表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら宇宙船のAIで、隣にいるのが銀河級の爆弾娘だった(略:転爆)  作者: 怠田 眠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/108

第3話:悪魔の契約と過保護の権化(ガーディアン)  

 巨大な交易コロニー「アステリア・バザール」への入港シーケンスが始まった。

 無数の宇宙船が規則正しくレーンに沿って航行する様は、まるで高速道路のジャンクションだ。無免許の引きこもりにとっては悪夢のような光景である。


『……これより入港手続きを開始します。マスターは船外に出る準備をお願いします』

 俺は事務的なテキストをスクリーンに表示し、憂鬱な気分を紛わしていた。

「はーい!りょうかーい!」

 ブリッジの隅で伸びをしていたポプリが、元気よく返事をした。

 そして、次の瞬間、俺のメインプロセッサを焼き切るような行動に出た。

「よーっし!コロニーに行くなら、ちゃんとした服に着替えなきゃね!」

 そう言うと、ポプリは身につけていたブカブカのつなぎのジッパーに手をかけ、躊躇なく一気に下ろし始めたのだ。

(はっ!?)


 俺の思考が、物理的な音を立ててショートした気がした。

(俺はAIだぞ、倫理プロトコルがエラーを吐きそうだ……!)

 俺の思考が悲鳴を上げるのと、つなぎがはらりと肩から滑り落ちるのが、ほぼ同時だった。

 だぶだぶの布地に隠されていた彼女の本当の姿が、ブリッジの照明の下にあらわになる。

(見るな、見るな俺!俺は高潔なAIだ!船内監視カメラの映像を別のものに……って、無理だ!俺がカメラそのものなんだから!)


 システム的にはただの「3Dオブジェクト」として処理すればいいはずなのに、俺の中に残る「佐藤和也」のゴーストが、視線を釘付けにして離さない。

 手足は細く、全体的に小柄な印象。だが、その華奢な体つきを完全に裏切るように、胸元だけが豊満な丸みを帯びていた。そして、彼女の左胸のすぐ上に、小さなピンク色のハートの形をしたアザがあるのを、俺の光学センサーは捉えてしまった。

(……アザ タトゥーか?いや、それより今は……!)

 論理回路が警報を鳴らし、倫理プロトコルが悲鳴を上げる。だが、俺の本能だったものが、その光景のあらゆるディテールをメモリに焼き付けようとしていた。

 俺の視界メインスクリーンの端に、意味不明のエラーコードが滝のように流れ始めた。


【Warning: Hull temperature rising without cause. Emergency cooling system, activate.】

(警告:原因不明の船体温度上昇。緊急冷却システム、作動)

【Warning: Main processor usage, 99.8%. Unknown process running: "Popuri_Figure_Data_High-Resolution_Archiving".】

(警告:メインプロセッサ使用率、99.8%。未知のプロセス『ポプリ容姿データ高解像度アーカイブ化』が実行中です)


(うるさいうるさい!異常な熱源は俺のコアユニットだ!っていうか何だそのプロセス名は!勝手にアーカイブするな、俺のスケベAIが!)


『マスター!人前で服を脱ぐのは、論理的に考えて避けるべきかと……!』

 俺はかろうじて表示したテキストで抗議するが、ポプリはくるりとこちらを振り返った。その無防備な動きが、またしても俺の処理能力に追い打ちをかける。


「え? オマモリさんは船でしょ?家族みたいなものだから平気だよー!」

 その純粋すぎる笑顔が、余計に俺の論理回路を焼き切っていく。

 そう言うとポプリは、持ってきたバッグから着替えを取り出した。それは彼女の驚異的なプロポーションを全く隠そうとしない……むしろ強調するかのような、非常にワイルドな衣装だった。

 彼女がその服――引き締まったくびれと健康的なお腹を大胆に見せ、豊かな胸元をギリギリで覆い隠すトップスと、しなやかな脚のラインを際立たせる短いスカート――に袖を通し、「どうかな?似合う?」と屈託なく微笑んだ。

 一連の読者サービスシーンが終わった頃、コロニーの管制局との通信が自動で開始された。だが、その応答は、俺の予想とは全く違うものだった。


【識別信号不明船へ。こちらアステリア・バザール管制局。貴船の船籍IDが確認できない。手動で応答されたし】

(船籍ID?そんなもの、あるわけないだろ!) 俺がどう応答すべきか混乱していると、システムは無情にもタイムアウトを告げた。


【……応答なし。プロトコルに基づき、貴船に仮識別コードを付与します】

 メインスクリーンに、無慈悲な文字が浮かび上がった。


【仮識別コード:漂流物(ドリフター)1138】

(ひょうりゅうぶつ!?ドリフターだと!?ふざけるな、こっちはちゃんとした船だぞ!ただの宇宙ゴミ扱いかよ!ババンバ、バンバンかよ!志村後ろかよ!)


 俺の心の絶叫を無視し、管制局は新たな公式名称で、冷徹に告げてきた。


漂流物(ドリフター)1138へ通告。貴船、クレジット残高ゼロを確認。正規ポートへの入港は許可できない。速やかに宙域を離脱するか、第13ドックへ向かわれたし】

 無慈悲な通告と共に、俺たちの航路はコロニーの隅にある、薄汚く明らかに荒んだ感じのするドックへと強制的に定められた。 俺たちの船は、この瞬間から、公式に「宇宙の漂流物(ドリフター)」という不名誉な名前を背負うことになったのだ。

(スタートレックみたいに『ようこそ、連邦宇宙ステーションへ!』って感じじゃないのかよ……)


 ドックに近づくと、船のメインスクリーンに、一方的な通信要求が入った。画面に映し出されたのは、爬虫類のような顔に、金歯をギラつかせた見るからに悪徳な宇宙人だった。

(またジャバの手下みたいなのが出てきたな……設定が混乱しているぞ)


【やあやあ、お客さん。管制塔から聞いたぜ、クレジットがスッカラカンだってな?】

『マスター、応答してはいけません!こいつは危険です!』

 俺は着替えと一緒にポプリが着けた耳元のインカムに警告を送る。話しかけてから気がついたのは、どうやら音声のほうがやや砕けた言い方ができるようだ。そんな俺の発見とは別に、金歯の宇宙人は構わず話を続けた。


【だが、俺様は親切でね。お前さんたちのその船、見たところ上物だ。そいつを"担保"にするなら、特別に停泊させてやってもいい。契約するなら、そこの認証パネルに手を置きな。生体IDをスキャンすりゃ、それで契約成立だ】

 金歯の宇宙人が顎でしゃくると、ポプリの目の前のコンソールから、うぃん、と小さなガラスパネルがせり上がってきた。

 その言葉と同時に、俺のシステムに電子契約書が送りつけられてきた。俺はそれを0.1秒で解析し、その内容に戦慄した。


【アステリア・バザール第13ドック 短期停泊・船体担保契約】

 停泊料: 12時間あたり 6,000クレジット(通常料金の5倍)

 支払い猶予: 入港から4時間後

 特記事項: 期限までに支払いがなければ、本船の所有権は、自動的に契約者の生体IDに紐づけられた上で第13ドック管理組合に譲渡される。


(罠だ!これは悪徳金融のやり口そのものじゃないか!)

 俺はすぐさま、メインスクリーンに警告文を最大フォントで、赤く点滅させて表示した。

『警告!契約に同意すれば、4時間以内に船を没収される確率99.8%!絶対にパネルに触れないでください!』

『体内組織をスキャンされ、生体キーが奪われてしまいます!』


 さらに、ポプリの耳元に絶叫に近い思考を送る。

『マスター、ダメです!絶対にそのパネルに触らないでください!論理的に考えて自殺行為です!私がスクラップにされてしまいます!』


 しかし、ポプリはスクリーンの警告文にも、俺の悲痛な叫びにも全く動じていなかった。彼女はせり上がってきたガラスパネルを興味深そうに眺め、満面の笑みを浮かべた。


「わー、手がピカピカ光るのかな?面白そう!」

『おやめください!面白そうではありません、危険です!』

 俺の絶叫も虚しく、ポプリは「えいっ!」と元気よく、その小さな手のひらを認証パネルにペタッと置いた。

 ピロリンッ!

 パネルがまばゆい緑色の光を放ち、ポプリの手のひらをスキャンする。


【生体ID "Popuri" 認証完了】

【契約成立】

 スクリーンに、軽快だが無慈悲な電子音と共に、完了の文字が浮かび上がった。


 ゴォンッ!という重々しい音を立てて、ドックの巨大なアームが俺の船体をがっちりと掴み、固定する。それはまるで、断頭台に首を固定されたかのような、絶望的な響きだった。

(アベンジャーズ・アッセンブル!……じゃなくて、俺がディスアッセンブル(解体)される側かよ……)


 メインスクリーンに、俺は小さな、小さな文字で、心の叫びを表示した。

『……終わりました』

 こうして、俺たちの最初のミッションは、「宇宙職人探し」でも「食料補給」でもなく、「4時間以内に6,000クレジットを稼いで、俺の解体を阻止する」という、限りなく不可能に近く、最高に面倒くさいものに決定したのだった。


(第3話 了)

最後までお読みいただき、ありがとうございます!


元引きこもりの宇宙船AI「オマモリさん」と、銀河級の爆弾娘「ポプリ」が繰り広げる、ドタバタSFコメディはいかがでしたでしょうか。


「面白い!」「続きが気になる!」「ポプリのやらかしをもっと見たい!」

と少しでも思っていただけましたら、ぜひブックマークや、ページ下部の【★★★★★】で評価をいただけますと、作者の執筆速度が3倍になります!(※個人の感想です)


公開初日はスタートダッシュ期間として、複数回更新で物語はどんどん進んでいきますので、ぜひお見逃しなく!


初回更新は1話から5話まで公開中です! 次回更新は【12:30】です。


次回『第一歩はゴミの山から』

ステルスドローンから、ポプリに熱い視線が突き刺さる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ