』
司令官は、メインスクリーンに表示された追っ手たちの位置と、シャッターの構造を冷静に見比べ、そして、完璧なタイミングを計っていた。
「……後方、第二波の追っ手がドック内に侵入。シャッター前のハイエナどもは、我々の船をどう解体するかで揉めています。好都合ですね」
彼女は冷ややかにそう呟くと、最終的な指示を下した。
「オマモリさん。私が合図をしたら、ケーブルを切断してください。その後、このドックの全システムがダウンしてから、非常用電源が起動するまで、約5秒のタイムラグが発生します。その5秒が、我々の唯一のチャンスです」
『……5秒』
「ええ。その間に、我々はこの宙域を離脱する。よろしいですね?」
『……了解』
俺はゴクリと喉を鳴らした(という感覚に襲われた)。
司令官は、ゆっくりとカウントを開始した。
「……3」
後方の追っ手が、威嚇射撃を始めた。船体に、小さな衝撃が走る。
「……2」
俺はG-1の武装システムに、全エネルギーをチャージする。
「……1」
司令官の瞳が、鋭く光った。
「――今です」
『撃てぇぇぇっ!』
俺の絶叫と共に、G-1から放たれた小さなプラズマ弾が、主電源ケーブルの接続部分に、寸分の狂いもなく着弾した。
(第30話 了)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。
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次回 第31話『闇を抜けたら、また暗闇』
飢えたるポプリは常に問い、答えの中にはいつも馬鹿。




